9 魔術スキル
グレアムはレナに治癒魔術を教えてくれるように頼み込んだ。
そこでグレアムは魔術を身につけるには魔導書と魔術スキルが必要であることを知った。
亡き母から譲り受けたという治癒の魔導書を見せてもらうと、そこには"怪我治療"、"毒消し"、"麻痺消し"、"精神異常回復"、"病治癒"、"呪消し"、"石化解除"、"再生"と記載された複雑怪奇な図形があった。
レナによると魔術スキル持ちは、その図形を見ただけで魔術が使えるようになるのだという。
もっとも、魔導書に記載された順に難易度が上がり、上位の治癒魔術を使うには研鑽が必要で、レナも"麻痺消し"までしか使えないとのことだった。
(もしかして、QRコードみたいなものか? 頭に魔術がインストールされた?)
その仮説が正しければ、魔術スキルとはQRコードを読み取るためアプリソフトということになる。
なんとかアプリソフトなしでも魔術をインストールできないか考えるグレアム。
そのためにはまず図形を読み解く必要があると考えたが、複雑怪奇な図形の一つ一つの線には、それぞれ意味があるらしく、それこそ魔術を専門的に研究している人間でないとわからないとのことだった。
魔術使用を諦めきれないグレアムは魔導書の図形を研究したかったが、魔導書は貴重品で王国では売買を禁じられている。
そして、レナの魔導書はレナの母の形見の品。
気軽に持ち出せるものではない。
紙に書き写すことを考えたが、グレアムには書き損じなく写す自信はない。
財政難の孤児院で貴重な紙を無駄にするわけにもいかない。
どうするか考えたグレアムは半白半透明なタウンスライムのムサシ見て、あるアイデアが浮かんだ。
まず、魔導書を机の上で開く。
そして、魔導書の上でムサシに薄く伸びるように命じた。
グレアムの思惑通り、魔導の図形がムサシの体を透き通って見えた。
グレアムは指先で図形の線をなぞり、それを記憶するようにムサシに命じる。
半白半透明なタウンスライムをトレーシングペーパーがわりにしたのだ。
スライムに眼があればなぞる必要はなく図形をそのまま記憶させれば簡単だったのだが、それはないものねだりだろう。
全神経を使ってグレアムは線をなぞる。
一通り線をなぞり終えると、ムサシを魔導書の上から取り上げた。
そして、なぞった線を浮かび上がらせるように命じた。
命じられたムサシは体を蠢かせていたが、しばらくすると薄く伸びた体の表面に黒い線で図形を浮かび上がらせた。
その図形は魔導書にあるものと寸分違わない。
グレアムはバックアップとして転記した図形をムサシから他のスライムたちに転送させた。
スライム同士の思念波による疎通は正確だった。
転送された図形も魔導書のものと違いは見当たらなかった。
時間経過による劣化も心配したが、一ヶ月経っても、一年経ってもスライムたちに移した魔導の図形に変化はなかった。
そうして、グレアムは治癒の魔導書のすべてをスライムたちに転写したのだった。