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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
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73 終わる世界 11

『さあ、詠唱を開始するんだ!』


『王国のために!』


「……東の賢王、西の武王。南に愛染、北に魔導」


 詠唱が進むにつれて妖精剣アドリアナの輝きが強くなる。二枚分の妖精の羽の力を一度に流された妖精剣にヒビが入りそこから光が溢れ出た。


 その光によってティーセを拘束している魔術が打ち消される。だが、詠唱は止めない。既に羽の力は剣に流し込まれている。詠唱を止めたところで、羽に力が戻るわけではない。半減した羽ではもうアドバンテージをとることはできない。


 私が"敵"を倒すにはもう詠唱を完成させるしかないのだ。


「世界樹守護せし至誠の王よ」


 キィン!


"敵"が私の頭に触る。


 その瞬間、甲高い音が響き渡り魔道具の力によって何らかの魔術をレジストしたことが分かる。


「!」


 目の前にいる"敵"の焦りが伝わってくる。


(…………)


 なぜ、焦る?


 さっさと逃げればいい。なのに、なぜ、こいつは逃げない? 


 それとも、その妙な服の守りによほど自信があるのか?


「神代の約定、魂魄の掟、混沌の契約に従い疾く馳せ参じよ」


 まぁ、逃げないなら都合がいい。私はこれ幸いと"敵"の腕を掴んだ。


 この腕はもう離さない。


 おまえも、私も、今日ここで死ぬのだ。


「妖精郷に御坐す」


 だが、"敵"は微塵も諦めていないようだった。


 黒い物体を私の眼の前にかざす。


 それは知っている。さきほど見た。


 ピカッと光るやつだ。


 知っていれば対処は容易い。


 目を瞑ってやり過ごすだけ。


 カッ!


 瞼を通しても感じられる強烈な光。


 残念。


 さあ、最後のセンテンス。これを言い終えれば――


「妖精王の名において、あらゆる魔を――――――――――――――――――――――――――――――、!!!!!!!???????」






 気がついたら、何故かグレアムの顔がドアップで目の前にあった。


(え!? なにこれ!? これって……)


 ティーセの体はグレアムによって強く抱きしめられてる。


 そして、唇に違和感。


 これは――、これは!?


(き、きききききききききききききキキキキキキキキキキキキキキ、キス!!!??? グレアムにキスされてる!!!??? なんで!!!??? なんで!!!???)


『どうした!? なぜ詠唱を止める!』


『そうよ、続け――』


「ちょっとお兄様は黙ってて!!!」


 ティーセは渾身の力でグレアムを振りほどくと、ヘルムを掴んで放り投げた。


『ティー……』


 アシュターの声が遠ざかっていく。それと同時に謎の女の声も聞こえなくなった。


「ハァ、ハァ」


 混乱する頭と激しく鼓動を打つ胸。グレアムの意外に広い胸に手を置いて俯く。とても今、彼の顔を直視することができなかった。


「…………、ティーセ、か?」


 おずおずとした感じでグレアムが訊いてくる。グレアムとしてはティーセの詠唱を止めるために止むを得なかったのだが、思春期の少女の唇を強引に奪う行為に罪悪感を覚えていた。


「!? そうよ! だ、誰だと思って、キ、キ、キ、キ、キ……したのよ!」


 真っ赤な顔で問い詰めるティーセ。


「すまん」


「す、すまんじゃないわよ! あ、赤ちゃんができたら、どうするつもりよ!」


「え?」


「え?」


「…………」


「…………」


 お互いにしばし沈黙した後、グレアムはふと優しい顔をして言った。


「安心しろ。人命救助の接吻はノーカンだ。ブロランカで人工呼吸しても何ともなかっただろう?」


「え? なにそれ? 知らない。人工呼吸って? ……まさか!? 二度目!? 二度目なの!?」


 説明しろとグレアムの肩を掴んで激しく揺するティーセ。


 それに対してグレアムは

 

「余計なことを言ったかもしれないって感じで目をそらすな~~~!!!」


 ティーセの怒声が大空に響いた。


 ◇


「失敗したの? 兄さん」


 気弱そうな白長髪の青年が、黒いフルフェイスヘルムを被る人物にそう呼びかけた。


 白長髪の青年はクリストフ・ジルフ・オクタヴィオ。ジョセフの第五王子にして王位継承権第三位。テオドール亡き今、実兄ケネットと王座を争っている本人である。


「私を兄と呼ぶなと教えただろう。クリストフ」


 クリストフに兄と呼ばれた黒ヘルムは苛立たしげに吐き捨てた。


「ご、ごめんよ、にい――、黒死卿」


 黒死卿。


 常に黒いフルフェイスヘルムをかぶり、マントで全身を覆っているため、男か女かも分かっていない正体不明の人物。


 クリストフ子飼いの騎士でケネット派へのスパイ行為を行っているため正体を明かすことはできないとクリストフを支持する貴族や幕僚に説明している。


 だが、今の二人のやり取りを見た者がいれば、どちらが主でどちらが従か、瞭然であったろう。


「ふん。問題ない。まだ手はある」


「で、でも、やっぱり、ティーセまで殺さなくても……」


「クリストフ」


 黒死卿はクリストフの肩に手を置いて、子供に言い聞かせるように話した。


「こうするしかないんだ。この国を救うにはお前が王になるしかない。そして、私の言う通りにしていれば必ずそうなる。絶対だ」


「う、うん。いつも兄さんの言うことは正しかった」


「そうだ。いい子だ。クリストフ」


 黒死卿はそう言ってクリストフを抱きしめる。ヘルムから覗く瞳には暗い炎が宿っていた。

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