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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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59 学院生活2

●アラン・ドヌブ

 ドヌブ村の馬鈴薯農家の長男。黒髪黒瞳。スキルは【雷魔術】。


●トマ・アライソン

 平民。金短髪。スキルは【あおり耐性】。


●アンネ・ヘッシャー

 赤髪。平民。


●リリィ・マーケル

 白髪。平民。シーレ家の雇われ魔術師。


●セバスティアン・シーレ

 伯爵家の御曹司。オレンジ色のおかっぱ頭。"本物"(のアホ)認定された上、グレアムの地雷を踏んでボコボコにされた。

 Cクラスは人数が多いため教室も複数になる。クラス担任制度もないため、Cクラス生徒は適当な教室を選ぶことになる。


「……」


 さて、どの教室に入ろうかと迷っていると、誰かが誰かを呼んでいる声が聞こえた。


「レビイ! レビイ!」


「……? ……っ!」


 自分のことだと気づいたグレアムは慌てて振り向いた。


 いくつかのベンチが置かれている休憩所と思しき空間。そこに座るアランがグレアムを呼んでいた。近くにはトマ・アライソンとアンネ・ヘッシャー、そして、リリィ・マーケルもいる。リリィは軽くグレアムに会釈してきた。それに軽く頷きで返すと、アンネが訝しげな面持ちを向けてくる。


 平民である彼らと、下級貴族という体裁で入学したグレアムはオリエンテーションから別となった。グレアムはその後、クラス分け試験で不祥事を起こし謹慎することになる。夕食もソーントーンが食堂から運んだ食事を自室で済ませているので、実に一日ぶりの再会となる。


 周囲を見回せば、他に生徒はいない。ほとんどの生徒は既に教室に入っているのだろう。聖国貴族ともめ事を起こしたグレアムは平民である彼らに累が及ばないように距離を置こうと考えている。だが、いきなり無視するのも感じが悪い。よい機会なので、一言断りを入れることにした。


「悪い、呆けてた」


「おはよう、レビイ」


「ああ、おはよう。…………どうした?」


 空気が重いが気がした。トマは項垂れ、アンネとリリィも心なしか表情が硬い。


「ああ、実は――」


 グレアムはアランから事情を訊いた。


「成績下位者は辺境送り?」


「ああ、それを避けるには金貨五十枚が必要なんだ」


「そんなの無理だ~」


 トマが顔を上げて嘆く。


(なるほど、それでこの空気か)


 納得すれど別の疑問が涌いた。魔術師というだけで価値がある。貴重な人材を辺境でわざわざ使い潰すのかと。しかし、金貨五十枚で人材が得られるなら、むしろ安いと思う。なんなら、家族ごとジャンジャックホウルに迎い入れてもいい。


「話がうますぎると思ったんだよな~。予備校(ギムナジウム)の待遇もめちゃくちゃよかったし」


「食事もびっくりするくらい美味しかったわよね」とアンネ。


「……体重、ウェスト、お気に入りのスカート……」


 そのアンネの言葉に何かのトラウマを刺激されたのか、リリィが暗い顔をしてぶつぶつと呟き始めた。


「彼女、どうしたんだ?」


「予備校時代に、+7」


「アンネちゃーん、言わないでー!」


「もう元に戻ったんでしょ。いいじゃない」


「アンネちゃんのせいでもあるんだよ! あんなにパクパク食べるから、それにつられて」


「だから、ダイエットに協力したじゃない。ここでも食べ放題だから気をつけないと」


「うぅ~。夕食も朝食も美味しかった~」


「おいおい、話が脱線してるぞ。辺境送りになったらどうしようかって話じゃなかったか。……、いや、むしろここで()()()()して辺境送りに備えるのもアリか?」とトマ。


「どんなに食っても一日たてばお腹がすくんだから意味ないんじゃない?」


「太れば防寒になるかもだけど、砂漠とか熱帯地方に送られたら目も当てられないな」


 アランとグレアムがそれぞれ突っ込みを入れる。


「そうかあ。……太らずに何日も食わずにいられる方法はないかなあ」


「そんなのできるのアンネちゃんだけだよ」


「え?」


 リリィの言葉でアンネに視線が集まる。


「私のスキルは【食い溜め】。たくさん食べておけば、しばらくは食べないでも済むようになるスキルよ。リリィのダイエットに付き合った時は三ヶ月くらい水しか飲まなかったわ」


