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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
269/442

100 終わる世界 33

「きゃぁぁぁあああああああああああああああ!!!!」


 マルグレットの悲鳴が虚空に轟いた。


「シェリー! シェリー!!」


 錯乱したように銀の人型ドラゴンに握り潰された妹の傍に駆け付ける。()()は既に人の形をとどめていない肉の塊だった。


「ヒーリング! ヒーリング! ヒーリング!」


 マルグレットが治癒魔術を必死に連呼するが、効果を発揮することはなかった。魔力が光の粒となって空しく四散する。


「ああっ、シェリー……」


 シェリーの亡骸を抱きかかえたマルグレットは、飛行魔術に組み込まれた自動落下制御機構に任せるまま、ゆっくりと堕ちていった。


 ◇


「シェ、シェリー」


 シェリーに命を救われたアロルドは激しく動揺していた。


 自分の身代わりとなって死んだ。


 それ自体はいい。忠臣の鏡だ。最大限の賛辞を贈ろう。


 だが、シェリーの死がアロルドにもたらした衝撃は思いのほか大きなものだった。そのことに戸惑い、動きを止める。


「!? ぐっ!」


 その隙を逃すほど、銀色の人型ドラゴンは甘い相手ではなかった。


 再び不可視の巨手によって動きを封じられる。


「ぐうぅぅぅ!」


 銀色ドラゴンの左手が握り締められると同時にアロルドの締め付けも強くなる。


 このままシェリーと同じように潰されると思った瞬間、唐突に締め付けが弱まった。


「お兄様! 無事!?」


「! ティーセか!?」


 銀色ドラゴンの左手首から赤い鮮血が迸っている。異変を感じたティーセが戻って斬りつけたのだ。


「お兄様、動いて!」


 眼から涙を流しながらティーセは叫んだ。


 シェリーが潰される瞬間をティーセも見ていたのだ。


(そうだ。呆けている場合ではない。今は動かねばならないのだ。だが……、どうする?)


 ティーセは巨大なドラゴンの周りを縦横無尽に飛び回る。その光景は手の平サイズの妖精が人間の周りを飛び交うかのようである。銀色ドラゴンは左手を振るいティーセを叩き落とそうとしているが、ティーセは巧みにかわし、あまつさえその腕に斬りつけていく。


 だが、ドラゴンの傷は瞬く間に回復する。左手首の傷はかなり深いように見えたがそれもほとんど治癒しているようだった。


(自然治癒能力。"ロードビルダー"と同じ――、いや、それ以上の回復能力)


 氷雪剣グラキエスの氷結能力でも心もとない。"ロードビルダー"よりたいぶ小さくなったとはいえ、敵はまだ巨大だった。


(奴の回復より、こちらが与えるダメージが上回るには……)


 アロルドは必死に頭を回転させる。


「トミー! オースティン! いつまで呆けている!」


 ごく僅かな思考の後、アロルドは叫んだ。


 トミーとオースティン。魔斧と魔槍を使う歴戦の兄弟戦士である。


「そのご自慢の武器は飾りか!? 今、使う気がないなら木こりになって豚の串焼きでも作ってろ!」


「「何を!?」」


「魔術師ども! 貴様らもだ! そのご大層な杖、振るわなければそこらの老人と変わらんぞ! それとも若作りが得意なだけで痴呆が進んだか!?」


「「「!!!」」」


 彼らにとって杖は高位魔術師(ハイマジシャン)の証である。老人が持つ杖と変わらないというアロルドの侮辱に彼らは過剰に反応した。


「ふざけるな!」


「今のセリフは許さんぞ!」


「だったら証明してみせろ!」


 氷雪剣グラキエスの剣先を銀色ドラゴンに向ける。


「"妖精王女"がドラゴンの注意を引き付けている! このチャンスを逃すな!」


 アロルドは突進した。


 トミーとオースティン、そして他の者達もそれに続く。ドラゴンへの本能的恐怖を塗りつぶすため、あえてアロルドの煽りに乗った彼らは果敢にドラゴンに斬りこんだ。


 トミーの魔斧がドラゴンの足に叩きつけられ、オースティンの魔槍が背を穿つ。さらに無数の魔術がドラゴンの全身に満遍なく着弾した。


 そしてアロルドの氷雪剣グラキエスがドラゴンの巨大な右目に突き立てられる。氷雪の呪いが傷口から流れ込み、直後に無数の赤い氷柱がドラゴンの目から飛び出てくる。


「GUOOOOOOOOOOO !」


 怒りの声を上げる銀色ドラゴン。


「効いているぞ! 次は左目だ! トミー、オースティン! 俺を援護――、!?」


 突然、アロルドの動きが止まった。


(なんだ!?)


