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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
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47 千客万来 4

「久しぶりだな。ペル=エーリンク」


 グレアムはブロランカ島で秘密裏に資材を売ってくれていた若手商人ペル=エーリンクとクサモの町に新たに立てた急造の家屋――その一室で再会した。彼の協力がなければグレアムの一連の計画を実行をすることは不可能だっただろう。


「君が無償提供してくれたカーキ色の軍服もすっかり定着したよ。すまないな。折角、来てもらったのにこんな形で」


 グレアムの前に机があり、そこから三メイルほど離れた場所にペル=エーリンクが一人だけで座っている。彼の背後には熊獣人ダーシュ、部屋の四隅には魔銃を持った団員が控え、グレアムの横には足を組んだリーが暇そうに座っていた。


「以前、面会中に襲われてな。それ以来、こんな感じなんだ」 


「はぁ」


 団員の不躾な視線に晒され、居心地悪そうなペル=エーリンク。どこかの男爵の跡取り息子とやらがアポもなく突然やってきて「民を扇動する反逆者め! 貴様のやっていることは大逆無道! 即刻軍団を解体し縛につけ!」とか寝惚けた事を言うので、一つ一つ論破してやったら最後はキレて襲いかかってきたのだ。文句はアホの跡取り息子に言ってくれ。


 ちなみにアホの跡取り息子はミストリア、ジャックス、ネルの部隊に預けて男爵のもとに送り返した。彼らには戦略級広域殲滅魔術<白>対策の仕事も頼んでいるのに、他に仕事を増やして申し訳なく思う。


「……少しやつれたか?」


「そういうグレアムさんこそ」


「まぁ、色々あったからな。お互いに」


「ええ」


 しみじみといった感じでペル=エーリンクは頷くとブロランカ島を出た直後のことを語り始めた。<白>が発動した時、彼は船の甲板で島を見ていたという。そこに突如、島の中央付近で巨大な光の柱が立ったかと思うと、瞬く間に膨れ上がって島を飲み込んだ。


 光の奔流が止んだ後、島があった場所に何もなくなっていた。その光景にペル=エーリンクは寿命が縮む思いがしたという。


 その後、彼はブロランカ島に最も近い港街に留まり情報収集に努める。そこで、王国が島に溢れかえったディーグアントを処分するために大規模な魔術を使ったことと、グレアムがジョセフ王を殺したことを知った。


 酒保商人として七年間、ブロランカ島にいたペル=エーリンクである。島に愛着もあったし親しい知人もいた。それゆえに領民を顧みない王国の所業に怒りを覚えた。


 ペル=エーリンクは王都に戻るとすぐに店を畳んだ。王国に見切りをつけ、聖国かその傘下の小国で心機一転、出直すつもりだった。そこにどういう手段か不明だが、王国の"魔女"ケルスティン=アッテルベリにグレアムと取引していたことを嗅ぎつけられる。危険を感じたペル=エーリンクは取引していた高位貴族のもとに逃げ込み、そこで最近まで匿われていたのだという。


「それはまぁ……、悪かった」


「何の謝罪ですか?」


「俺たちに商品を売っていたせいで追われる立場になったんだろ」


 グレアムの言葉にペル=エーリンクは首を横に振る。


「グレアムさんたちが王国に何か不都合なことをするつもりであったことは分かっていました。流石に王殺しまでは予想できませんでしたが」


 このような事態になることも覚悟していた。だからこそ、迅速に店を畳むこともできたという。


 ペル=エーリンクはそう言うが、グレアムは罪悪感がある。もともと必要な資材の調達が終われば彼を殺そうと考えていただけに罪悪感は一入(ひとしお)だった。


 彼の言った通り、商取引を一手に担っていればグレアムたちが何をしようとしているか察せられる。王国に反逆しようと気づいているペル=エーリンクをいつまでも生かしておくことは危険だった。だから彼との取引は必要最小限、ごく短期間のつもりで後は口封じするつもりだったのだ。


