4 スライム
ゴトゴトとディーグアントの死体を満載した馬車が荒れた道を進んでいく。
空はよく晴れ、青い麦の穂が風にサワサワと揺れている。
野原で昼寝をするには最高の日だ。
御者台で手綱を握るグレアムは思った。
スライムもそう思っているのか、グレアムの隣でリーダークラスのスライムたちが、スヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。(もっとも、スライムの状態など見た目でわかるものではないのだが)
フォレストスライムのヤマト。
タウンスライムのムサシ。
この島に来る途上で手に入れた毒スライムのシナノ。
同じく、ロックスライムのナガト。
グレアムは種ごとに最初に使役したスライムに名前をつけ、彼らをスライムリーダーとした。
大量のスライムに命令する時、グレアムからスライムすべてに命令するよりも、リーダーを介して命令を伝えた方が速いのだ。
これは思念波をやり取りする際、スライムと人間よりも、スライム同士の方がはるかに効率がいいためだ。
そう、スライムのコミニュケーションは思念波を使用している。
思念波だとイメージをそのまま伝えられるので伝え間違いがほとんど起きない。メールで仕様を説明するのに、文字だけで伝えるのと画像付きで伝えるのとでは、受け取ったほうの理解度は後者の方が圧倒的に高い。
速度と正確性、そしてもう一つ、思念波にはある特性があった。
それらは遠くない未来にグレアムを最強の魔導師とする要因となるのだが、当の本人は自身の未来を知ることなく、隣で眠るスライムたちを時折、温かい目で見守っていた。
森林迷彩色のヤマト。
半白半透明のムサシ。
ムルマンスクから命じたわけでもないのにグレアムについて来てくれていた。
二匹だけではない。
タウンスライムの亜空間を利用して、かなりの数のスライムがグレアムに同行してきた。(タウンスライムが一度に大量にいなくなったことで、ムルマンスクは一時的にゴミ問題に悩まされることになった)
そして、赤地に黒と黄色のまだら模様で、見た目も毒々しい警戒色の毒スライムーーシナノ。
最初にコンタクトしてきたのはシナノのほうだった。
この島までの旅の途中の野営地で助けを求める思念波を受け取ったグレアムは、ムサシに毒スライムたちの救出を命じたのだ。
強力な毒を持っているシナノたちは駆除の対象だった。
身の危険を感じない限り毒スライムが毒を出すことはないが、"毒感知"のスキルや魔道具は毒スライムに反応してしまう。そうして、駆除の依頼を受けた傭兵に容易に見つけ出されて、毒スライムたちは絶滅寸前だった。
野営地を出発するまでにムサシたちが救出できた毒スライムは多くなかったが、島でグレアムはシナノたちを百匹以上に増やした。
もう少し増やしたかったが、島の傭兵に見つかるのを恐れた。シナノたちは普段はタウンスライムの亜空間に収納している。
そして、どう見ても、そこらに転がっている普通の石にしか見えないロックスライムのナガト。
彼らは岩石だらけの砂漠を通った時に見つけた種だ。
ヤマトがその存在を教えてくれた。
見た目は石でも、触ると柔らかい。
石の姿は擬態だ。
砂漠では身を隠す場所が少ない。
石の姿で天敵の目を欺きながら、何ヶ月も動かずにいることができる。
グレアムはロックスライムの特性を知った時、歓喜した。
ムルマンスクでロックスライムが手に入れられたら、孤児院の財政問題は解決でき、グレアムも農奴となる必要はなかったのだ。
そうグレアムに思わせるほどロックスライムには可能性があった。