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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
308/441

10 ムルマンスク事変7

 "網羅的特異遺伝子発現解析を用いた<魔人化>樹立プロセスの構築"


 それは人間を魔物にする理論である。天才魔道具師ウルリーカ・ラビッィトが構築したその理論をもとに、マジカル・グリム・リーパーとアダマンタイト・トロール、そしてアドヴェント・ドッペルゲンガーの希少部位を材料に製造したその魔道具(ギア)は、矢に胸を貫かれて半死半生のポントス=ヴェリンを巨大な化け物に変貌させた。


「がぁああああああ!」


 天に向かって吠えるポントス。その体は館の天井を突き破るほど巨大化し、肌は赤銅色の金属のように硬質化していた。


「ふん!」


 丸太のごとく太くなった腕を横に一薙ぎすると――


 ばきゃぁ!!!


 ただ、それだけで館の二階大広間の天井が根こそぎ吹き飛んだ。


「すばらしい! すばらしいぞ!」


 指先にまで漲る力はポントスに全能感を与えた。


「もはや王家も! グレアム・バーミリンガーも! 恐れるに足らず!」


「ヴェリン、その姿は!?」


 フランセスはポントスを見上げて叫んだ。


「ふふ。あなたの娘には感謝しますよ」


「まさかウルリーカの!?」


「いけませんな。研究資料の管理はしっかりしないと」


 ポントスはフランセスを捕まえんと歩を進める。その先には<パラライズ・クラウド>の影響で動けなくなったポントスの私兵がいた。


「だ、だんなさ――」


 ドォン!


 まるで蟻か何かのようにポントスの巨大な足が彼らを踏み潰した。


「邪魔だ」


「な、なんてことを」


「グフ。敵兵に対してもお優しいことだ」


 憤るフランセスにポントスは再び手を伸ばした。だが――


 ドォン!


 赤い閃光がポントスの腕に着弾し爆発した。


「下郎! 私が相手よ!」


 フランセスの長女ベリトが<炎弾>を<炸裂炎弾>に強化する"エクスプロードギア"を装着した魔銃を手に叫んだ。

 

 ドォン! ドォン! ドォン!


 半壊した屋敷の中を走り回りながら立て続けにポントスに<炸裂炎弾>を命中させる。だが、直撃すれば人間の上半身すら吹き飛ばす威力も、ポントスにはまるで効いていないようだった。


「グフフ。今の私に魔術は効きませんよ。魔術師の死神マジカル・グリム・リーパーの因子を取り込んだ私にはね」


 マジカル・グリム・リーパー。素材となる前の姿は黒い衣を纏ったグールだが、なぜかこの魔物には魔術がまったく効かない。文字通りの魔術師殺しである。


「だったら!」


 ゴォウ!


 次女ビルギットがミスリルの長剣を振るう。柄には"シャープネスギア"が取り付けられている。その剣は3センチメイルの厚みがある鉄兜も両断するが――


 ガキィイン!


 硬質な音を立てて剣が弾かれた。


「!?」


「グフ。かゆい、かゆい」


「くっ!」


 ビルギットが立て続けに斬撃をポントスに浴びせる。


「無駄です。アダマンタイト・トロールの防御力と再生力を得たこの体にかすり傷一つつけることは不可能」


 バシィ!


 羽虫を払うようにポントスが振るった手の平がビルギットに直撃する。


「ビルギット!」


 ラビッィト家の次女はボールのように弾き飛ばされ壁に激突した。


「ベリト! 逃げなさい!」


「でも、お母さま!」


「議論している暇はありません! あなたが死ねばラビッィト家は終わりです!」


「グフフ。逃がすとお思いで?」


「あ!?」


 予想外の素早い動きでポントスが母娘の体を両手に掴んだ。


「グフフ。やはり殺すには惜しいですね。私の後宮(ハレム)に入れるもの一興かもしれません」


「臭い息を――近づけるな!」


「そのような口をきいていいのですか?」


「!? ああっ!」


 ベリトが苦痛の悲鳴をあげた。ポントスがベリトを掴む左手にわずかに力を込めたのだ。


「ベリト!? やめなさいヴェリン!」


 だが、ポントスは嗤いながら少しずつ左手に力をこめる。


「ぐぅ!――がはっ!」


 やがて、ベリトは口から血を吐いて意識を失った。


「ベリト!」


「グフフ。どうします? このまま娘を見殺しにしますか?」


「下衆が!」


「その下衆に愛を誓ってもらいましょうか」


 ギリリと歯を食いしばるフランセス。


「グフフ。私なら可愛がってあげますよ。あの情けない男と違ってね」


「……」


「有能すぎる妻を持った男は立つ瀬がない。王都の愛人宅に逃げ込みたくなるのもわかるというもの。――ですが!」


 ポントスはフランセスをトロフィーのように高々と掲げた。


「この私ならば! そんなことはしない! あなたに匹敵する――いや、それ以上の能力を持つこの私こそがあなたの夫にふさわしい!」


「ざ、れごとを」


「ふむ。娘の命が惜しくないのですか?」


「やってみろ。家の誇りにかけ、貴様には決して屈しない」


「…………残念ですよ」


 ポントスがベリトを握り潰さんと左手に力を込めた――込めようとした瞬間、


「待ちなさい!」


 フランセスの三女ウルリーカ・ラビッィトが現れた。

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