 だが、仏心が出てしまった。彼の信条の通り、ペル=エーリンクはいつも誠実だった。グレアムの足元を見て不当に高い金銭を要求することもなく、こちらの要望には極力、叶えようと努力してくれていた。そんな人間をグレアムは殺すことができなかった。


「心機一転、やり直すつもりだと言ったな。よければうちで働かないか?」


「それは正直、願ってもないことです! ここでは色々と珍しい商品を取り扱っているようで興味が尽きません!」


 アーク・スパイダーの糸にデス・キャンサーのシャンプーと洗剤のことだろう。最近は少量ながらポーションも卸している。人気商品はエスケープ・スライムの"皮"で作ったボールとゴム(?)手袋である。


「ですが、よろしいのですか? 実は私が語っていたことは全て嘘で、あなたに復讐するために訪れたとは考えないのですか?」


「それはない」


 グレアムはペル=エーリンクの足元を指差す。そこには一体の白色半透明なスライムがいた。


「そいつはタウンスライムといってな」


「ええ。知っています。町や村の掃除屋ですよね。これほど近くで見たのは初めてですが」


 ツンツンとペル=エーリンクが指でタウンスライムを突いた。スライムは嫌がることなくペル=エーリンクの指にまとわりつく。


「町や村で生きるこいつらの最大の天敵は人間だ。だからこそ人が向けてくる悪意や害意に敏感なんだ。タウンスライムに避けられていないことは、おまえに悪意や害意がないことの証明になる」


 人間の感情をスライムがどうして読み取れるのか、スライムのことを誰よりも知ると自認するグレアムでも不思議に思うが、スライムには光を感じ取る受容体――人間でいうところの眼が存在しない。視覚を失った人間は聴覚や嗅覚が鋭敏になるという。視覚はなく他の五感も乏しいスライムは、その分、第六感的なものが発達しているのだろうと、とりあえず理解している。


「ほう! 彼らにそんな凄い力が!」


「こいつらの力はそれだけじゃないぞ」


 スライムを褒められて嬉しくなったグレアムはペル=エーリンクの傍にいって足元のタウンスライムを拾い上げた。スライムを指で数回軽く叩くと目の前の空間がグニャリと歪み、紫色の空間が目の前に広がった。


「亜空間だ。だいたい、この部屋ぐらいの量の荷物を収納できる」


「…………」


「荷物を取り出したい時は、こうやって腕を突っ込む。首まで入れるなよ。中は空気がないから酸欠を起こす。収めた物を探したい時はこうしてスワイプする」


 グレアムが亜空間の表面を指でなぞると、それに呼応するように亜空間内の景色が左右に動いた。


「遠くに置いてあるものを取り出したい時は、こうする。ピンチアウトと呼んでいるんだがな」


 グレアムは亜空間の表面に指を二本置いてその間隔を広げる。すると亜空間内の手前の物体が見えなくなる代わりに、遠くの物体が大きくなる。


「逆に手前のものを取り出したい時は逆に操作する。ピンチインだな」


 これら一連の動きはスマートフォンの操作方法をヒントにしている。人間がそのように亜空間の表面をなぞれば、そうするようにグレアムがタウンスライムに予め命令しているのだ。


「慣れれば子供でも使えるようになる。……どうした?」


「ど」


「ど?」


「どういうことですか!?」


 突然、ペル=エーリンクが叫んだ。


「こんな便利なものがあるなら、どうして教えてくれなかったんですか! 二の砦にばれないように商品を運び込むのに、僕がどれだけ苦労したと思ってるんです!」


 ペル=エーリンクがグレアムの肩を掴み、激しく揺さぶる。


「いや、流石にそこまで教えられるほど信用できてないし」


「ああ~! 僕のあの苦労は一体、何だったんだ!」


 嘆くペル=エーリンク。気持ちは分かるが――


「とりあえず離してくれないか。後ろのダーシェが凄い目で君を睨んでいるから」


 着剣した魔銃を四方から突きつけられていることに気づき、顔が青くなるペル=エーリンク。


 ちなみにリーは面白そうに笑っているだけだった。

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