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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
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46 千客万来 3

 ペル=エーリンクとマデリーネの二人が、上半身が鷲で下半身が馬の幻獣ヒポグリフに乗ってヘイデンスタムの屋敷から北上を始める。


 防寒の魔道具を身に着けているが、それでも冬の空は身を切るような寒さを二人に感じさせる。ペル=エーリンクが後ろを振り返って見上げると遥か上空に黒い点のようなグリフォンの騎影が四つあった。アリオン=ヘイデンスタムが約束していた護衛だろう。


 グリフォンはヒポグリフよりも格上の幻獣で、実力も家柄も特に秀でた者しかその背に乗ることはできない。アリオンのマデリーネに対する愛情の深さが伺いしれた。


 娘を愛するアリオンがなぜマデリーネを公に認めていないのか疑問に思うが、おかげで安全に旅ができそうだ。とはいえ、若い娘に野宿させるわけにはいかない。西の空が赤く染まり始めた頃、ペル=エーリンクは町か村を探し始めた。


 夜、とある町のそこそこ高級な宿の食堂でマデリーネは言った。


「野宿でもかまいませんでしたのに」


「野宿のご経験が?」


 冬の冷たい地面は冬の空以上に体力を奪う。少女の体には相当堪えるはずだ。


「あります。冷たい石の寝台で三日三晩、過ごしたこともあります」


「……何のためにそんなことを?」


「……家の教育方針でしょうか?」


「…………」


 色々と謎の多いヘイデンスタム家だ。


「冬に野宿は勘弁してください」


 防寒の魔道具があっても火は焚く必要がある。眠っているうちに魔道具の魔力が切れて、朝、凍死していたという話もあるのだ。だが、火を焚けば魔物と野盗がやってくる。護衛だって夜は安全な場所で休みたいだろう。


「それもそうですね」


 スープをスプーンで口元に運ぶマデリーネの所作は優雅だった。だが、会話が続かない。マデリーネは態度は素っ気なかった。やはり、マデリーネではグレアムを誘惑することは難しいと指摘したのは不味かったか。


 そんなペル=エーリンクのバツの悪い思いを察したのか、マデリーネは「お気になさらず。私はいつも誰に対してもこのような感じなのです。お母様からもう少し愛想がないと嫁の貰い手がないと常々、言われているほどですから」


「…………」


 何とも返事に困るマデリーネの言葉だった。まあ、気にするなというなら気にしないことにする。


 そうして必要な事以外は特に喋ることもなく、淡々と旅は続く。だが、ペル=エーリンクは不思議と悪い気はしなかった。クサモの町が見えた時には、旅が終わるのかと少し残念に思ったほどだ。


 クサモは話に聞いていた通り二つの川に囲まれた草原のただ中にあった。この地方は北東の山脈からの雪解け水で夏でも河川の水量は豊富で米という穀物を栽培している。


 ブロランカにいた頃、グレアムに米はあるかと聞かれた事がある。王国の主要作物は麦だが、一部では米も栽培している。そう答えるとグレアムは米を注文し、ペル=エーリンクはいくばくかの量の米を納入した。この地方産の米も納入したと思う。だが、いずれもグレアムの望むものではなかったようで「長粒米か」と残念そうに呟いていたのが印象に残っている。


 そんなことを思い出していると、町の中から何かが飛び立つのが見えた。


(ヒポグリフ?)


 魔銃を持って防寒具に身を包んだ男が近づいてくる。敵意がないことを示すようにペル=エーリンクが片手を上げると、男はついて来いという手振りをした。


 男について高度を落としていく。町の中に見られたくないものがあるのかもしれない。


 ペル=エーリンクとマデリーネは掘っ立て小屋や天幕が並ぶ町の郊外に降りる。上空から見るに治安は悪くなさそうだった。


 ヒポグリフから降りたペル=エーリンクとマデリーネを群衆が遠巻きに見ていた。ヒポグリフのような高価な幻獣を二体を駆使するとは、どんな大店の旦那か有力貴族が訪れたのかと伺っているようだった。


 その群衆をかき分けカーキ色の軍服を着た集団がやってくる。


 ペル=エーリンクとマデリーネを連れてきた案内役の男が隊長格と思われる男と二言、三言話すと、再びヒポグリフに跨り飛び立っていった。


「ご用件は?」


 隊長格が尋ねる。


「ペル=エーリンクと申します。グレアム殿とは旧知の間柄でして、グレアム殿にお取次ぎ願いたい」


「承知しました。ついて来てください」


 隊長格に先導されて、掘っ立て小屋と天幕が整然と並ぶ郊外を歩く。郊外と言いながらもまるで一つの町のようだった。


「なぜ彼らは町の外に小屋や天幕を張っているのでしょうか?」


 ペル=エーリンクの質問に隊長格は答える。


「町の中には原則、団員以外、立ち入れません」


「……それで大丈夫なのでしょうか」


 上空から見た所、柵や壁で守られている様子はなかった。


「僕たちが定期的に巡回していますから。魔物や怪しい奴が近づいてくれば……」


 ペル=エーリンクの隣に並ぶ若い団員がそう言って魔銃を撃つ仕草をする。


 よく見ればカーキ色の集団が他にも練り歩いているのが見て取れた。


「!? これは!?」


 ペル=エーリンクは露天に並べられた商品を見ると驚きの声を上げた。絹のような光沢を持つ上質な生地。貴族と大商人の間で取引するようなものが何でこんな所に?


「それはうちが卸している商品ですよ」


「蟻喰いの戦団が?」


 そう言われてよく見れば、彼らの服も同じ生地でできている。ペル=エーリンクがグレアムに提供した軍服は主に麻を素材としていた。


「この生地で作った服は暖かくて蒸れないよ」


 露天商の男に若い団員が頷く。


「今くらいの気温ならコートはいりませんね」


 それは是非、うちでも取り扱ってみたい。詳しく話を聞こうとしたところで子供達が何かで遊んでいる姿が目に入る。


「あれは?」


「手まりですね。あれもうちの商品です。ああやって地面で弾ませて遊ぶ玩具ですよ」


「布を丸めただけではあんなに弾みませんよね? 一体、どんな素材を使ってるんです?」


 物珍しさに見とれていると隊長格の男が咳払いした。


「あ、すみません」


 これはグレアムに詳しく話をきかねば。商品を露天に戻し、再び進もうとしたところで――


「ああーー!」


 聞き覚えのある叫び声がした。


「ペルさんやないでっか!」


「メイシャさん?」


 それは自分の身長以上に大きな荷物を背負った浅黒い肌の少女だった。

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