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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
301/441

3 ムルマンスク事変 1

「……荷馬車を脇によけた方がいいかと。何かきます」


「え?」


 土煙をあげて四頭立ての馬車が走ってくる。


 何者かに追われているようだった。


 ドォン!


 突如、馬車の背後で爆発。


(今のは中級魔術の<火球(ファイアボール)>か?)



 曳光弾のような光が馬車に迫るのをグレアムは目撃した。魔術の光は地面に直撃すると爆風と衝撃波を生じ、馬車は大きく揺さぶられる。


 馬車はかなりのスピードが出ていた上に、この街道は古代魔国時代に作られた石畳ではなく、ただ踏み固められただけの道でくぼみや木の根があった。


 ドザァアアアア!

 

 車輪が激しく上下に揺さぶられ、とうとうバランスを崩した馬車の客車部分が横倒しになって、こちらに滑ってくる。


 グレアムは馬と荷台を繋ぐ(ながえ)を<風刃(ウィンドエッジ)>で断ち切ると、農夫を抱えて<飛行(フライ)>で飛んだ。


「うお、なんだあ!?」


 直後に客車と荷台が激突し野菜が宙に舞った。


「お、俺の野菜が!?」


 ズザザザザザザザ!


 荷台と野菜を粉砕した客車は、そこからさらに十数メイル滑ってようやく止まる。


 グレアムと農夫は客車から離れた場所に降りる。馬もなんとか逃げられたようだ。


 パカラッパカラッ!


 蹄の音を轟かせて複数の騎馬兵が近づいてくる。数は十。


(野盗の類じゃないな。装備が整っているからどこかの領兵か?)


 しかも全員、魔銃を持っていた。敵国の兵士に配る許可を出した覚えはないから、どこかの村から徴発したのかもしれない。


「……離れていてください」


 グレアムは農夫にそう言うと客車を取り囲む兵士達に歩いていく。


 おそらく、貴族同士の争いだろう。


 正直、関わりあいになりたくなかったが、客車に見覚えがある紋章があった。


 ムルマンスクの領主――ラビィット家の紋章だ。


 黙って見過ごせば孤児院にどんな災禍が降りかかるかわからない。とりあえず状況を把握しようと考えた。


「近づくな!」


「旅の薬師です。ヒーリング・ポーションがありますので怪我人がいればと思いまして」


「失せろ!」


 槍の石突きでグレアムを突いてくる。


 肩を突かれたその衝撃で尻もちをついた。


「ペッ!」


 唾も吐かれた。


「…………」


 流石にグレアムもムカッとくる。


 そうこうしているうちに他の兵士が客車から誰かを引きずり出した。


 グレアムと同じ年頃の女性だった。


 脳震盪でも起こしているのかフラフラしている彼女を街道に跪かせる。兵士の一人が鞘から抜いた剣を彼女の白いうなじに振り下ろそうとして――


「ふごっ!」


 ドゴォン!


 吹き飛ばされた。


「「「!?」」」


 グレアムが魔銃で<衝撃弾(ショックバレッド)>を放ったのだ。


「な!? こいつ!」


 グレアムに唾を吐いた馬上の兵士にも<衝撃弾>を叩き込む。兵士は馬から落ちて動かなくなった。


「貴様! 我らがポントス=ヴェリン様の手勢と知っての狼藉か!?」


「……誰?」


 とりあえずムルマンスクの兵士でないことは確定した。ならば敵対しても構わない。


 グレアムは亜空間からもう一丁、魔銃を取り出た。ソードオフ・ショットガンタイプの魔銃を両手に構える。


「いきなり女性の首を斬ろうとするなんて穏やかじゃないな」


「黙れ!」


 兵士達は殺気立つ。全員、グレアムに魔銃を向けた。


 一方、グレアムは両手の魔銃から<銃盾バリスティックシールド>を展開する。兵士達はそれを見て動揺した。


 各地にばら撒いている魔銃は普及版で<銃盾>を発生させるロックスライムはつけていない。当然、彼らの魔銃にもついていなかった。


 八対一の状況だが、向こうはその身を魔銃にさらし、こちらは全身をシールドで守っている。撃ち合いになれば、向こうの分が悪い。このまま不利を悟って撤収してくれればいい――グレアムがそう考えた時――


「グレアム兄ちゃん?」


 頭にホワイトブリムをつけた少女が横倒しになった客車の扉から顔を覗かせていた。


 グレアムは彼女の顔に見覚えがあった。


 孤児院で共に育った少女で名前はジェニファー。


 その彼女の頭から一筋の血が流れているのを見て、グレアムは目の前が真っ赤になる。


「お前ら……、ジェニファーが馬車にいることがわかってて攻撃したのか?」


「はぁ? ジェニファー? あのメイドのガキのことか? 知るかよ」


「……そうか」


 決めた。皆殺しにする。


 グレアムは<銃盾>を停止し魔銃も下した。


「バカが! 今さら許すかよ!」


 グレアムのその行動を降伏したと解釈したのだろう。


 八人全員、一斉にトリガーを引く。


 パシュ! ドゴォン!


