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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
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96 終わる世界 29

 飛び去ったマルグレット・ゼスカを見送った後、グレアムは小さな丸椅子を亜空間から取り出して座った。


 マルグレットから合図が来るまで特にやることはない。朝から飛び続けて少し疲れたので休憩しようと思った。ついでに少し空腹を覚える。


 グレアムはマルグレットから預かった魔杖を脇に置いて、茶色の丸い玉を取り出して齧りつく。


 米粉と小麦粉と蜂蜜と植物油と水をよく混ぜて蒸した保存食だ。忍者のカロリー〇イトとも称される兵糧丸のつもりで作ってみた一品だが、まあ、食えなくもない。


(?)


 突然、周囲がフッと暗くなる。


 "ロードビルダー"がトラロ山脈を割るようにして作り上げた幅二キロメイルほどの長大な道路。その両側には高さ数千メイルの岸壁が広がり、中天にあった太陽がわずかに傾けば陽は差さなくなる。


 それでも何も見えないというほどではない。岸壁に太陽光が反射して谷底にまである程度、光が届く。


 簡単な食事を終えて手持ち無沙汰になったグレアムはその岸壁に近づいて手で触れてみた。


(まるでコンクリートだな)


 岸壁の一面は白い壁で覆われていた。そこに<衝撃弾(ショックバレッド)>を数発撃ち込んでみた。


「…………」


 わずかに罅が入る。その亀裂にツルハシを突き立てる。


 ガンッ! ガンッ! ボコッ!


 数度、ツルハシを振るってようやく土が見えた。


 いつの時代の地層だろうか?


 数百万年は経ているかもしれない。


 博学強記の天才()ならば、そこに埋まっている原始的な貝や虫の化石を根拠に雄弁に語ってくれたかもしれない。


 だが、グレアムは地質学に興味があるわけではない。確認したかったのは岸壁を覆うコンクリートのような物質である。それは十センチほどの厚みがあった。


「…………」


 "ロードビルダー"はただ力任せに山を抉っているわけではない。


 岸壁も、グレアムが今、立っている道も何らかの物質によって舗装してあるのだ。


(何かの錬成魔術か? "ロードビルダー"とはよく言ったもんだ)


破壊不可(アンブレイカブル)>や<状態維持ステート・メンテナンス>こそかかっていないが、これならば崖崩れなどで、そうそう道が塞がれることもないだろう。


 だが、それは竜大陸からドラゴンが王国に侵入してくるという意味でもある。


(何だか妙なことになってしまった)


 つい、数時間ほど前まではヘイデンスタム公爵軍を相手に戦っていたのだ。それがドラゴンと戦う羽目になっている。


 別に不満があるわけではない。師匠のヒューストームからもドラゴンは人類の天敵であり、イリアリノスに行けば否応なく戦うことになると匂わされていた。


 ただ、準備期間が欲しかった。大賢者に人類の天敵とまで言わしめるドラゴンについてグレアムはほとんど何も知らないのだ。


(たいてい行き当たりばったりの計画は失敗するんだよな……っ!?)


 何者かが突然、グレアムの目の前に出現する。


 旅のマントを羽織ったその男は剣を振るった。


 ガキン!


「む?」


 グレアムの右手首を狙って振るわれた剣はアダマンタイトの防御力に弾かれる。男はそのことが意外だったようで小さく呻いた。


「その服は、まさかアダマンタイトか?」


「!? ソーントーン!」


 痺れる右手首を抑えて咄嗟に距離を取るグレアム。


 襲撃者はグスタブ=ソーントーン。今はなきブロランカ島の領主にして、グレアムと共に国王ジョセフを殺害した王国最強剣士だった。


「いきなり何をする!?」


「……異なことを言う。貴様は我が領民の仇ではないか」


「なに!?」


「貴様らが反乱を起こさなければ、ブロランカがああなることはなかったのではないか?」


「馬鹿をいえ! 俺たちが反乱を起こさなくてもディーグアントはいずれ地上に溢れ<白>は使われた! ブロランカの命運は蟻を島に受け入れた瞬間に決まっていたんだ!」


「そうかもしれんし、そうでないかもしれない。いずれにしろ、反乱を起こした奴隷は処す必要がある」


「反乱を起こされたくなければ、せめて生命を保証しろ! 命を脅かされれば誰でも反抗する! この無能領主め!」


 帝国でも奴隷制が採用されているが奴隷の主は奴隷の衣食住を過不足なく供給し、その命を守るように法で定められているという。それは奴隷の人権のためではなく、反乱を起こさせないための処置である。


「だいたいお前はもう領主じゃないだろ!」


「……痛いところついてくる。まぁよい」


 ソーントーンが剣を構える。もはや問答無用ということだろう。


 グレアムは魔導兵装オードレリルのスイッチを入れる。


(!?)


