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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
275/441

106 愚者の願望 1

 1.山脈を不可視の力で切り開く(道を作る力?)

 2.羽も翼もなく自由自在に飛び回る

 3.アロルド達の動きを封じる(大規模・広範囲に)

 4.兵士達を不可視の力で握りつぶす

 5.遠距離にいたグレアムを一気に引き寄せる

 6.<破壊光線>を捻じ曲げる

 7.大量の眷属

 8.超回復能力

 9.ブレス


 グレアムは銀色ドラゴンの特徴を黒板に書き留める。


「こんなところでしょう。何か他に懸念点でも?」とマルグレット。


 どうしても岸壁に叩きつけられた時に抱いた違和感を拭いきれない。前世の経験ではこういった違和感を放置しておくと後になって問題になってくる。開発したシステムをユーザに引き渡した時点で重大な設計ミスが発覚したり。無論、ただの杞憂であったケースもあるのだが。


「……いや、気にしないでくれ」


 だが、具体的に説明できない以上、グレアムとしてはこう言うしかない。


「それではまず、"ロードビルダー"の中から出てきた銀色のドラゴン。あれこそ"ロードビルダー"の本体との考えに異論はないことと思います」


 進行役となったマルグレットの言葉にグレアムとアロルドは頷く。


「私たちが今日まで上級竜"ロードビルダー"と考えていたあれは本体や眷属を運ぶための移動要塞みたいなものと考えられます」


「魔物と違いドラゴンは疲労もするし睡眠も必要だ。そういうものがあったとしても確かにおかしくはないな」


 兵員を安全に消耗なく敵地まで運べる。戦略的にも理想的だ。だが――


「あれは生き物だったのか? それとも作り物?」


 生き物であれば気が遠くなるほどの長い年月をかけてあれほどの大きさに成長することもあるかもしれない。作り物であれば誰がどうやって作ったというのか。


「…………」


 グレアムの疑問にアロルドとマルグレットは答えを持っていないようだった。


「考えてすぐに答えが出ないことは一旦、置いておこう」


「そうですね。それではあの銀色ドラゴンの呼称ですが――」


「"ロードビルダー"でいいだろう。サイズが小さくなっただけで王国に侵攻しようとしている存在であることに変わりない」


 アロルドの言葉にグレアムは頷く。


「それでは"ロードビルダー"本体についての考察を進めていきましょう。そうですね、まずは分かりやすい『9.ブレス』について。口腔から高温の熱を放射する"ロードビルダー"の近・中距離攻撃手段の一つです」


 ちょっとした湖沼すら干上がらせるという熱量。この作戦を指揮していたジンジャー・ボネット中佐はこのブレスを浴び骨すら残らなかったという。グレアムも浴びたが生き延びたのはアダマンタイトスーツのおかげだろう。


「魔術障壁でも防げます」とマルグレットが断言する。


「過去に人類大陸に侵攻してきたドラゴンもブレスを使った記録があります。その際の戦闘記録では<魔壁(マジックウォール)>で防げたと」


「ならば、それほど脅威ではないな」とアロルド。


 ブレスを使う際に口腔を開くという予備動作もある。"ロードビルダー"のブレスを防ぐことは難しくないだろう。


「次に『8.超回復能力』ですが――」


 マルグレットはこのまま逆順に進めていくことにしたようだ。特に異論はない。


「ドラゴンは大抵、強い回復能力を持つと聞く。だが、あれほど凄まじいものとは思わなかった」


 アロルドは氷雪剣グラキエスで"ロードビルダー"の片目を奪った。奴の右目に突き立てられた氷雪剣は血を結晶化し無数の氷柱となる。


「だが、一分も経たないうちに完全に癒えていた」


 グレアムが超長距離から放った<破壊光線(ディザスタービーム)>も同じだ。黒い光線は"ロードビルダー"の体を傷つけたが、いつの間にか無くなっていた。まるで初めから傷などなかったかのように。


「ティーセの"アドリアナの天撃"ですら完全治癒まで三分とかかっていない。奴を倒すには短時間、もしくは一撃で息の根を止めるしかない」


「それについては気になる点があるの」


「!? ティーセ!」


 気を失っていたティーセがゆっくりと体を起こす。全身に薄い膜のようなものがかかっているのは<飛行>魔術だろう。<飛行>魔術には保温機能が備わっているため、低体温症対策にマルグレットがかけたのだ。ただ、そのおかげで喉から水分が失われて声が荒れている。


「待ってろ。今、湯を沸かす」


 グレアムは亜空間から七輪と炭を取り出して魔術で火を起こすと、そこにヤカンをかけた。


「白湯ですまんが」


「十分よ。ありがとう」


 湯のみを笑顔で受け取るティーセ。顔色はよくないが命に別状はなさそうだった。


「それで気になる点というのは?」


「"ロードビルダー"がグレアムに攻撃しているときよ、お兄様」


「岸壁に叩きつけられたこいつを何度も殴りつけていた時か?」


「ええ。あの時、"ロードビルダー"は拳は血を流していた。それ自体、素手で殴りつけているんだからおかしくないんだけど拳はかなりの時間、傷ついたままだったと思う」


「確かか!?」とグレアム。


「そういえば」とアロルドもグレアムからもらった白湯を傾けながら思い出したように言う。


「あいつが最後にこちらに手をかざした時も傷ついたままだった」


「……"天撃"で大ダメージを負った傷すら回復した後でも拳の傷は残ったままだったと? これは、どいうことだ?」


 自分が攻撃してできた傷は超回復能力の対象外だとでもいうのか?


