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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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34 戦団から軍団へ

 プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル


 グレアムの執務室、その机の上で色とりどりのスライムたちが体を震わせていた。


 プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル


「いや、だから――」


 プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル


 聞く耳持たない。そんな風に一層、激しく体を震わせるのはフォレストスライムのヤマト。


 グレアムが聖国との戦いに彼らを置いていくつもりであることに、激しく抗議していた。


「お前たちの命が危ないんだって」


 プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル


 ヤマトと同じぐらい体を震わせているタウンスライムのムサシが亜空間を展開した。そこに毒スライムのシナノとサンダースライムのアマギが激しく出入りする。


 言いたいことを察したグレアムは


「亜空間にいてもダメ。連れて行かない」


 亜空間を使うタウンスライムが大量に死んでいる。聖結界展開時、彼らが亜空間内に隠れていなかったとは思えない。であるならば聖結界魔術は亜空間内部にまでその影響を及ぼすと考えたほうがいい。


 ポン、ポン、ポン


 すると今度はエスケープスライムのキリシマが上下に激しく跳ねた。どうやら聖結界が展開されたら逃げると主張しているようだ。


「お前たちが跳べるのは二キロだろ。結界の展開範囲はそれよりも広い」


 タウンスライムの大量の死骸が見つかった場所とマジックバッグの不調が報告された場所から、聖結界魔術の展開範囲は思いの外、広い。最低でも二十キロ。これが複数の魔道具や魔術師による展開か否かで範囲は変わってくるが、こういう場合、常に最悪を想定しておくものだ。単独での展開で二十キロと考えて、結界外にでるのは最低でも十回以上の転移が必要になる。


「しかも転移先に他のスライムがいる必要がある。そのスライムがやられたら逃げられない」


 グレアムの指摘にキリシマは動きを止めると、溶けたように机の上に広がった。


 グレアムはキリシマを摘み上げる。皮だけになっていた。


(せめて皮だけでも持っていけということか? ……いや)


 グレアムは皮を机に置くと、その表面をそっと叩いた。


 するとプクリと膨れ上がる。キリシマが残した皮に転移して戻ってきた――わけではない。転移したと見せかけただけだ。皮だけと思ったグレアムがキリシマを連れていくことを期待しての擬態行為だ。


「……皮も置いていく」


 プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル


(そういえば……)


 擬態といえばロックスライムだ。ナガトの姿が先ほどから見えない。グレアムはナガトを探してみると――


「……」


 ナガトは乾いたご飯粒のごとく、グレアムの裾に引っ付いていた。


「……」


 無理に引っぺがしてナガトを机の上に置く。


 プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル


 スライム×6の振動が、非常にうざい。机が揺れて書類仕事ができない。


「……」


 グレアムは仕事を諦めてペンを筆立てに置くと、真剣な口調で語りかけた。


「君たちには助けられた」


 プルプルッ


 グレアムの言葉に振動を止めるリーダースライム達。


「君たちがいなければ、俺はとっくの昔に死んでいた。今日を生きてアルビニオンにいられるのは君たちのおかげだ」


((((((…………))))))


「2526」


((((((…………))))))


「ブロランカ島から脱出して、その後の戦いで死んだスライムの数だ」


((((((…………))))))


「君たちの献身に対して俺はまだまともな報いをできていない。なのに、ろくな対策もなく、君たちを死地に向かわせる。そんなこと俺は耐えられない。

 どうか頼む!

 俺は君たちを死なせたくないんだ!

 理解してくれ!」


 グレアムはスライムに向かって頭を下げた。


「……」


 ヤマト達から返事はない。なので、グレアムは頭を下げ続ける。彼らが納得してくれるまで下げ続けるつもりだった。ところが――


「……何をされているのですか?」


 頭を上げるとスライム達はどこかに消えており、代わりにシャルが目の前に立っていた。


「……何でもない。定期報告か?」


「はい」


 シャルは薬裡衆頭領ノンドの娘で一時期、グレアムの影武者を務めていた。今、薬裡衆は"情報部"という形で再編成を進めているところだ。薬裡衆の黒装束を脱ぎ藍染めの制服を纏ったシャルは情報部が集め分析した内容を報告していく。


 王国と帝国、周辺の小国群に大きな変化はなし。

 聖国は着々と戦争準備を進めている。

 だが、動きは遅い。

 これは帝国の動静を見極めているためと考えられる。


 一方、内部では――


「特に怪しい動きは見られませんでしたが――」


 ヘイデンスタムとイリアリノスの旧臣と官僚。恭順した王国の貴族も能力とやる気があれば仕事を与えている。だが、タウンスライムの敵意感知があるとはいえ完全に信用するわけにもいかない。彼らを情報部に監視させていた。だが、組織が大きくなるにつれ監視の目が行き届かなくなっているという。


「そうか。わかった」


 人手が足りていない。だからといって情報部の人員を簡単に増やすことはできない。


 グレアムはわずかな時間、思案した後、内部監視の人員を一定数まで減らし、外部――特に聖国への人員に割り当てるように指示した。


「コステロ大尉への監視もですか?」


 アルヴィン・コステロ。帝国から招聘した軍事顧問である。


 彼は蟻喰いの戦団に帝国の軍制を導入するためにヘリオトロープに頼んで派遣してもらった人材だった。


 現在の戦団の階級は「佐官」「尉官」「下士官」「兵」で「将官」はなし。最高階級はオーソン・ダグネルの"大佐"。「佐官」は他に"中佐"と"少佐"。「尉官」は"大尉"、"中尉"、"少尉"と前世の現代軍階級制度に準じているが「下士官」は"軍曹"と"伍長"のみ。「兵」はすべて"兵卒"としている。


 戦団が軍団、そして軍として成長していけば、いずれは前世の現代軍階級制度に似た形になっていくと思うが、現状でそのまま当てはめる意味はあまりない。コステロ大尉も現在の組織の規模に見合った制度だと太鼓判を押している。


 さて、そのコステロ大尉だがヘリオトロープが派遣してくれただけあって優秀だ。だからこそ警戒しなくてはいけない。その監視を外すことにシャル・ダルス"少尉"は懸念を示した。


「……かまわない」


 一応、ムサシの敵意感知はクリアしている。


「承知しました」


 戦団は現在、軍団への過渡期である。軍制改革は一部貴族からの不満はあるものの、概ね順調に進んでいるという。


 ふと、グレアムはスライム達にも階級を与えるべきかと考えた。少なくともリーダースライム達には。


「……」


 だが、彼らが率いるスライムの規模とその功績を考えれば「将官」クラスだ。


 グレアムはオーソンやリーがヤマト"大将"やムサシ"中将"に向かって敬礼する姿を想像して――


(まだ人類には早すぎる概念だ)


 きっと誰からも理解は得られないだろう。


 グレアムはその考えを封印することにした。

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