 だが、スライムネットワークはソーントーンを攻撃しない。


(敵意がない!? どういう――)


 その瞬間、ソーントーンが目の前から消えた。


「!?」


 慌ててその場を飛びのくグレアム。だが、右手首に激痛が走った。


「――!!」


 ソーントーンによってアダマンタイトスーツごと切断されていた。


「お前の言い分も一理ある。本来なら首を切るところだが、今回はこれで勘弁してやろう」


 そう言い残してソーントーンは消えた。グレアムの右手首を持って。


「な、なんだったんだ? いったい?」


 突然現れたと思ったら、ソーントーンの訳の分からない行動。


 だが、嫌な予感がする。


 初めからソーントーンはグレアムの右手首を狙っていた。何に利用するつもりか知らないが、ろくでもないことのような気がしている。


 だが、ソーントーンがどこに【転移】したのか分からないため追うこともできない。突然のことでソーントーンにスライムをつける暇すらなかったのだ。


「はぁ」


 手首の<再生>を終えたグレアムはため息を吐く。


 それにしても今日はよく手首を切られる。


 "物理防御無効"効果のある妖精剣アドリアナは仕方ないとはいえ、ソーントーンの剣でもアダマンタイトスーツは通じなかった。


(このスーツ、特別、斬撃に弱いとかないだろうな、メイシャ)


 スーツを作ったドワーフ少女に心の中で問いかける。


 ガトリングガンの集中砲火にも耐えたアダマンタイトスーツである。単に相手が悪すぎただけだった。ソーントーンの"斬鉄剣"は厚さ三センチのアダマンタイトの兜すら両断するのだ。彼の前ではスーツなど薄紙に等しい。


 だが、それを知らないグレアムがスーツの性能に疑念を抱くのも無理ないことである。そして、スーツの性能は後にその身を以て知ることになる。


「!」


 いつの間にか、遥か西の空に緑色の煙が立ち昇っていた。マルグレットと取り決めていた合図だ。グレアムは自身に<飛行(フライ)>を再付与して"ロードビルダー"に向かって飛んだ。


 煙が緑色なら"ロードビルダー"に近づく、黄色なら遠ざかる。そして赤色ならば――


 一分にも満たない飛行で赤い煙が空に立ち昇った。


 グレアムは<白>の魔道具を取り出すと十秒後に起動するように設定する。


 地面に置いて、すぐにその場を離れた。無論、自分の身を守る<魔術消去(マジックイレイサー)>の準備は怠っていない。


 白光が周囲を照らしたすぐ後に、白炎がグレアムを襲った。


 ◇


「言われた通りにしたぞ、ケルスティン」


 不機嫌顔のソーントーンが転移した場所は不思議な空間だった。


 周囲は暗いが床だけが仄かに輝いている。その光源は床一面に群生しているシロツメクサの花弁である。小指の爪の半分もない花弁一つ一つが淡い銀色の光を放っていた。


「お疲れ様です、グスタブ君。それでは手首をこの中に」


 王国の魔女と言われ若い容姿のまま百年を生きる女騎士は硝子のケースを差し出した。ケースの中身は何らかの液体で満たされている。


 まだ血が滴るグレアムの手首を粗雑に硝子ケースのに放り込むソーントーン。これで用は済んだとばかりに姿を消した。


「やれやれ。嫌われちゃいましたか。まぁ、仕方がないですね」


 ケルスティンはケースの蓋を締めて手首を密封すると、まるで愛しいものであるかのように硝子ケースに頬をあてた。


「招待状は送りましたよ、グレアム君。そんなオオトカゲさっさと退治しちゃってください。あなたにはこれからもっと大切な役目が待っているのですから。ご来訪を、心からお待ちしていますよ」


 ケルスティン=アッテルベリのそんな独り言は、誰の耳に届くこともなく闇へと溶けていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ケルスティンみたいな全部知ってます顔のキャラ嫌いやわ~ あと色々と詰め込みすぎだし唐突すぎ
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