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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
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8 密造酒

 夕方、グレアムが二の村に帰り着くと村が騒がしい。


 島の防衛隊の傭兵たちが村の家捜しをしているようだった。


「グレアム!」


 グレアムを見つけたオーソンが器用に松葉杖を使って駆け寄ってくる。


「ただいま。どうした?」


「連中、酒を探している。夕食を運んできた傭兵の一人が酒の臭いを嗅いだらしい」


「酒?」


 グレアムは首だけ動かしてヒューストームを探した。


 豊かな髭を蓄えた老人と眼が合った瞬間、彼は視線を明後日の方向に反らした。


(師匠。また、飲んでいたな)


 ヒューストームは立派な人物ではあるのだが、酒に関してだけは駄目な人だった。


 昔、とある調査で大陸中を巡り、行く先々でその土地の酒を飲んだ、それが人生最良の時だったというぐらいの酒好きだった。


 グレアムは小さくため息を吐き、


「酒は?」


 オーソンに小声で訊いた。


「問題ない。スライムたちが亜空間に隠してくれた」


 オーソンも小声で返した言葉に安堵の息を吐くグレアム。


 一の村と二の村に住む農奴は水以外の飲食物の保持を禁止されている。


 食事は傭兵たちが運んでくるものを食さねばならない決まりだった。


 そこで二の村の農奴たちは、食事に出された果物や畑の作物を少量失敬し、酒を密造していた。


 バレれば当然、没収される。


 四六時中、酒を亜空間内に隠しておきたいところだったが、いかんせん酒の発酵には空気が必要だった。


 タウンスライムの亜空間内にいちいち空気を送り込むのは効率が悪く、傭兵の眼がない間は酒樽や酒壺を亜空間から出していた。


 そして、その時を狙ってヒューストームは密造酒をくすねるのだ。


 ヒューストームが酒を飲むことは仕方がない。


 実はヒューストームに酒を提供することを条件に弟子にしてもらったのだ。


 魔術スキルを持たないグレアムを当初、ヒューストームは弟子にすることを拒んだ。


 無駄だからだ。


 魔術を身につけるには、魔導書と魔術スキルが必要だった。


 農奴の身では高価な魔導書など手に入れることはできないし、グレアムは『スライム使役』しか持たない。


 グレアムが弟子入りしたとこで魔術を身につけられる可能性はなかった。


 それがこの世界の常識だった。


 だが、グレアムは魔術スキルを持っていないのに治癒魔術が使える。


 リーに切り飛ばされた二本の指はヤマトによって"再生"された。


 そして、グレアム自身も治癒魔術が使えた。


 しかも、大陸でも数人しか使うことができないという"再生"をだ。


 "再生"魔術をヒューストームに見せた時、開いた口を塞がらないようだった。


 それでもヒューストームはグレアムを弟子にすることを渋った。


 "何となく、嫌な予感がする"


 それが理由だった。


 オーソンも味方してくれたが、ヒューストームが首を縦に振ることはなかった。


 そこで、グレアムは一旦、諦めた。


 ヒューストームが悪意で拒絶しているわけではないことは、少し話してわかった。


 直感とは瞬間的な総合判断能力だと前世の書物で眼にしたことがある。


 直感を馬鹿にはできないのだ。


 ましてやヒューストームは『大魔導』のスキル持ちである。


『スライム使役』をほぼ直感的に使えたように、ヒューストームも『大魔導』スキルが働いた可能性がある。


 だが、グレアムはこの世界で生き抜くには、どうしても魔術が必要だと思った。


 それは五歳の時に、前世の記憶に目覚めてからずっと抱いていた思いだった。

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