 頭上から不可視の大きな力で抑え込まれて身動きがとれない。


 周囲を見渡せば、仲間達も同じようだった。ティーセすら、動きを制限され苦悶の表情を浮かべていた。


(広範囲制圧能力!? こんなものまで!?)


 誰もが身動き取れない中、ドラゴンはその左手を動かす。


「!? い、いや―」


 バシュ!


 左手の不可視の力で魔術師の一人が握りつぶされる。


(まずは遠くにいる煩い羽虫から潰そうという魂胆か!)


 アロルドは何とかこの不可視の拘束を解こうとあがく。だが、全身に鉄塊を括りつけられたかのように体の自由がきかない。


 バシュ! バシュ! バシュ!


 そうしているうちに一人、また一人と潰されていく。


(このままでは全滅だ! どうにか――)


 ドォォォオン!


「GIIYAAAAAA!」


 突如、黒い閃光が無防備な銀色ドラゴンを襲った。


「<破壊光線(ディザスタービーム)>!? マルグレットか!?」


 ドォォォオン!


 二発目の黒い閃光が再び銀色ドラゴンに着弾する。


「!? どういうことだ!? マルグレットはどこにいる!?」


 本来、射程距離が数百メイルしかないはずの<破壊光線>が遥か彼方から放たれたように見えたのだ。


「!? グレアム!」


「グレアムだと!? まさか、<破壊光線>の超長距離射撃!?」


 そんなことができる魔術師などアロルドは聞いたことがない。


 戦場の要となる魔術についてアロルドは学んだことがある。その中で魔術式を改変すれば、規定以上の威力や射程距離を出せると教わった。


 だが、それはあくまでも魔術師の魔力と計算能力が許す範囲での話だ。


 高位魔術の射程距離を数十倍にも伸ばすには莫大な魔力と、脳が焼き切れるほどの計算能力を必要とする。下手をすれば廃人になりかねないとも。それを何発も撃ちだすなど――


「奴は化け物か!?」


 ドォォォオン!


 さらに三発目が着弾する。


 これには銀色ドラゴンもたまらなかったようで、ついにその右腕を下した。主力部隊の総攻撃でも下ろさなかった右腕であり、不可思議な力で王国への道を作り続けていた右腕である。それを<破壊光線>が飛んできた虚空に向けた。


「何を!?」


 四発目が飛んでくる。


(!? 曲がった!?)


 銀色ドラゴンに着弾すると思った黒い閃光は、手前で弧を描くように曲がり、そのままドラゴンを通り過ぎていく。


 ドシュウ! ドシュウ! ドシュウ! ドシュウ! ドシュウ!


 五発目、六発目――、両手の指では足りない数の<破壊光線>が飛んでくるが、もはや一つとしてドラゴンに届くことはなかった。


「し、信じられない。は、<破壊光線>を曲げるなんて……」


(何なんだ、この戦いは? 何なんだ、こいつらは?)


 一方はありえない距離から高位魔術を連発し、もう一方はありえない現象で高位魔術を防いでみせる。目の前で繰り広げられているあまりにもレベルの違う戦いにアロルドは戦慄する。


「GURU?」


 銀色ドラゴンの口から初めて聞く呻き声が漏れる。


(戸惑っている? グレアムが何かしているのか?)


 銀色ドラゴンの視線と右手はグレアムがいると思われる遥か虚空に固定されている。


 すると、突然、銀色ドラゴンは右手を内側に翻して手首を何度も曲げる。まるでこちらに来いと促しているかのようだ。


(来るわけがない。恐らくグレアムは<視力増加(ビジョン)>で見ていた。拘束された俺たちを見て、近づくのは危険だと判断しているはずだ)


 この想像は恐らく間違ってはいない。であるのに、なぜか黒い人型の物体が高速でこちらに近づいてくる。


「な、グレアム!? なぜ、自分から近づいてくる!?」


「!? グレアムの様子がおかしいわ!」


「何だと!?」


 ティーセの言う通り、それは自分の意志で飛んでいるというより何かに引っ張られているかのようだった。


(引っ張る!? ――あのドラゴンの右手か!)


 グレアムが目前にまで迫ると、銀色ドラゴンは右手を大きく外に振った。


「「!!!」」


 ドゴォォォオオン!


 超高速で飛来したグレアムの体が、岸壁に叩きつけられた。

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