7 王国首脳会議2
「聖国は古代魔国の遺跡を国内に多数抱える国じゃ。あの国の魔術研究に一日の長があるのは仕方ないことじゃ。むしろ、シャーダルク殿はよくやっておる」
ヒューストームがシャーダルクを擁護する。
(平民の分際で何を偉そうに)
擁護されたシャーダルクはそうとしか思わない。
シャーダルクがヒューストームを嫌う理由は多い。
平民出身であること。
であるのに、『大魔導』というすべての魔術を収めることができるレアスキル持ちであること。
高貴な身の自分を差し置き、ヒューストームを首席宮廷魔術師にと推す声があること。
食料生産率低下の調査の旅に追いやった時、当の本人は意義深いと喜んで旅立ったこともシャーダルクの神経を逆立てた。
各国の酒が飲めるから喜んだのだろう、下賤の身にふさわしい動機だと仲間内で笑いあった。
しかし今、ヒューストームは確かな成果を持って再びシャーダルクの前に現れた。
「それでヒューストーム殿。聡い貴殿のことだ。ただ調査して帰ってきたわけではあるまい」
王国宰相コーに問われたヒューストームは鷹揚に頷いた。
「左様。聖国から魔物避けの魔術供与を受けられるように話しをつけておる」
"おお、流石はヒューストーム"
下賤な平民を称賛する声があがる。
たが、シャーダルクは引っかかりを覚えた。
まさか無償供与ということはあるまい。
シャーダルクと同じ疑問を抱いた王国軍元帥レイナルドは、その対価をヒューストームに訊いた。
「ワシが数年、聖国で魔術研究に協力すること。出された条件はそれだけじゃ」
「本当にそれだけなのか? そうなら破格といってもいい条件だが」
「ヒューストーム殿は良いのか」
「なに、かまわん。それで王国の民を飢えから救えるなら安いものじゃ」
偽善を言うヒューストームにイラつきつつも、シャーダルクは焦った。
ヒューストームの魔術研究能力は低いと上には報告している。多数の魔術を使えるだけの器用貧乏な男だと。
ヒューストームも他人の評価を気にする人間ではないので本人も否定せず、それが事実として定着していた。
だが、ヒューストームの才に気づいた聖国が、しかるべき環境を与えた場合、どのような恐るべき成果をヒューストームが生み出すか、わからなかった。
(まさか、あの魔術を聖国で完成させるつもりか!? それはまずい!)
かつて、ヒューストームが書き、シャーダルクが握り潰した論文。
そこに書かれていた魔術を実現されるとシャーダルクの成果たる攻撃魔術が無価値なものと成り果てる可能性があった。
(やはり、ヒューストームを殺しておくべきだった)
そう後悔するが、ヒューストームの実戦の実力は業腹だがシャーダルクに匹敵する。『気配感知』と『全身武闘』のダブルスキル持ちの"重装"オーソンが護衛についていれば、暗殺はほぼ不可能だった。
そもそも暗殺とは対等以上の相手に対する手段であり、下賤なヒューストームに行うべき手段ではないとシャーダルクは考えていた。
だが、そうも言っていられなくなった。
シャーダルクはヒューストームを追い落とす方法を真剣に考え始めた。