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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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9 ウルリーカ・ラビィット

在宅勤務が終わってしまい、執筆する時間と体力がないです(泣き)

世の兼業作家さんたちはどうやってそれらを確保しているんでしょうか。本当に尊敬します。

まあ、それはともかく、今回は「幼馴染との淡い思い出」に挑戦してみました。

 自他共に認める天才魔道具師ウルリーカ・ラビィット。だが、その少女時代は必ずしも幸せなものではなかった。


 父は王都で一年のほとんどを愛人と過ごし、その父に代わり領地経営に勤しむ母はウルリーカを顧みる余裕はなく、その世話を乳母と上の姉に任せっきりだった。


 ウルリーカが平民の少年の恰好をしてムルマンスクの町に飛び出したのは、そんな両親への抗議の意味もあったのかもしれない。


 親の愛情に飢えたウルリーカは擦れた少女だった。荒れていた。


 そんなウルリーカが街の少年達と衝突するのは必然だったのかもしれない。虐められ泣いて館に逃げ帰るかと思われたウルリーカだったが、意外にも彼女は少年達を打倒してしまう。

 

 子供は男の子より女の子のほうが発育が早い。育ちから栄養状態も違う。一定の年齢に達すると働きに出てしまうので大きく歳が離れた子供がいなかったのも幸いした。持ち前の頭の良さもあって、ウルリーカはいつの間にかガキ大将の地位におさまってしまったのだ。


 だが、街の少年達と過ごす日々は、そこそこ楽しく、ウルリーカの寂しさを紛らわせた。


 そんな少女の前に一人の()が現れる。


 黒い瞳に亜麻色の髪をした孤児院の少年だった。


 仲間の二人がその少年に酷い目に遭わされたのがきっかけだった。後にその二人が孤児院の子供を虐めたのが原因だと判明するが、当時のウルリーカにそれを知る方法はない。とにかく、理不尽に仲間がやられたと思ったウルリーカは報復にいき――


 あえなく敗れる。


 その少年は体は小さいが狡猾で戦い慣れていた。


 それでもウルリーカは何度も少年に挑み、そのたびに敗北した。


 毎日、傷だらけになって帰ってくるウルリーカ。乳母と上の姉は最初は目をまわして倒れ、最後には呆れて外出禁止を言い渡す。


 意外にもウルリーカはそれに素直に従った。


 なぜ、あの少年に勝てないのか、じっくり考えることにしたからだ。


 決して一方的に負け続けたわけではない。少年を地面に押し倒して、勝利まであと一歩という場面は何度もあった。だが、そのたびにウルリーカは突然、意識を失ってしまうのだ。


(まさか、あいつスキル持ち? "スタン"の状態異常を起こすスキル?)


 貴族の子女として最低限の教育は受けている。特にスキルについては必修だ。ある意味、スキルこそ、貴族を貴族足らしめている要因の一つだからだ。


 そして、スキルとセットで教えられるのが魔道具である。状態異常を防ぐ魔道具の存在を知っていたウルリーカはそれを求めた。


 あの少年のスタンをどうにかしない限りウルリーカに勝ち目はない。


「だめです。魔道具は喧嘩のための道具ではありません」


「あんた魔道具なんて身に着けて街に行ったら誘拐されるわよ」


 乳母と下の姉はウルリーカの願いを却下する。"スタン"対策限定の魔道具を手に入れるだけでも金貨が何枚も必要だ。子供の玩具とするには高価すぎるのだ。


「自分で作ったらどうかしら? せっかく【素材鑑定】スキルを持ってるんだし」


 一方、上の姉は意外なことを言った。


 自分で作る。


 ウルリーカにない発想だった。


「作れるの?」


「頑張って勉強すればね」


 上の姉はこの破天荒な少女を落ち着かせたかったのかもしれない。彼女は魔道具作製の書物をウルリーカに与え、独学で行き詰まると魔道具師を呼び寄せるなどして積極的に協力した。


 そうして、ウルリーカが魔道具作製に着手して数カ月、状態異常無効の魔道具が完成した。


 不出来な形ながらも、その効力を確かに発揮したその指輪を母のフランセスは自らの指に嵌めて――


 ウルリーカを褒めた。


 その瞬間、ウルリーカの頭の奥底からパチパチと光が迸った。そんな気がした。


 母は恐らく生まれて初めてウルリーカを見てくれた。その自覚が、ウルリーカにえもいえぬ歓喜をもたらした。その感情は、ウルリーカの魔道具師の才能を開花させた。


 母はウルリーカの才能を認め工房と部下を用意してくれた。平民の恰好をして街に出る悪癖はすっかり影を潜めた。代わりに淑女教育に積極的になった。魔道具の材料を集めるには貴族として振舞ったほうが何かと都合がいいことに気づいたからだ。


