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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
253/441

84 終わる世界 18

 ―― 現在 クサモ ――


 四方に天空までそびえ立った白い柱。


 ブロランカで<白>が発動した際、あの柱から光が広がっていった。まるで地平から太陽が出てきた時のように。


 ざわつく団員達にリーは冷静に告げた。


「落ち着け。すぐに収束する」


 リーの声音には一片の恐れもない。<白>の魔術式を改変したグレアム以上に<白>が無効化されていることをリーは知っていた。リーの【危機感知】は自分に降りかかる危機を教えてくれる。そして、リーは<白>が四方に配置されていると知らされても何の危機も感じることがなかったからだ。


 リーの自信を裏付けるように四つの白柱は、すべて糸のように細くなっていき、やがて溶けるように消えていく。


(終わったな)


 第二次クサモ防衛戦。


 戦地となった足元に視線を移せば、夥しい数の王国兵が地面に倒れている。王国軍を押し流した海水はほとんどが地下坑道に流れ込んでいった。


 地下坑道はこれで水没し、王国軍と接敵せず生き残った魔物も溺死することだろう。


 そのはずだった。


 ここに大きな誤算が二つ発生していた。


 まず、ディーグアントが掘った地下坑道はグレアムが直接、指示した場所以外は蟻の巣に近い形になっており、そして、蟻の巣というのは水没に強い構造となっているという点。そして、もう一つは地下坑道が完全に水没する量の海水が流れ込む前にリーが止めてしまった点である。


 後者は仕方がない面もある。グレアムとオーソンは下流への塩害を気にしていたため、リーとしては海水の過剰な放出は控えるように意識したのは当然といえる。そして、グレアムはリーに地下坑道が完全に水没するまで水を流し込めと命令していなかった。


 そのため、地下坑道に配置された一部の魔物が生き残ることになり、後の悲劇へと繋がってしまうことになる。


『こちらミストリア。アリオン=ヘイデンスタムを確保した。……一応、報告しておくがベイセルも無事だ』


『ほっほっほっ。何ですかな? その残念そうな口調は? まさか、まだカツサンドの最後の一つを食べたことを根に持っているのですか?』


『カツサンドだけではない! シュークリームもだ!』


『くっくっくっ。私もかつては疾風の軍団を率いた将軍。昨日今日、部隊を率い始めた小娘に遅れをとるわけには行きませんからな』


『クッ! こいつ!』


「バカなことを言ってないでさっさと戻ってこい!」


 怒鳴りつけたリーは息を吐いた。


 浮かれているなと思った。


 こちらにも犠牲は出たが大勝利といっていい戦果である。浮かれるのも無理はない。多少なら。


 浮かれすぎたのだろうか。問題が起きた。


 蟻喰いの戦団創立からの古参のメンバー、アントンである。


 サンダースライムの高電流に晒された王国軍はほぼ全滅したが、数十人の生き残りがいた。アントンはその連中を壁に並べてガトリングガンで殺してしまったのだ。ジャックスが駆けつけた時には数人しか残っていなかったという。


「バカなことをしやがって!」


「なぜ俺が拘束される!? あれは正当な報復だ!」


 アントンを拘束したジャックスは苦い顔をして首を横に振った。


 わかっていない。一団員であるアントンに報復する権利はない。


「おかしいだろう! 散々殺しまくったんだ! いまさら数十人殺して何の問題がある!?」


 グレアムから王国軍一万五千を殺せと命じられたのは事実である。だが、それと同時に降伏した敵は殺すなとも命じられている。


「アントンのやつ、グレアムに殺されると思うか?」


 ジャックスがリーに小声で訊いた。


「どうだろうな。身内に甘いところがある奴だし」


 グレアムを誤射したミリーや裏切ったヘンリクさえ許したグレアムだ。大きなペナルティは受けるだろうが殺されるまではないかもしれない。


「グレアムの判断を待つしかない」


「そのグレアムはどうしたんだ?」


「分からん。とんと連絡がない」


「まさか、やられたんじゃないだろうな」


「あの魔術兵装を纏っていったんだ。それはないだろう」


「まぁ、それもそうか」


「……噂をすればだ」


『リー! 聞こえるか!?』


 切羽詰まったグレアムの声。


 何か緊急事態が発生したのだと察する。


『敵が来る!』


「なに!?」


"敵"とは何だ?


 王国軍は壊滅させた。実はあの一万五千は囮だったとでもいうのか? こちらを消耗させるための?


 リーは魔力保有計を取り出した。目盛は全体の十五分の一ほどしかない。


 この残魔力量でグレアムの言う"敵"と戦えるのか?


 ゾワリ!


 自問するリーの背中を悪寒が走った。


 北東の方角!


 何かが来る!


 リーが見据える視線の先で大きな砂埃が舞っていた。

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