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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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44 聖国の王子

●アラン・ドヌブ

 ドヌブ村の馬鈴薯農家の長男。黒髪黒瞳。スキルは【雷魔術】。


●トマ・アライソン

 平民。金短髪。スキルは【あおり耐性】。


●レビイ・ゲベル

 下級貴族の息子。茶髪碧眼。スキルは【透視】。


●アンネ・ヘッシャー

 赤髪。


●リリィ・マーケル

 白髪。


●ロナルド・レームブルック

 オルトメイア学生自治会の役員。細目。

 全身白の制服に金色の肩掛けローブをつけた細い目の男子――ロナルド・レームブルックの年齢はアラン達より一つ二つ上だろうか。


 空中に立つその姿に微塵の揺るぎもない。飛行魔術の制御が完璧である証拠だ。あの若さで熟練の魔術師であることが伺い知れる。


 そのロナルドは眼下の新入生達に向かってこう言い放った。


『皆さんには、これから"殺し合い"をしてもらいます』


 ザワザワ


 ロナルドの言葉でざわめきが広がっていく。いち早く言葉の意味を理解した者は青ざめ、中には絶望の涙を流す者もいた。


 "金色の肩掛けローブ"


 予備校ではそれを纏う者について、厳しく教えられていることがある。


 "逆らうな"


 そのローブは聖国の上位貴族の子弟にして学院屈指の実力者の証である。


 ロナルドは新入生達を見渡してほくそ笑むと――


 カーン


 ロナルドの背後から飛んできた物体が、彼の後頭部に直撃した。


『何をバカなことを言ってるんだ、ロナルド!』


 いつの間にか部屋の一角に壇がせり出し、そこに六人の男女が立っていた。


 全員、白の制服に金色の肩掛けローブ。その中の中央に立つ眉目秀麗な金髪の若者に、ロナルドが後頭部をさすりながら近づいて行った。


『ひどいな会長。ちょっとした冗談じゃないか』


『冗談としては性質(たち)が悪いぞ! 時と場所をわきまえろ!』


 音声を魔術で拡声しているのだろう。ロナルドの怒声が部屋の隅々まで行きわたる。


『すまない! ロナルド・レームブルックの言葉は嘘だ! この私、アルベール・デュカス・オクタヴィオが保証する! 殺し合いなどする必要はない!』


 "殿下?"


 "間違いない。アルベール殿下だ"


 先ほどとは別の意味でざわめきが広がっていく。


 アルベール・デュカス・オクタヴィオ――この国の女王リュディヴィーヌ・デュカス・オクタヴィオの長子にして王位継承権第一位。すなわち、次期聖国王である。


『静粛に!』


 鋭く鞭打つような声に、水を打ったように静まった。


「ありがとう、ヤン副会長」


「いえ」


 アルベールにヤンと呼ばれた若者は無表情に眼鏡のブリッジ部分を中指で押し上げた。だが、わずかに顔が紅潮している。アランにはヤンがアルベールの役に立てたことの喜びを押し隠しているように見えた。


『新入生諸君。待たせてすまない。通常ならばこれから入学式典となるが、諸事情で今年は中止とする』


 本当に新入生同士で"殺し合い"をしなくてよさそうだとわかってアランは安堵した。掌に隠したナイフをもとの位置に仕舞う。


 トマは額の汗を拭い、アンネは怒りに拳を震わせ、リリィは腰を抜かしてへたり込んでいる。


 一方、レビイは焦りも怒りも安堵も見せず、何かを考えているようだった。


「どうした?」


「いや、"諸事情"って何だろうなって思って」


「また、"テロ"でも起きたんじゃないか?」


 アランとレビイの間にトマが割り込んでくる。


「テロ?」


「ああ、最近、多いみたいだぜ」


「ふぅん」


『――オリエンテーションは通常通り行われる。受付でもらった資料をもとに行動してくれ。注意事項は以上だ』


 三人が話している間にもアルベールの話は続いていた。アランは片耳で聞いていたが確認のためにもアンネとリリィに後で聞いておこうと思った。


『夜に歓迎式典が予定されている。参加は義務ではないが紹介したい人物もいるため、できれば参加してほしい』


 アルベールは最後にそう締めくくった。貴公子然とした風貌に女生徒から早速熱い視線を送られている。男子生徒からの視線も友好的なものが多い。ロナルドの悪ふざけを即座に否定し謝罪したことが好感を得たのだろう。


 そんな新入生達に対し向けるアルベールの視線には親愛の情が感じられる。


「王子様、いい人そうだよな。レビイといい、俺は貴族様を誤解していたかも」


「……そうだな」


「なんだよアラン。何か言いたいことがあるのか?」


 アランは退出していくアルベールを観察する。彼の態度は演技ではないと思う。だが、他の六人はどうか。


 ロナルドの冗談には本気ではなかったのかもしれないが悪意が感じられた。そして、ヤン副会長と他の四人がこちらに向ける視線は――


「よくわからない」


「?」


 嫌悪も侮蔑も悪意も感じられない。ただ、好意とは違う、興味らしきものは感じられた。こちらを観察するかのような……。


(不気味だ)


 アランは小声でボソリと呟いた。


「アラン、トマ。宿舎に移動しよう」とレビイ。


 部屋の四方が開放されて外が見える。アンネとリリィは既に移動したようだ。あの筋肉質の大男と神経質そうな男もいない。


 受付でもらった案内図に従い、アラン達三人も宛がわれた自室に移動した。


 ◇


 アランはベッドに身を投げた。予備校では成績上位者のみ個室を与えられるが、オルトメイア魔導学院では狭いが全員に個室が与えられる。ベッドに学習用の机と椅子、そして荷物を入れるためのキャビネットとクローゼット。家具は必要最小限だが待遇は悪くないと思う。王国の士官学校ならスキル持ちでも平民なら大部屋に押し込まれての共同生活を余儀なくされる。


 さらに学院で成績上位者になれば風呂とトイレがついた広い個室が与えられるという。できればそれを目指したいが目的を忘れてはいけない。アランに与えられた任務は多いが優先順は決められている。


 アランはクローゼットを開けると、予め運び込まれていたバッグがあった。その中身をベッドの上に並べていく。そうして空になったバッグの底板をナイフで剥がしていった。


 バッグを二重底にして隠していたのは女性の裸を模写した複数枚の絵。だが、重要なのはそれではない。


(やはり)


 絵の中に何も描かれていない真っ赤な紙片がある。そこに隠す前は白い紙だった。この紙は魔道具の一種で検知系魔術を浴びるとこのように真っ赤に染まる。


(荷物に紛れ込ませて外部から()()を持ち込むのは不可能)


 それでは身に着けたものはどうか。


 アランは下着の中に潜ませていた紙片を取り出す。こちらも真っ赤。アランの持っているナイフは学院に把握された可能性が高い。


 食事用ナイフなら子供でも持ち歩く。見咎められたならそう言い訳するつもりだった。事実そうであり、アランも日常的に持ち歩いている。ナイフ一本程度なら許容範囲なのだろう。


(ここまでは想定通り。では、体の中は?)


 アランは大きく口を開くと歯に結び付けていた極細の糸を解く。そして、その糸を引っ張って自分の胃の中に収めていた小袋を引っ張り出した。


「うぷっ」


 胃酸と唾液まみれの小袋。この中にも魔道具の紙片がある。もし、この紙片も真っ赤になっていれば作戦は失敗。すぐに撤退しなくてはならない。


 やや緊張して小袋の中を開ける。


(白)


 この結果に、アランは安堵の息を吐いたのだった。

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