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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
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92 終わる世界 26

 "ロードビルダー"の巨大な目を直視したジョセフの第七王子アロルドは体の震えを抑えることができなかった。


 それはアマルネアと呼ばれた竜大陸において、狩られる狐のように惨めに追い立てられるしかなかった祖先の記憶に由来するものだったのかもしれない。


 魂を鷲掴みにされたような恐怖にアロルドは一歩も動くことはできなかった。


 それどころか思考すら完全に停止していた。


 ゆえに、視界の端から飛び込んできた()()を白痴のように呆然と眺めるしかできなかった。


 その羽を生やした美しきものは剣を巨大な目の中心突き立てて叫ぶ。


「"――あらゆる魔を討ち滅ぼさん!"」


 途端に巨大な目の表面は火にかけた鍋の湯のようにブクブクと泡立ち――


 ブッシュウー!


 大量の赤い血を吹き出して、光を失う。


 直後、力を失った首――否、触角は"ロードビルダー"が作り上げた岩壁に叩きつけられて動かなくなった。


 ◇


(もうアドリアナの天撃は使えないわね)


 "ロードビルダー"の眼球から妖精剣を引き抜き血を振り払ったティーセはボロボロになった愛剣を鞘に収める。


 代わりに抜いたのは愛しき人から結納品として受けとったピュアミスリルの剣。


 家の存続のために複数の妻を娶ることもある上流階級の男が「純度99%」というお題目を持ってミスリルの剣を送るのは、たとえ複数の女性と関係を持っても私の心の大部分はあなたにあるという意味を持つ。


 無論、送られた剣のミスリル純度を調べるのは野暮というものだ。


 だが、ティーセはグレアムの言葉が真実であると確信している。


 ピュアミスリルの剣を"ロードビルダー"の硬い皮に突き立てると、まるでバターのように簡単に切れてしまう。"物理防御無効"効果がある妖精剣アドリアナとなんら遜色はない。


(まさか私のことをこんなにも想ってくれていたなんて)


 ティーセの胸が熱くなる。


 残された妖精の羽は残り一枚。しかも半欠けだ。これでは【妖精飛行】スキルの身体能力倍化はほとんど効果がない。


 それでも愛を知った自分が負けることはありえない。


 ティーセは半欠け一枚となった妖精の羽を羽ばたかせ"ロードビルダー"の無数の目を次々と切り裂いていった。


 ◇


「な、なぜ"妖精王女"には邪眼が効かないんだ!?」


 腹違いの妹の勇ましい活躍を呆然と眺めていたアロルドは兵士の一人が発した疑問で我に返る。


「わ、我々もいくぞ!」


 ティーセの放った一撃で"ロードビルダー"の足は止まっていた。今ならば触角に飛び移れる。


「し、しかし」


 怖気づくイリアリノスの兵士にアロルドは強く言い放った。


「"ロードビルダー"に張り付いたほうが安全なのだ! 恐らくは近すぎて邪眼の焦点が合わないか、"ロードビルダー"自身も傷つけてしまうから使えないのだ!」


「な、なるほど」


 実際のところ、それが真実かは分からない。だが、これ以上、ティーセにだけ活躍させるのは彼女のフィアンセとして焦りを感じた。


 敢然と死地に飛び込んだその美しい姿に、アロルドはその思いを一層強くした。


 是が非でも自分のものにしたいと。


「ゆくぞ! 我に続け!」


 傷つけたものすべて凍らせる氷雪剣グラキエスを振りかざし、アロルドは岩壁に叩きつけられた巨大な触角に飛び乗った。


 ◇


「勝手なマネを!」


 ティーセとアロルドの行動にキャサリン少尉が激昂する。


「まぁ、いいさね」


 それに対してジンジャー・ボネット中佐は理解を示した。


 実際に彼女たちの行動が間違っているとはいえない。ティーセが動かなければ北部の部隊と同じように全滅していたし、何より当初の目論見が崩れた今、"ロードビルダー"の急所を探らねばならない。


「あのデカブツの中にまで入り込まなきゃならんかもしれんさね」


「……どこかに入り口があると? クジラの噴気孔のようなものが?」

 

 "ロードビルダー"が大気中の魔力だけで生命活動を維持しているのだとしても、空気を取り込んでいる可能性はある。


 巨大な化け物の中に入って心臓なり魔石なりを砕く勇士達のおとぎ話(フェアリーティル)の定番だ。


 まさに"()()王女"の狙いはそれだろう。邪眼を潰しつつ空気穴を探しているのだ。だが――


「……少尉。援護できる態勢を整えておくさね」


 ジンジャーには、"ロードビルダー"がこのままこちらの好きなようにさせてくれるとは思えなかった。

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