10 沙汰
グレアムとフォレストスライムのヤマトが治癒魔術を使えた理由は、どう考えてもスライムたちに転記した魔導の図形――魔導陣が原因だろう。
それ以外に理由は思い当たらない。
デアンソの屋敷でヤマトが治癒魔術を使った時、グレアムはひどく驚いた。
転生前でも、あれほど驚いた記憶はない。
そして、思わず笑ってしまった。
すべて終えた後に、治癒魔術が使えることがわかったことに。
"再生"を大金を出しても受けたいという人間はいくらでもいることだろう。
金があればデアンソたち十二人を殺す必要もなかったかもしれない。
少なくとも別の方法が検討できたかもしれない。
グレアムが犯罪者とならずに済む方法を。
運命の皮肉にグレアムは思わず笑ってしまったのだ。
◇
笑い続けるグレアムを衛兵たちは気味悪そうに、あるいは同情のこもった目でデアンソの屋敷から連れ出した。
グレアムを裁くムルマンスクの領主は人の良さそうな妙齢の女性だった。
実際、悪名高い人頭税をムルマンスクの領民に課さず、孤児院にも援助している。
フランセス・ラビィットは見た目通りの善良な人間である。
だからこそ悩んだ。
トレバーという大人に利用されただけの十にも満たない子供。
おまけに気狂いの疑いありと部下から報告を受けている。
今は落ち着いているようだが、信じていた人間に裏切られたのならばそれも無理もない。
ムルマンスクの領主は、トレバーに命じられて森で見つけた毒草をスライムを使って飲み水に混ぜ、昏倒した傭兵とデアンソを殺したというグレアムの証言を信じた。
というより信じるしかなかったのだ。
トレバーはどこへ消えたのか、影も形もなかった。
生き残った傭兵リーと商会の従業員も毒で昏倒していて詳細はわからないという。
「……」
フランセスは沙汰を考える。
縛り首はない。
同じ年頃の娘を持つ親としてもそれはしたくなかった。
だが、自分が治める街で十二人も殺した者を、無罪放免しては領主としての面子が保てない。
沙汰に時間をかければ、グレアムへの同情から領民たちが騒ぎ出すかもしれない。
結果、犯罪奴隷として即日の追放だった。
グレアムはフランセスの苦悩を感じ取った。
こんな方法でしか解決できなかったグレアムは、レナとタイッサにあわせる顔もないと思った。
何も言わず、グレアムはフランセスの沙汰を黙って受け入れた。