<炎弾>が放たれた。ただし、グレアムにではなく、射手に向かって。


 魔銃のロックスライムはすでに支配済みだった。彼らに命じて通常とは逆方向に<炎弾>を放つように命じた。結果、すべての<炎弾>は彼らに向かって放たれた。


 兵士達は眉間を、首を、眼を、それぞれ撃ち抜かれる。だが、なぜか一人だけ上半身が吹き飛んでいた。血が周囲に飛び散る。


(なんだ? もしかして馬車を吹き飛ばしのはこの魔銃か?)


 よく見ればこの兵士の魔銃の銃身に黒い虫のような光沢を放つ何かが取り付けられている。おそらく魔道具だろう。ジャンジャクホウルでも魔銃の射程距離を伸ばす魔道具を製造・運用しているが、こんな炸裂弾のような威力に増幅する魔道具は覚えがない。


 とりあえず、グレアムは疑問を後回しにして<衝撃弾>を叩き込んだ兵士二人にも<拘束弾リストレイントバレッド>を放つ。そうして、兵士全員の無力化を確認した後、グレアムは客車に飛び乗ってジェニファーを引き上げてやった。


「大丈夫か?」


 怪我をしたところに<怪我治療(ヒーリング)>をかけてやる。


「私よりもデネブさんを」


 ジェニファーに促されて客車の中を見ると年配のメイドが一人、苦しそうに横たわっていた。グレアムは客者の中に入って<怪我治療>と<再生(リジェネレーション)>をかけると、彼女を抱えて客室の外に運び出す。


 そういえば御者もいたはずだと周囲を見回せば、ジャケットと黒パンツの男が野原に横たわっていた。馬車が横転した時に投げ出されたのだろう。


 こちらにも<怪我治療>と<再生>もかけてやってデネブの隣に横たえた。


「トーマスさん!」


「大丈夫、気を失っているだけだ。いずれ目を覚ます」


「う、うわぁああああん!」


 突然、ジェニファーがグレアムの胸に飛び込んできた。


「グレアム兄ちゃんのバカ! どうして急にいなくなっちゃったんだよ!」


 グレアムの目頭にも熱いものが込み上げてくる。


「ごめん、ごめんな。ジェニファー」


 そう言って頭を撫でてやる。


「みんなグレアム兄ちゃんがいなくなって寂しがってた。私もすっごく悲しかったよ」


「……ごめん」


 本当にそう言って謝るしかできなかった。


 しばらくジェニファーの嗚咽が続く。


「あ、あのう」


 農夫の青年が恐る恐るといった感じで話しかけてくる。


「彼女は放置していていいんですかね?」


「彼女?」


「ウルリーカ様!」


 ジェニファーがウルリーカと呼んだ金髪女性は街道に呆けたように座り込んでいた。上半身が吹き飛んだ兵士の血で体の半分を真っ赤にして。


 馬車の横転から客車の外に引きずり出され首を斬られようとした絶体絶命の危機からの敵兵士の全滅。めまぐるしく変わる状況に頭が追いつけていないようだった。


「ウルリーカ様! ウルリーカ様! しっかりしてください!」


 ジェニファーがウルリーカの肩を揺さぶる。見かねたグレアムはウルリーカに<精神異常回復サニティ>をかけてやった。


「はっ!? ……ジェニファー、ここは?」


「ウルリーカ様、よかった! もう大丈夫です! 悪いやつらはグレアム兄ちゃんがやっつけてくれましたから!」


「グレアム……」


 グレアムとウルリーカの視線があう。


 バッと突然、ウルリーカが立ち上がると胸に手を置いて


「初めまして。グレアム・バーミリンガー。ムルマンスク領主フランセス・ラビィットの三女ウルリーカ。またの名を、天才魔道具師ウルリーカ・ラビィットですわ!」


 顔の半分を血に染めたまま、そう名乗った。

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