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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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47 クラス分け試験2

□オルトメイア新入生

●レビイ・ゲベル

 正体はグレアム・バーミリンガー。小国の新興貴族の子弟として学院に潜入。茶髪碧眼、スキルは【透視(シースルー)】と思われている。


●アンネ・ヘッシャー

 赤髪。平民。


●リリィ・マーケル

 白髪。平民。


●セバスティアン・シーレ

 伯爵家の御曹司。オレンジ色のおかっぱ頭。

「ば、ばかな!」


 レビイが100メイルの的を消失させた瞬間、セバスティアン・シーレは叫んだ。


「ただの<魔矢(エナジーボルト)>で<破壊不可(アンブレイカブル)>を付与した魔鋼製の的を破壊なんて、できるわけない! 貴様! どんな卑怯な手を使った!」


 セバスティアンは興奮してレビイに駆け寄ると魔杖を奪った。


「これか! これが超強力な<魔矢>を放つ魔道具なんだろう!?」


『落ち着け、セバスティアン・シーレ!』


「しかし教官!」


『落ち着けといっている。レビイ・ゲベルが不正を行ったかどうかはこれから精査する』


 教官はレビイに向けて手のひらを向けた。


『<魔導感知(センスオーラ)>』


 その瞬間、レビイの体が光に包まれた。<魔導感知>――<魔術感知(センスマジック)>の上位互換魔術だ。魔術だけでなく魔物素材魔道具(マテリアルギア)やスキルの効果も検知できる。レビイが何らかの魔道具を所持していれば、あるいは魔術やスキル、魔道具で何らかの増幅(ブースト)が成されていれば<魔導感知>でわかるのだ。


(想定内だ)


 レビイは慌てることなく静かに検査が終わるのを待った。


『……それは?』


 教官はレビイの顔を指差した。


「僕のスキル【透視(シースルー)】を抑制するための魔道具です。学院には淑女も通いますので。もちろん申請済みです」


 レビイは眼鏡を外して教官に手渡す。


『……なるほど。確かに"キャンセラー"の魔道具だ』


 教官は眼鏡をレビイに返すと宣言した。


『今の試験に不正はなかった』


「な!?」


『少なくとも魔道具の使用は認められなかった』


「そんなはずはありません! この魔杖は!?」


『そちらも検査済みだ。普通の初心者用の魔杖だ――ん? それは血か?』


 教官が見咎めたのは白い杖の持ち手から先端に向かって走る一筋の赤い液体だった。


『……なるほど。そういうことか』


「何かわかったのですか!?」


『おそらくレビイ・ゲベルは相当高度にカスタマイズした<魔矢>の魔術式を習得していたのだろう。身の丈に合わない魔術を使って脳がオーバーフローを起こし目や鼻から血を流すことはよくある。魔杖についた血はそれだろうな』


 指摘されたレビイは意味ありげに鼻の下を擦った。


「くっ! 卑怯な! こんなことが許されるのですか!?」


『魔術式のカスタマイズは黙認されている。それにカスタマイズして今日の試験に臨んだ者はレビイ・ゲベルだけではあるまい』


「ぐっ!」


 身に覚えがあるセバスティアンは言葉に詰まる。


『だが、カスタマイズに他人の手を借りることは推奨されていない。あの威力から複数の上位魔術師(ハイマジシャン)が関わっているな。<魔矢>を習得していないと偽ったことも含めて減点させてもらうぞ』


 教官はレビイが<魔矢>を習得していないと申告したのは目立つための演出だと考えたようだ。


 レビイは"悪くない"と思った。学生自治会(ブルーガーデン)入りを目指す自分としては減点されたのは痛いがまだ取り返せる。それよりもクリアスカイフィッシュの鱗を使ったコンタクトレンズ型"透視"魔道具の存在が露見しなかったことのほうが重要だ。この世界でコンタクトレンズは知られていない。スキルや魔道具の効果を打ち消す眼鏡型魔道具(キャンセラー)のおかげで検知魔術を潜り抜けた。