 恵まれた才能と環境によって次々と作り出されていく魔道具はウルリーカの名声を高めていった。そうして、いつの間にか周囲はウルリーカを天才と持て囃すようになる。ウルリーカも自分は天才だと思うようになった。事実、彼女の作製した魔道具はいずれも天才と呼ぶに恥じないものであったから。




 ウルリーカ・ラビィットは自他共に認める天才魔道具師である。


 だが、そんな彼女に魔道具師として初めて嫉妬と敗北感を覚えさせた人物がいた。


 グレアム・バーミリンガーである。


 その理由を語る前に、グレアムへの一般的な王国貴族の評価を語る必要がある。


 王国の最高権力者を殺害し、何度も王国軍を退けた。確かに強い力を持っているようだが所詮は反逆者でしかない。王国の領土を奪ったが、それは十分の一にも満たず未だ国力の差は歴然としていた。


 グレアムが作る国は良くて小国の一つとして終わるだろうというのが一般的な評価であった。グレアムに恭順したベイセル=アクセルソンやヘイデンスタムは焼きが回ったのだと嘲笑する者も多かったのだ。


 それを一変させたのが魔銃である。


 長年、王国は増加する魔物被害に何ら有効な手段を講じることはできなかった。無論、魔物が出れば即座に騎士と魔術師を派遣し駆除させた。村に兵士を常駐させるなどの対策もした。


 だが、それでも魔物による被害は増え続けた。間に合わなかった、戦力が不足していたなどの理由で。しかも、魔物はどれだけ駆除しても次から次へと湧いてくるのだ。いずれ破綻がくることは聡明な者なら誰もが予感していた。


 そこにグレアムは領民に魔銃を配った。


 "領民に自らの手で魔物を駆除させる"


 グレアムは魔物対策への確かな答えの一つを提示したのだ。


 無論、その危うさに気づく者もいたがメリットのほうが遥かに大きい。村に戦力を派遣する必要はなくなり、魔物を脅威ではなく"資源"とできる。


 "グレアムの魔銃"は社会を一変させるポテンシャルを秘めていることに誰もが気づき始めた。


「グレアムをただの反逆者という考えは改める必要があります」


 フランセスは三人の娘にそう告げた。


「破壊者や殺戮者は自然災害のようなもの。いずれ過ぎていくものです。そのような者に命運を託してはいけません。ですが、新しい価値を創造する者はそうではない。王国とグレアム、いずれ選択を迫られる日がくるでしょう。その時に――」


 ウルリーカは母の言葉を途中から聞いていなかった。身を焦がすような恥辱を感じていた。


 "グレアムの魔銃"


 それに比べれば自分が作ったものはまさに子供の玩具でしかない。魔銃ほど世界に影響を与えた魔道具は存在しないことに気づいた。いい気になっていた自分が恥ずかしかった。


 ウルリーカは魔道具の製造を完全に部下に委託して、自分は新しい魔道具の研究に没頭することにした。魔銃に勝る魔道具の開発――それが目的だった。


 その開発には困難を極めると思われたが、ウルリーカは本物の天才だった。


「…………」


 半年後、その集大成をまとめた資料がウルリーカの目の前にあった。


(やらかした~!)


 一人密かに頭を抱えるウルリーカ。


(バカじゃないの私! こんなの発表できるわけないじゃない! 下手したら王家と神殿に目をつけられて家が潰されるわよ!)


「若さって恐ろしいわね」


「何言ってるの、ウルリーカ?」


 窓の外を遠く見る妹を気持ち悪そうに見る下の姉。


 無視してウルリーカはその資料の表紙に"廃棄"の印を押した。特に躊躇いはなかった。とても表に出せるものではなかったが、その成果には満足していた。


 それに誰かに勝とうとする研究はあまり楽しいものではなかった。自分は誰かに喜んでもらう仕事のほうが楽しくできることに途中で気づいてしまったのだ。


「さて、それじゃあ今日も魔道具開発に勤しむとしましょうか。あ、そこのあなた。これ捨てといて」


 自分の工房へ向かうウルリーカ。一方、資料を渡された顔に傷を持つ男は字を読めない。否、読めなかった。この館で真に価値あるものはウルリーカの研究資料だと気づいて必死に学んだからだ。そして、その拙い知識で読み取った資料にはこう書かれていた。


「"魔人化(デモン・シフト)"?」

「幼馴染との『淡い』思い出」

クリア!

クリア?

クリア……


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