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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
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108 愚者の願望 3

「天使?」


「サウリュエルだよ~」


 長すぎる袖をプラプラさせながらノンビリとした口調で答える。


 天使――この世界では実在を証明されているが、人前に姿を現すことは滅多にないと聞く。グレアムはムルマンスクの孤児院で読み聞かせられた知識を思い出す。


「そうか。俺はグレアム・バーミンリンガーだ。こっちは――」


「いやいや、自己紹介は不要だよ~。アロルド君に、マルグレットちゃんにティーセちゃんでしょ~。サウリュエルの権能でね~。そういうのはわかっちゃうんだ~」


「それは話が早くて助かるな。それで、君が言っていた"無駄"とはどういう――」


「いや、ちょっと待て!」


 青い顔で静止するアロルド。


「何を普通に話しかけてるんだ!」


 グレアム以外の三人はいつの間にか地面に膝をついていた。


「天使様だぞ!」


「? そうだろうな」


 翼を持つだけなら鳥人という人種もいる。だが、彼女からは天使と言われても納得できるほどの神々しさが感じられた。


「彼女は神の代理人だ! 敬意を払え! 敬意を!」


「…………」


 言葉遣いが少し粗暴だったかなと反省するグレアム。自分が敬うものを蔑ろにされて気分がいいはずもないか。


「すまないな。似たような立場の知り合いがいて、つい気さくに話しかけてしまった」


「そんな知り合いがそこらにいてたまるか!」


 グレアムは田中ジロウとして一度死んでいる。その時に知り合った地獄の獄卒――暁。絹のような黒髪を持つ美しい女だった。死者の魂を扱うという意味では彼女とサウリュエルは似たようなものだろう。方向性は真逆であるが。


「知り合い?」


 ティーセはグレアムの知人について胸騒ぎを覚えた。


「…………グレアム。その知り合いについて、あとで詳しく話を聞かせて」


 それがいわゆる「女の勘」と呼ばれるものであることに気づいたのはずっと後のことである。


 ゾクリとなぜか背筋が寒くなるグレアム。


「…………まぁ、機会があればな。それよりも、サウリュエル様」


 グレアムは曖昧に返事をすると天使に向き直った。


「サウリュエルに敬語はいらないよ~。むしろ、くだけた口調のほうはサウリュエルは嬉しいな~」


 グレアムはちらりとアロルドを見る。


 苦虫を嚙み潰したような顔で頷いていた。


「……ドラゴンについて何か知っていたら教えてほしい」


「何かって何さ~」


「"ロードビルダー"への攻撃は無駄だと言っていたな。それはあいつの凄まじい回復力のことを言っているのか?」


 グレアムの<破壊光線(ディザスタービーム)>によってつけられた傷も、アロルドの氷雪剣グラキエスによって潰された片目も、あげく、不完全とはいえティーセの"アドリアナの天撃"による傷さえ短時間で回復してしまったのだ。


 通常の武器による攻撃は当然ながら、魔術やスキルの攻撃も無意味。それは戦略級広域殲滅魔術<白>ですら同じだというのか。


「確かにあの回復力は脅威だが、ダメージは受けているように見えた。"ロードビルダー"の回復を上回る攻撃なら――」


「ちがう、ちがう~」


 サウリュエルはプラプラと両手を振った。


「もっと根本的なこと~。君たち人類はドラゴンに勝てない~。ぜったいに~」


「なっ!?」


 グレアムの後ろでアロルドが思わず声を上げた。


「……確かに敵が強大であることは認めましょう。ですが、決して勝てないというのは過言ではないでしょうか」


 そういうアロルドの顔をサウリュエルはまじまじと見つめる。


「君は~。君たちは~。ああ、そうか~。ジョセフ王の子供だね~」


「!? 父をご存知なのですか?」


「やはり親子だね~。ジョセフ王とまるっきり同じことをいうんだから~」


 ティーセとアロルドは困惑の色を深めた。


 ジョセフが天使と邂逅した話など聞いたことがない。享楽的な性格のジョセフなら、まず間違いなく言い触らすはずだ。


「そりゃそうだよ~。信仰する天使様を無限回廊に閉じ込めたなんて、さすがに公言できないだろうし~」


「「!?」」


 無限回廊。古代魔国時代に作られた魔術建築の一つで、許可なく回廊に踏み入ったものを異空間に半永久的に閉じ込める。


「ああ、誤解しないで~。別にそのことで恨んでいるわけじゃないから~。退屈で退屈でサウリュエル死にそうになったけど~」


 サウリュエルが長い袖で目を拭う。


「そ、それは父が失礼しました! し、しかし、父はどのような理由で天使様にそのような凶行を!?」


「さあ~。サウリュエルにはわからないな~」


「……ジョセフとはどんな話をしたんだ?」


「ドラゴンのことを話しただけだよ~。君たちがいう上級竜のことをね~」


「……」


「ジョセフ王はね~。不思議に思ったんだって~。なぜ人類はドラゴンに勝てないのか~」


 ジョセフが玉座に就いて真っ先に取り組んだのがドラゴン対策であった。秘蔵されている人類の歴史書を紐解きドラゴンとの死闘の歴史を知る。それは人類の敗北の歴史であった。


「ジョセフ王は秘密裏に天使召喚の儀式を行ったんだ~。そして呼び出されたのがサウリュエルだよ~」


 ジョセフは人類が敗北を続ける理由を求めた。その解明の一つとして天使を呼び出した。


 だが、告げられたのは残酷な真実だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます!大好きです!(錯乱)
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