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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
262/441

93 終わる世界 27

 マヌ高原での"ロードビルダー"迎撃を目的としたジンジャー・ボネット中佐の"タイガー・アイ"作戦に同行したイリアリノス連合軍の兵士は約200名。


 そのうちの一人である若き兵士ルザはアロルドに続いて"ロードビルダー"に飛び移ると、洗濯用のタライほどもある大きさの眼球に剣を突き立てた。だが、表面は硬く、剣先が滑ってしまう。


 それでも、何度も剣を突き立てれば血が吹き出す。ルザの心に暗い喜びの念がわき起こった。


 イリアリノスのいくつもの町と村がドラゴンによって蹂躙された。進路上の建造物はすべて均されて形を失い、その場に残された人間は遍く"ロードランナー"の餌食となった。男も女も子供も老人も、貴族も戦士も魔術師も神官も農夫も奴隷も、人も獣人もドワーフもエルフすら、すべて等しく奴らの腹の中に収まった。


 ルザの村も同じだった。ルザの部隊が救出に向かったが、ルザには自分が生まれ育った村の場所が分からなかった。両親と姉弟の()()()()を見つけてようやくそこがルザの村だと判明した。近所の幼馴染の半分欠けた頭部を見つけたとき、とうとう胃の中のものをすべて吐き出した。


 眼から体中の水分が失われるほど泣いた。そして、この作戦の存在を知って志願した。


 辛く厳しい山越えができたのはひとえに復讐の念からだ。この部隊にいる兵士の多くはルザと境遇が似ている。イリアリノスの兵士達は全員"ロードビルダー"に飛び移り、それぞれ憎悪を持って剣や槍を突き立てていた。


「ルザッ!」


 誰かが自分の名を叫んだと思った瞬間、何者かに両肩を背後から掴まれる。そのまま爪を突き立てられ――


 ブチッブチッィィッッ!


 左右に体を引き裂かれた。


 悲鳴すら上げられないルザが最後に見た光景は


(……リザードマン?)


 全身に鱗が生えた人間のような姿のドラゴンだった。


 ◇


「なに、こいつら!? いきなりどこから湧いてきたの!?」


 ティーセが袈裟懸けに人型ドラゴンを斬り捨てると、すかざず横から別のドラゴンが爪で襲いかかってくる。


「ティーセ!」


飛行(フライ)>でティーセに追いついたアロルドがそのドラゴンの背中を氷雪剣グラキエスで斬りつける。人差し指ほどしかない浅い傷だが、傷口から血がいくつもの氷柱となって飛び出した。


「GUAAAAAA!!!」


 苦悶の断末魔をあげて人型ドラゴンは倒れた。


「お兄様!」


「無事か!?」


「ええ! でも、兵士たちが!」


 見れば人型ドラゴンがあちこちに現れてイリアリノスの兵士達を襲っていた。


 "ロードビルダー"の皮膚に生えた一際、大きな瘤。「パキャ!」とその表面が割れると中には例の人型ドラゴンが横たわっていた。人型ドラゴンはすぐに眼を覚ますと背中の翼をはためかせ飛び出してくる。


「"ロードビルダー"の直掩部隊というわけか! さしづめ"ロードガーディアン"とでも呼ぶべきか!」


 ティーセと背中合わせに人型ドラゴンと戦うアロルド。三桁に届くほどの数の下級竜を屠ってきた彼でも思わぬ苦戦を強いられる。


(こいつら、強い! サイズは小さいが、実力は中級下位クラス!)


 アロルドが倒せたのは不意をつけた最初の一体だけで、氷雪剣の斬撃は人型ドラゴンの巨大な爪で防がれている。


「お兄様、肩を借りるわ」


 ティーセがアロルドの肩に手をついて曲芸師のように片手で倒立する。その手を軸に回転して三体のドラゴンの首をまとめて刎ねた。さらには、ついでとばかりにアロルドが苦戦していたドラゴンまで一刀両断にしてしまう。


「…………」


 異母妹の異次元の強さに舌を巻くアロルド。


 ティーセがかつて討った上級竜は妖精剣とスキルのゴリ押しによるものだった。それがピュアミスリルといえど妖精剣よりも数段落ちる武器に、スキルの恩恵もほとんどない状態でこの強さである。


「ど、どうしてそんなに強くなってるんだ!?」

 

「愛よ!!!」


「あ、愛!?」


 断言するティーセ。実際は傭兵稼業の下積みにディーグアントの巣への決死行、そしてグレアムとの戦いの経験と初恋の昂揚感が奇跡的にマッチして一流の剣士として覚醒しただけである。


 だが、その事実を知らないアロルドはティーセの言葉を素直に受け取りグレアムに嫉妬の炎を燃え上がらせる。


(ティーセ、まさかあの下賤の男にすでに……)


 ティーセは兄がそんなあらぬ疑念を抱いているとも気づかずに"ロードガーディアン"に襲われている兵士達の救出に向かう。


「こいつら"ロードガーディアン"には一人では勝てないわ! 密集隊形! 五人一組になって対応しなさい!」


 そう指示を飛ばす間にも次々と人型ドラゴンを切り捨てていく。


 "妖精王女"の獅子奮迅の活躍に兵士の士気は上がっていく。


 指示通り密集隊形をとり槍襖で牽制する。兵士の装備では致命傷こそなかなか与えられなかったが、ティーセやアロルドのような特殊武器持ちによる一撃を与える充分な助けとなった。さらには――


 バシュゥ!


