107 愚者の願望 2
間があいてしまい申し訳ありません。
本業が忙しく更新する暇も元気もなくなってしまって。。。
少し落ち着いてきたので再開したいと思います。
「"眷属"についてはもういいだろう」
そんなアロルドの言葉に素直に頷けないグレアム。
あらゆる生き物の目的は種の繁栄である。つまるところ繁殖だ。"ロードビルダー"が大量の眷属を引き連れていることに不自然さはない。
(本当にそうだろうか?)
種の在り方として"ロードビルダー"とその眷属は歪に感じる。むしろ、"ロードビルダー"を頂点とする生態ピラミッドのように思える。眷属にはもっと別の役割があるのではないか。
とはいえグレアムもドラゴンの生態に詳しいわけではない。ドラゴンとはそういうものなのかもしれない。いずれにしろ、今ある情報だけでは考察は進められない。グレアムは次に進むことをマルグレットに促した。
1.山脈を不可視の力で切り開く(道を作る力?)
2.羽も翼もなく自由自在に飛び回る
3.アロルド達の動きを封じる(大規模・広範囲に)
4.兵士達を不可視の力で握りつぶす
5.遠距離にいたグレアムを一気に引き寄せる
6.<破壊光線>を捻じ曲げる
これらはすべて同じ力によるものであると四人の意見が一致する。その力の正体は――
「……念動力か?」
物体を自由自在に操るスキルや魔物の存在は確認されている。アロルドはそれらに類するものと推測した。
「念動力は物体に対して作用するものです。魔力光である<破壊光線>を捻じ曲げることはできません」
「……重力制御かもしれない」
グレアムの呟きにアロルドとマルグレットが驚きの表情を浮かべる。
「なんだ?」
「いえ、重力の概念を知っていることが意外で」
マデリーネやベイセルといった上流階級と交流を持つようになったグレアムは、この世界の科学知識は意外と低くないことに気づいていた。
ただ、残念なことにそれらの知識は王族や高位の貴族に独占されているようだった。師匠のヒューストームも免疫については知らなかった。平民出身の彼は知識を得る機会がなかったのだ。
「じゅうりょく?」
ティーセがポカンとした顔をする。
「いや、習っただろう? 12の歳までにそこらへんの知識は詰め込まれるはずだ」
「……ああ、じゅうりょく、じゅうりょくね」
ティーセは髪の毛先をいじり始める。
「うん、シッテル、シッテル。あれよね。ほんと、困りものよね。ちょっと油断するとできちゃうんだから」
彼女の目線の先にあるのは毛先の枝毛。
「……ある一定の質量を持った物体は周囲のものを引きつける性質を持つんだ。"ロードビルダー"はそれを自在に操れるんだと思う」
"ロードビルダー"の移動要塞は重力制御によって恒常的に重量を軽減させていたのではないだろうか。そうでなくては、ちょっとした山より大きなあの巨体がまともに動けるわけがない。
「周囲の空間を重力で捻じ曲げることで<破壊光線>の軌道を逸らしたのでしょう」
「指向性を持って重力を操れるというのか?」
「……俺が引き寄せられた時も風圧を感じなかった。<飛行>魔術がかかっていても少しは感じられる。だが、あの時は全く感じなかった。空間ごと引き寄せられたんだとしたら納得できる」
「重力による空間歪曲。<白>が通じなかったのはそれが理由でしょう」
移動要塞は<白>によって消滅しても、その内部にいた"ロードビルダー"は健在だった。
「<白>は白光に晒されたものしか燃やさないのだろう? 単に奴に届かなかっただけかもしれん」
「白光は物体を透過します。中にいたとしても防げるものではありません」
白光は"光"といっても電波や放射線に近いのかもしれない。
「<白>か……」
グレアムが王国から奪取した<白>は残り三つ。王国と交渉するために、最低でも一つ、できれば二つは残しておきたいと思っていたが、最悪全部使わざるを得ないかもしれない。
「別方向からの同時攻撃。これなら通じるか?」
王国は蟻喰いの戦団が立てこもるクサモを囲むように<白>を配置していた。魔力を燃料にする<白>は<魔盾>や<魔壁>では防げない。実質、<白>を防ぐには魔術で魔術を消去する矛盾を実現する<魔術消去>しかなかったのだ。
王国首脳部は、普通に<白>を発動してもグレアムに防がれてしまう。そこで複数の<白>を別の場所から同時に発動することにした。グレアムでも同時に多方面には<魔術消去>を展開できないと考えたのだ。
事前に手を打っておいてよかったとグレアムは思う。拠点を定めれば当然、そこが<白>の目標になると考えて対策を施した甲斐があった。実際にやられていたら防げなかったかもしれない。
そして、<白>の多方面同時攻撃は"ロードビルダー"も防げないかもしれない。重力制御の発動には腕が関係していることには既に気づいている。腕から発動した空間歪曲で前面からの<白>は防げても、背面と側面からの<白>は通じるのではないか。
「やめておいたほうがいいよ~。無駄だから~」
「「「「…………」」」」
グレアム、ティーセ、アロルド、マルグレットの四人はお互いに顔を見合わせる。
「今、誰が喋った?」
逃げた連中が戻ってきたのだろうかと周囲を見渡してみるが誰の姿も見つけられない。
「こっちこっち~」
「どこだ?」
声のした方向に視線を向ける。だが、誰も見つけられない。
いや、薄ぼんやりと人の輪郭のようなものが見える。
そう認識した途端、輪郭内部に色が付き始めた。
「「「「!?」」」」
「世界線移動を感知したから様子を見にきたんだけどね~。面白い話をしていたからつい口をはさんじゃった~」
そうのんびりとした口調で話すのは白銀の翼を持つ一人の天使だった。