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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
217/442

48 千客万来 5

「とりあえず君には経理を担当してもらいたいと考えている。まずは複式簿記を覚えてくれ」


 グレアムは団員達を元の位置に戻るように命じ、グレアムもまた自分の席に座るとペル=エーリンクにそう言った。


「フクシキボキ?」


「収支が一目でわかって便利だぞ」


 グレアムの前世の職業はシステムエンジニアである。会計システムの構築にアサインされた際に簿記一級を取得した。お客との打ち合わせで簿記の知識が必要だったのである。


 グレアムはその知識をもとに蟻喰いの戦団に複式簿記を取り入れていた。あまり金に困っていないとはいえ戦団を放漫経営するつもりはない。


「承知しました。それとグレアムさんにご紹介したい人がおりまして」


「ああ。連れがいるんだったな。いいよ、連れてきて」


 しばらくしてやってきたのは二人の少女だった。一人は浅黒い肌を持つ革のつなぎを着た活発そうな子で、もう一人は対象的に白い肌をドレスに包んだ大人しそうな子である。


「あんたがグレアムはん?」


 革のつなぎの少女が尋ねてくる。


「そうだが」


「アダマンタイト!」


「はい?」


「アダマンタイト! うちにくりぃ!」


 突然、奇声を発し少女が突撃してくる。同席して事の成り行きを見守っていたリーは素早く立ち上がるとグレアムの前に立ってリーの腰ほどしかない少女の突進を受け止めた。


「!?」


 だが、少女の予想外の力で弾き飛ばされそうになる。リーは少女の服を掴んで踏みとどまると、足を引っ掛けて少女を転ばせた。


「ぐしゅ!」


 そのままリーは上から抑えつけると、メイシャは奇妙なうめき声を上げる。


「この馬鹿力! こいつドワーフか!?」


「ドワーフ?」


 あの力持ちで酒好きで鍛冶が得意なことで有名な種族。この世界にもいるのかとグレアムは妙なところで感心した。だが、メイシャを見て違和感があった。


「ペル=エーリンク?」


 少女の突然の暴走に呆然としていたペル=エーリンクはグレアムに呼びかけられ我に返る。


「す、すみません! 彼女はメイシャといって王都でアダマンタイトの加工を頼んだ鍛冶職人ギルドの徒弟です!」


「そのメイシャがなぜいきなり襲いかかってきたんだ?」


「い、いえ、襲いかかったわけではなくてですね――」


 ペル=エーリンクの背後に立つ熊獣人ダーシュの怒気に当てられペル=エーリンクの顔は汗でびっしょりだった。他の団員達も、魔銃の銃口をペル=エーリンクに向けている。


「か、鍛冶師にとってアダマンタイトを扱うことは一種のステータスでして――」


 しどろもどろになって説明するペル=エーリンクによれば、メイシャは徒弟といっても既に一人前の仕事をこなす職人である。だが、彼女の師匠は独立を許さず、いいようにメイシャを使っていたという。それならばと自力で独立したはいいが、少女の見た目では信用を得られない。メイシャが店主だと知ると客は回れ右して帰っていくという。そこでアダマンタイトの武具を作製しそれを店内に飾って看板にしようとメイシャは考えたのだ。


「特殊な製法でのみ加工できるアダマンタイトを扱えば鍛冶師は一流とみなされますから」


「グレアムはん、アダマンタイトようさん持っとるっちゅう話聞ぃたで!」


 リーに床に抑えられながらメイシャは叫んだ。噂を頼りにメイシャは王都からグレアムを追って北上してきた。そして、偶然にもクサモの町の郊外でペル=エーリンクと再会したのだという。


「持っていないこともないが……」


 グレアムは亜空間から革袋を取り出すと、そこから未加工のアダマンタイトの大粒を出して見せた。


「ふ、ふぉぉおおお!」


 それに興奮して叫ぶメイシャ。


「……看板にしたいだけにしては少々喜びすぎじゃないか?」


「まぁ、ドワーフという種族特性もあるんでしょうね」


 ドワーフは極上の酒を飲むことと希少金属を加工することに至上の喜びを見出すのだという。だが、メイシャは酒を飲まない珍しいドワーフだった。その分、希少金属加工に傾倒しているのだという。


「鍛冶師としての腕は私が保証しますよ」


「せや! うち、アダマンタイトの加工でヘタこいたことないで!」


「ほう。それはすごい」


 アダマンタイトの加工は難しく失敗することも多いと聞く。だからこそ、メイシャの師はメイシャを手放さなかったのだという。


 結局、メイシャは例の入団テストをパスすれば給与をアダマンタイトで支払うことを条件とした五年契約で蟻喰いの戦団に雇われることで話がまとまる。


 ◇


 三人が去った後、グレアムは休憩がてらダーシュがいれてくれたお茶をリーと飲んでいた。


(……もう一人の女の子、何か言いたそうな顔してたな)


 マデリーネと名乗った少女は読み書き計算ができるという話だったので事務方に入ってもらうことになった。


 メイシャに比べて大人しい印象だったが、何か強い決意を秘めたような目が少し気になっていた。


(気になるといえば……)


 グレアムはメイシャと会って感じた違和感をリーに聞いてみた。


「ドワーフの女性にも髭が生えると聞いたことがあるんだが、メイシャには生えていなかったな。まだ若いからか?」


 顔をしかめながらダーシュのお茶を飲んでいたリーは意外なことを言う。


「そりゃ男ドワーフの鉄板ジョークだ」


「…………ジョークなのか?」


「ああ。髭が生えていないことを指摘した人間の男が"そんなわけあるか!"と女ドワーフにドツカれるまでがセットのな」


(…………ジョークだったのか。ギ○リ)


 指○物語(ファンタジー世界)も奥が深いとグレアムは思った。

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