101 終わる世界 34
「グレアム!!!」
岸壁に叩きつけられた愛しき婚約者の姿を見てティーセは叫んだ。
気を失っているのかグレアムはピクリともしない。全身を打ち付けたショックでもしかすると、既に――
「くっ!」
グレアムの傍に駆け寄ろうとするティーセ。だが、頭から抑えつけられるような重圧のせいでろくに前に進めない。まるで泥の海を泳いでいるかのようだ。
必死に前を進もうとするティーセに見向きもず、銀色ドラゴンは岸壁にめり込んだグレアムの前に移動する。
「GUOOOOOOOOOO!!!」
そして、一声吠えると両の拳を猛然とグレアムに叩きつけ始めた。
ドガン! ドガン! ドガン! ドガン! ドガン! ドガン! ドガン! ドガン!
「や、やめなさい! やめて!」
ティーセの叫びは悲鳴に近い。
ドラゴンの一打ごとに岸壁に亀裂が入り、宙に血しぶきが舞う。
やがて――
ドッガラガッシャァアアン!
ドラゴンの連打に耐えられなくなった岸壁は広範囲に崩落した。
「ああ」
粉々に砕かれた石と砂が大量に深い谷底へと落ちていく。グレアムと共に。
その姿はまるで糸が切れた操り人形のようで……
「GUOOOOOOOOOO!!!」
勝利を告げるかのようにドラゴンが吠えた。
「終わりだ」
誰かが絶望の声をあげる。
その言葉を裏付けるようにドラゴンがこちらに右手を向けた。
「ぐっ!?」
「がぁああ!」
「いいい!」
不可視の締め付けによって、タイガー・ロア作戦主力部隊の生き残り全員が苦悶する。
至高に連なる自分の体を傷つけた貴様らを一人も生かしておかない。
そんな強い殺意をドラゴンから感じとる。
「グ、グレアム……」
強烈な圧迫に目と鼻から血が流れる。それでもティーセの視線は愛しい人を殺した仇を見据えていた。
だから気づいた。
(…………血?)
ドラゴンの手から血が流れている。
岸壁を崩すほどの強さで殴りつけたのだ。手の表面が傷ついてもおかしくはない。だが、傷がついたままというのはおかしい。どんなに傷つけても銀色ドラゴンは瞬く間に回復したのだ。アロルドが潰した目さえ既に完治しているというのに。
そのティーセの小さな疑問は――
ドシュゥウウウ!
深い谷底から飛来した黒い閃光によって吹き飛ぶ。
「GIYAAAAA!!!」
右腕を吹き飛ばされたドラゴンの悲鳴と同時にティーセ達の拘束が解かれた。
「グレアム!?」
黒いスーツを纏っていない生身の姿で、銀色ドラゴンを見上げていた。
グレアムの周りは数えるのも馬鹿らしいぐらいの無数の魔力塊が浮かんでいる。
それが、一斉に光線となって銀色ドラゴンを襲い下から貫いていく。
「――――――――!!!」
ドラゴンの首が胴体から吹き飛んだ。
◇
グレアムがドラゴンの不可視の力によって岸壁に叩きつけられる直前、グレアムは魔導兵装オードレリルを残し、自分の体をタウンスライムの亜空間に収納した。途中から引き寄せられていたのはアダマンタイトの外装とエスケープスライムの皮を縫い合わせ内装だった。
亜空間に逃げ込むと同時にグレアムはエスケープスライムの皮を膨らませた。グレアムを亜空間に収めたタウンスライムが衝撃で潰れないように緩衝材としたのだ。
ドゴォォォオオン!
岸壁に叩きつけられたと思しき衝撃音が思念波を通して伝わってくる。
スライムにもグレアムにもダメージはない。アダマンタイトの外装でなければ粉々になっていただろう。ドワーフ少女メイシャの仕事を疑ったことに心の中で詫びを入れる。
そうしてグレアムはタウンスライムの体をできるだけ小さくして外装の隙間から外に出る。
亜空間から出たグレアムは幻影魔術で姿を隠しつつ、猛然と抜け殻に対して攻撃を加える銀色ドラゴンを観察した。
(どうすれば、こいつを倒せる?)