 それで何の問題もなく過ごせるのだとしたら、登山家とかにすごく重用されそうなスキルだ。昨日、アンネはいくら食べても太らないとリリィが言っていたが、そのスキルの副次効果なのだろう。


「だからといって、辺境送りになるつもりはないわよ」


「そうだね。嘆いていても仕方がない。どうだろう。僕たちは成績を競いあう仲ではあるけれど、協力しあうことはできると思うんだ」とアラン。


「ここにいる五人で成績下位に入らないように同盟を結ぶってことか?」


「ああ。それぞれ得意科目もあれば苦手科目もあるだろ。お互いに教えあい、実習科目は協力しあう。どうかな?」


「……それだよ、アラン! それ、やろう!」


 我が意を得たとばかりにトマは興奮気味に叫ぶ。


「私も構わないわ」


「わ、わたしも。正直、運動系は自信ないし」


 アンネとリリィも賛意を示した。


「レビイは?」


「僕は遠慮しておくよ」


「どうしてだい? "ブルーガーデン"入りを目指すなら協力しあったほうが効率がいいはずだ」


「そうなのか? 初めて聞いたぜ」


「ああ。昨日、ちょっと話した時にね。それでどうだい? 魔術実習だけでも協力してくれたら、すごく助かるんだが」


 魔術実習は配点が非常に高いことで知られている。その魔術実習で好成績を納めれば辺境送りはほぼ免れるとも。


「実は、ちょっと聖国の貴族ともめてな」


 グレアムは事情を話した。伯爵家の御曹司を剣術試験でタコ殴りにしたことを。


「お、おう。見かけによらず好戦的だな。闘争心あふれるというか」


 トマは引き気味にそんな感想をもらす。"キレたらヤバい奴"認定されたのかもしれない。


「まあ、そんなわけで、この国の貴族に目をつけられた可能性がある。俺と仲良くしていると、君たちにも被害が及ぶかもしれない」


「関係ないわよ、そんなの」とアンネ。


「私が誰と仲良くしようが、貴族様に口出しされる謂れはないわ」


「しかし……」


「あの、ちょっといいですか」とリリィが手をあげた。


「セバスティアン様をタコ殴りにしたからといって、他の貴族から報復があるとは思えません。なぜなら、セバスティアン様に人望はありませんから」


 リリィは雇い主に辛辣だった。


「ぷはっ! レビイがタコ殴りした相手って、オレンジのおかっぱだったの! それは、ぜひ見たかったわ!」


 アンネが満面の笑顔。過去、セバスティアンとアンネの間で何かあったのかもしれない。


「だったら、なおさら協力してほしいわ! ボコった相手がリリィの近くにいれば、あいつも寄ってこないだろうし!」


「まあ、俺たちのことを考えてくれるのは嬉しいが、距離を置くかどうかは実際に被害が出てから考えればいい話だと思うぞ」


「……」


 確かに、余計に気を回しすぎなのかもしれない。しかし――


「実際のところ、勉強、大丈夫なのかい?」


「……正直、歴史がちょっと」


「だったら僕たちと手を組もうよ! 歴史なら得意だから!」


 アランが手を差し出した。


 それでも、グレアムは迷った。


 グレアムはこのオルトメイアに入る前、レナ・ハワードを助けるためなら、あらゆるものを犠牲にする覚悟をしていた。その覚悟が、揺らぐかもしれない。


 彼らに、情を持つことで。


 貴族であるレビイに辺境送りの心配はない。そんなレビイを彼らは妬みも嫉みもせず仲間として迎え入れようとしている。そんな彼らを、いざという時に切り捨てられるのだろうかと。


(……)


 グレアムは学院の正門アーチに刻み付けられた言葉を思い出す。


 "この門をくぐる者、等しく価値なし"

 "ただ神と己のみが汝の価値を定める"


(……等しく、価値なし)


 結局、グレアムはアランの手を握ることにした。


 ◇


「この俺が、Bクラスだと!?」


 その夜、セバスティアン・シーレは荒れていた。


 ガッシャァン!


 手当たり次第に物を壊す主人に、聖都の屋敷からセバスティアンについてきた使用人達は怯えを見せる。


「レビイだ! レビイ・ゲベルのせいだ! あいつが何か卑怯なことをしたせいで俺の真の実力が発揮できなかったんだ! 許せん! あいつは絶対に殺してやる!」


 親指の爪を噛み、目を血走らせたセバスティアンは聖都の屋敷から一人の騎士を呼び寄せるのだった。

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