 雷撃が数体の人型ドラゴンをまとめて黒焦げにする。


「アロルド殿下、ティーセ殿下! 援護に参りました!」


 魔術師姉妹の妹シェリーが十名の魔術師とともに駆けつけてくる。


 魔術師の支援を受けた部隊はその力を何倍にもする。魔術師の参戦により一気に連合軍有利に進む――


 パキャ! パキャ! パキャ! パキャ! パキャ! 

 パキャ! パキャ! パキャ! パキャ! パキャ! 

 パキャ! パキャ! パキャ! パキャ! パキャ! 

 パキャ! パキャ! パキャ! パキャ! パキャ! 

 パキャ! パキャ! パキャ! パキャ! パキャ! 

 パキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ!!!


 ――かに思えたが"ロードビルダー"の皮膚に無数に生えた瘤。そこから次々と"ロードガーディアン"が飛び出してくる。


「!? いくら何でも数が多すぎる! お兄様! 撤退しましょう!」


「――ダメだ! 密集隊形を崩せば一気にやられる! ここで踏ん張るんだ!」


「なら私が血路を開きます!」


「ティーセ!?」


 ティーセが密集隊形から飛び出そうとする――、だが、その直前に目の前で爆発が起きた。それにより少なくない数の"ロードガーディアン"がミンチになる。


「中佐の援護射撃か!? 今だ、撤退しろ!」


 雪崩を打って兵士達はもと来た道を戻り始める。


「ティーセ、お前も!」


殿(しんがり)を努めます! お兄様も早く!」


「バカをいえ! お前を残し――!?」


 ガクリとアロルドの体が揺れる。<飛行>の魔術効果が切れたのだ。


 アロルドはシェリーの顔を見る。


 彼女は首を横に振った。すでにアロルドに<飛行>を再付与する余力はない。残された魔力は撤退の支援に使うべきだ。


「くっ! やむを得ん! 死ぬなよティーセ!」


「ええ、もちろんですとも! 愛しい旦那様(グレアム)を残して死ぬものですか!」


 "ロードガーディアン"の胴体を二つに割りながら返事をするティーセ。


「なっ!? 認めん! 認めんぞ!」


「殿下! そんなことより早く撤退を!」


「くっ! 後で話し合おう! 絶対だぞ!」


 既に十数体の"ロードガーディアン"と死闘を繰り広げるティーセの耳にアロルドの声が届いたかは怪しい。


 シェリーが水平にかざした魔杖の先端から<電撃(ライトニング)>が迸る。空中を一直線に走る雷撃が行く手を塞ぐ"ロードガーディアン"をなぎ倒していく。


 空から襲いくる敵は他の魔術師が<風刃(ウィンドエッジ)>で迎撃する。迎撃が間に合わない敵には<魔盾(マジックシールド)>で防ぎ、そこをアロルドが氷雪剣で斬りつけた。


 ジンジャー・ボネット中佐がいる陣に近づくとさらに援護射撃が加わった。


 火縄銃と呼ぶ鉛弾を火薬で撃ち出す武器だ。一発ずつしか撃てないが、硬い"ロードガーディアン"の鱗を貫く威力がある。


 それでも撤退の最中、兵士達は次々と"ロードガーディアン"に討ち取られていく。


(いくらティーセが殿を努めても数と機動性が違う)


 空から回り込んでアロルド達の行く手を阻む数十体の"ロードガーディアン"。


 アロルドの隣に並ぶシェリーの顔に絶望が浮かんだ。


 魔術師達の魔力が尽きたのだ。


 ジンジャー中佐の砲陣地にも多数の"ロードガーディアン"が襲いかかっていた。これでは頼みの援護も期待できない。


(ここまでか)


 いよいよ進退窮まった。


 アロルドが覚悟を決めようとした時――


 バッシャァアア!


 どこからか飛来した黒い閃光が数十体の"ロードガーディアン"をまとめて薙ぎ払う。


 さらには砲陣地を襲っていた"ロードガーディアン"にも黒い閃光が煌めいた。


「!? 姉さん!」


 近くに降りてきたのはマルグレット。シェリーの姉だ。


 なぜか魔杖を持っていない。ここに来るまでの戦闘で失ったのかもしれない。もっとも、彼女ぐらいの実力者だと魔杖がなくても高位魔術の行使は可能で、魔杖を持つメリットは消費魔力を抑えられるぐらいしかない。


 ただ不思議なことにマルグレットは大きな壺を持っていた。


「今の<破壊光線(ディザスタービーム)>はお前か!?」


「はい、殿下」


「おお! さすがは"百竜殺し"!」


 ピクリとマルグレットのこめかみが引くつくのを妹は見逃さなかった。


「殿下。失礼ながらその呼び名は二度と使わないでください」


 "百竜殺し"とはマルグレットの異名だ。ただ一撃で百体ものドラゴンを殺せる魔術の技量に対する敬意からつけられた。そう呼ばれる(マルグレット)もまんざらでもなかったはずだが、何かあったのだろうか。


「うん? う、うむ?」


 マルグレットの怒気を感じ取り、怯むアロルド。


 マルグレットはコホンと咳払いをして気を取り直した。


「グレアム殿からマナポーションを貰い受けてきました」


「む、そうだ! そのグレアムはどうした!?」


「グレアム殿にはドラゴンどもを一気に殲滅する術があります。キャサリン少尉はどちらに?」

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