 むしろ公衆の面前で検知魔術をかけられたことでレビイが不正をしていないという保証を得たことになる。実際はかなりの"不正行為(チート)"をしているのだが。


『これにて第一試験はすべて終了とする。一時間後に剣術試験を実施する。全員、第二演習場に集合するように』


 ◇


 魔術を学ぶ学校になぜ剣術が必要なのだろう。


 そんなレビイことグレアムの疑問に()()()は答えた。


『オルトメイアは"魔術"学院ではない。"魔導"学院だ』


(…………)


 何がどう違うのかグレアムは未だに解っていない。あの男もそれ以上教えてくれなかった。入学すれば嫌でもわかると言って。


 さて、腰に剣を吊るしたグレアムは第二演習場に向かう。その途中で聞き覚えのある男女の声が聞こえた。


(あれはセバスティアン・シーレという奴か? もう一人は……確かリリィ・マーケル)


 アンネという赤髪の少女の後ろに隠れていた白髪の少女だ。珍しい組み合わせだなと何気なく見ていたらセバスティアンがリリィを拳で殴った。


「貴様のせいでとんだ恥を掻いたぞ!」


「……」


「貴様の作った魔術式では100メイルに届かなかったのだ!」


「!? そんなはずはありません! 今のセバスティアン様でもちゃんと届くように調整しました!」


「事実届かなかった!」


「そんなはず……、――セバスティアン様、魔杖をお使いになりましたか?」


「このセバスティアン・シーレが公衆の面前で初心者用の魔杖など使えるものか!」


「……申し訳ありません。()()()使()()()()()ことを想定しておりませんでした」


 リリィは深々と頭を下げた。どう考えてもセバスティアンの言い分が理不尽なのだがセバスティアンとリリィの間には強固な上下関係があるようだ。


「ふん。平民の分際で口応えしおって」


 セバスティアンは拳を固めた。それを再度リリィに振り下ろす――


「っ!?」


 その前に腕を掴まれた。


「レビイ・ゲベル!?」


「紳士が女性の顔を殴るものではありませんよ」


「っ! 離せ!」


 セバスティアンは腕を振り払った。


「当家の問題だ。口出ししないでもらおう」


「彼女はシーレ家の使用人で?」


「そうだ。当家で雇っている魔術師だ」


「であるならなおさら事を大きくしないほうがよいかと。セバスティアン殿の<魔矢>はリリィさんがカスタマイズされたこと、公になって減点されたくないでしょう?」


「!? 盗み聞きでもしていたか!」


「あんな大きな声で叫んでいれば嫌でも耳に入ります」


「っ! くそっ!」


 セバスティアンは足音荒く、去っていく。


 その場に残されたレビイはリリィに顔を向けると、彼女は治癒魔術で殴られた自分の顔を治療中だった。


「余計なことをしたかな?」


「いえ、助かりました。ありがとうございます」と頭を下げる。


「……あの、このことアンネちゃんには――」


「他人の事情をペラペラ喋る趣味はないよ」


「重ね重ねありがとうございます。たぶん、このことを知ったらアンネちゃん……」


 彼女の気質では身分とか関係なくセバスティアンに突撃することが容易に想像できた。


「わかってる。それよりも見事な魔術だったよ。君の<魔矢>は」


「! ありがとうございます! お世辞でも嬉しいです!」とようやく笑顔をレビイに向けた。


「お世辞じゃないんだがな」


 正直、今の立場でなければスカウトしたいぐらいだった。


「しかし、あれほど見事な魔術式を編める君がなぜこの学院に? あのバカ殿の世話?」


「!?」リリィは驚いた顔をした後、クスリと笑う。


 やはり彼女は笑顔のほうが可愛いなとレビイは思った。


「そうですね。それもあります。なにせセバスティアン様は魔術式もロクに読めませんから」


「……一応、あいつも魔術スキルを持ってるんだよな?」


「細かい文字を眺めるだけで頭が痛くなるそうですよ。魔術言語なんてとても」


「……」


 どうやらスキルと本人の適性は関係ないらしい。魔術式の作成は他人(リリィ)に頼ることになる。だが、それは……


「……君はあんな暴力をいつも?」


「ええ、まあ」


 リリィは百合の花の如く艶やかに笑った。


 百合には毒があるという。


 セバスティアン・シーレは本物の"アホ"だと思った。

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