「ティーセ。過去に上級竜を倒したことがあると言っていたな。その時はどうだったんだ?」


 過去の例からヒントを得ようと考えたが――


「ごめんなさい。"アドリアナの天撃"一発でケリがついてしまって……」


 超回復能力は確認できなかったという。


「……グレアム殿。もしかして、アダマンタイトを身につけていましたか?」とマルグレット。


「あの黒いのがそうだ」


「アダマンタイトは赤銅色だ。色が違う」


「アダマンタイトを極薄にして裏地を張り付けている。黒く見えるのは裏地の色だ」


「であれば、あの噂は本当だったようですね」


「どんな噂だ?」


「アダマンタイトはドラゴンキラーだと」


「いや、それは否定されたはずだ。実際にアダマンタイトで作った武器で試したが特に大きな効果は認められなかったと聞いている」


「ですが、それは下級竜や中級竜に対してです。今回のように上級竜に試したことはなかったはず」


「アダマンタイトでつけられた傷は回復を著しく遅らせるということか」


 であるならば好都合だ。グレアムの切り札もアダマンタイトを使用している。問題はその切り札をどのようにして"ロードビルダー"にぶつけるかだ。何せグレアムの切り札はあくまで対軍用であり、動き回るような個体は想定していない。


「アダマンタイトの武器を持っているか!? 持っていたら貸してくれ!」と勢い込むアロルド。


「悪いが手持ちにない」


正確にはアロルドが使える形での武器が手持ちにない。


 加工前の塊ならあるのだが……


「殿下。とりあえずアダマンタイトの調達について、ひとまず置いておきましょう。次に『7.大量の眷属』です」


「特に議論することはないだろう。残っている眷属は"ロードランナー"だけで<飛行>魔術を使う俺たちの脅威にはならない」


 そうだろうかとグレアムは疑問を抱く。"ロードビルダー"のような強力な個体があれほど大量の眷属を抱える理由があるのではないか。それともドラゴンとはそういう生態を持っているのか。


「あれは何だったのかしら? <白>が発動した時、"ロードガーディアン"が自ら<白>に向かっていったようだったけど?」


 飛んで火に入る眷属といったところか。しかし、何のために?


「"ロードビルダー"本体を守ろうとしたのかもしれません」


「意味がないだろう?」


「ですが、そうしないと"ロードビルダー"に粛正される。()()はそういうことだったのでは?」


「……()()か」


 "ロードビルダー"本体が現れた時、奴がまず最初にやったことは生き残っていた"ロードガーディアン"を例の不可視の力で潰すことだったという。


「ドラゴンの世界も殺伐としたものだな」


「まったくだ」


 妙なところで意見が一致するグレアムとアロルドだった。


 ◇


「グゥワヮァア!!!」


 人間が"ロードランナー"と呼ぶ二足歩行の下級ドラゴンは恐竜のヴェロキラプトルに近い姿をしている。そのヴェロキラプトルの中で一際大きな個体が"ロードビルダー"ネイサンアルメイルによって吊るされていた。不可視の力により首元を抑えられ、情けない鳴き声で赦しを乞うている。


 ネイサンアルメイルは怒っていた。


 ネイサンアルメイルが切り開いていく道に押し寄せる眷属ネルシ。そのネルシの数が半減していたのだ。ネイサンアルメイルが眠りにつく前には数十万はいたはずだ。


「グワゥア!!!(あの羽虫どものせいです!!!)」


 グレアムの<破壊光線(ディザスタービーム)>と<白>による攻撃はネルシの数を大幅に削っていた。


 ネルシの統率を任されていたこの個体は、主が切り開いていた"道"に誘導することで半分以上の同族を<白>の炎から守っていた。だが、ネイサンアルメイルにとってそれは何の功績にもならない。


「グギャ!?」


 全身を潰されその血と肉塊が谷底へと落ちていく。


(羽虫どものせいだというなら、羽虫どもに責任をとってもらおう)


 減った分を奴らの血肉を食糧にして増やす。


 もとより人類大陸侵攻の目的はそれである。


 既にマヌ高原の標高は1000メイルを切っている。ネルシの中でも比較的、元気な個体は"道"の両脇から崖を駆け上り始めている。"道"の完成を待たずに王国へと侵入するつもりだ。


 人間という食糧が待つ地へと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] めちゃくちゃ面白かったです! 最弱と呼ばれたスライムを使って上位龍に戦っていくのかすごく気になります! 更新心よりお待ちしてます。
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