超長距離射撃に<破壊光線>は通じなかった。グレアムのこれ以上の武器となると王国から奪った<白>を発動する魔道具と最後の切り札のみである。
とはいえ、<白>はうまくやらないとティーセ達を巻き込みかねないし、最後の切り札は発動に時間がかかる。
さて、どうするかと考えているうちに、銀色ドラゴンの攻撃によって岸壁は崩落する。そうして、今後はティーセ達に右手を向けると彼女達は苦しみだした。
(……右手?)
そういえば<破壊光線>が通じなくなったのも、こちらに右手を向けてからだった。
(ヤツの右手がヤツの最大の防御手段であり攻撃手段か!)
グレアムは魔銃を抜いた。<目標指示>を銀色ドラゴンの右肘にあてる。すかさず大量の<破壊光線>がグレアムの周りから発射され、ドラゴンの右腕を吹き飛ばした。
「GIYAAAAA!!!」
銀色ドラゴンが怒りと殺意の目を黒い光の発射元――グレアムに向けた。
「それは悪手だ」
既にオードレリルの自動迎撃スイッチをオンにしている。
無数の黒い光線が銀色ドラゴンを刺し貫いてゆく。
ドバン!
勢いで首が吹き飛ばされた。
落ちていくドラゴンの首。
その過程で、グレアムと、ドラゴンの視線が交差し―――――――――――――――
繧「繝懊?繝医?繝√ぉ繝?け繧「繧ヲ繝医?∝イク螢√?∝娼縺阪??シ抵シ撰シ抵シ托シ撰シ呻シ撰シ暦シ托シ難シ包シ費シ難シ偵?√☆縺ケ縺ヲ縺ョ縺ァ縺阪#縺ィ縺瑚ィ倬鹸縺輔l縺ヲ縺?k繧「繧ォ繧キ繝?け繝ャ繧ウ繝シ繝峨↓螟ゥ鮴咲嚊莉」逅?い繧ッ繧サ繧ケ?昴ヱ繧ケ繝ッ繝シ繝会シ壹¥縺?ス偵▽縺?♀?撰シ?縺ゑス難ス?ス?ス?ス茨ス奇ス具ス鯉シ幢シ壹?搾ス夲ス?ス厄スゅs?阪?√?ゅ?繝サ?・
―――――――――――――――
ドゴォォォオオン!
「――――!?」
全身を叩きつけられた衝撃で息ができない。
(何だ? 何が起きた?)
超長距離から<破壊光線>を撃っていたグレアムは突然、不可視の力で引き寄せられたのだ。それでもグレアムはそのまま攻撃を続ける。だが、やはりグレアムの<破壊光線>は銀色ドラゴンの手前で歪め逸らされる。
そうして、グレアムは岸壁に叩きつけられたのだ。
(ぐっ、判断を間違えた。……………………間違えたんだよな、俺は?)
奇妙な違和感を感じていたグレアムの頭上に影が差した。
銀色ドラゴンが目の前に移動し、猛烈なラッシュをかけてきたのだ。
ドガン! ドガン! ドガン! ドガン! ドガン! ドガン! ドガン! ドガン!
(がっああああああ!)
繰り返し打ち付けられる拳の衝撃で全身が引きちぎられるような痛みが走る。メイシャのアダマンタイトツーツでなければ、とっくにミンチになっていたことだろう。グレアムはメイシャの仕事を一瞬でも疑ったことを詫びた。
キィィン! バァシュゥウ!!!
オードレリルの自動迎撃機能によって<破壊光線>が発射される。だが――
ギュィイン!!
黒い光は右手を盾のようにかざす銀色ドラゴンによって虚空へと軌道を変えられた。
さらに銀色ドラゴンは口を大きく開けると――
グワァ!!!
「!?」
白い閃光がドラゴンの口から放たれた。
湖沼を一瞬で蒸発させるといわれる竜の吐息。
それを至近距離からグレアムは食らった。