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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
200/441

31 戦後処理 2

 ほとんど全ての建物が地中に埋まったクサモの町。


 防壁とディーグアントの壁に囲まれた町の一角にグレアムが居住する天幕が張られていた。


 そこに招集されたリーは今、自身の【危機感知】スキルが過去最大級の警告を発しているのを感じた。


(まずい! まずいぞ!)


 喉が渇く。嫌な汗が止まらない。


 これほどの危機を抱くのはいつ以来だろうか。


 そう、ムルマンスクで金貸しのデアンソを守るためグレアムと対峙して以来だ。


 そして、今現在の危機の元凶はあの夜と同じく、リーの対面に座っているグレアムである。


 そのグレアムは今、自分の手元の一点を見つめていた。その表情はいつも通り読めない。だが、次にその手を動かせば自分は終わりだということは分かった。


 リーは起死回生を狙い、山から牌を引く。


(…………ダメだ!)


 こうなればオーソンに期待するしかない。


 オーソンもグレアムの聴牌気配は感じているはずだ。その証拠に奴の顔色は悪い。


(鳴け! 鳴いて飛ばせ! グレアムをツモらせるな!)


 リーは牌を捨てる。だが、グレアムの下家のオーソンは、何かを悟ったようにフッと笑っただけであった。


(くっ! ならばミストリア! お前が上がれ! 安手でもいい!)


 グレアムの上家のミストリアは牌を引いた。その瞬間、彼女の尻尾が大きく振られる。かなりいい牌を引いたのだろう。


(止せ! 欲をかくな! ご自慢の鼻で目の前に迫る危機を嗅ぎ取れ!)


 だが、そんなリーの願いも虚しく、ミストリアは手牌を交換して、誰も鳴けない牌を捨てただけだった。彼女のドヤ顔が憎たらしい。


 そうして、グレアムがゆっくりと山に手を伸ばす。


「……ツモ。4000-8000」


(強すぎだろ。こいつ)


 リーが麻雀を覚えて三ヶ月。ブロランカの頃からやっている連中相手でも勝てるようになってきた。それでもグレアムにだけは一度も勝てたことがない。


 グレアムの無情な一撃に、親のリーは天井を仰いだ。


 ◇


「……ジャックスはどうしてる?」


 グレアムは牌を並べながらオーソンに聞いた。


 ナッシュの裏切りを知ったジャックスは「あの馬鹿!」と叫び、見た目も酷く落ち込んでいた。レクリエーションの一環でグレアムは時折、こうして麻雀を打ちながら報告・連絡・相談を受けるが、その際のメンツにはいつもジャックスがいた。その彼が参加を断ったのだ。まだ、ナッシュのことを引きずっているのだろう。


「ジャックスなら問題ない。あいつにはネルがいる」


 雰囲気が暗くなりそうな中、ミストリアがポツリと呟いた。


「…………そうなのか?」


「ああ」オーソンが頷く。


 なら確かに問題なさそうだ。どの時代、どの世界でも男を慰める最大の薬は女である。


「気づいてなかったのか?」と先ほどのツモで青色吐息のリーが半ば投げ遣り気味に問う。


「……言われてみれば、いつも一緒にいたような」


 呆れたようにリーは肩を竦めた。この様子では周知の事実だったのだろう。


 グレアムは自分が男女の機微に疎いことは自覚していた。それで前世でも、()()()には結構な苦労をさせたらしい。


「……待て。じゃあ、今回、ジャックスが麻雀に参加しなかったのは?」


「今頃、ネルとよろしくやってるんだろ」


「付き合い始めが一番楽しいからな」とリーとオーソン。


「…………」


 心配して損した気分だ。まぁいい。団員が幸せを掴むなら、それはそれで喜ばしいことである。


「王国兵の埋葬状況はどうなっている?」と議題を次に移す。


「既に戦死者の埋葬は完了しています。捕虜の王国兵が思いの外、従順だったため作業が捗りました」とミストリアが報告する。


 ベイセル軍との最後の戦闘から既に五日が経過している。


 グレアムは生き残った王国兵を働かせて、戦死者を埋葬させていた。死体を食べた魔物が繁殖したり上位種に進化すれば、近隣の村や町に迷惑をかける。通常、魔物は生きた人間しか襲って食べないそうだが、ディーグアントのような例外もある。


 何より、遺体を放置しておくのはグレアムの気分が悪かった。


「なら捕虜は解放してかまわない。武器も返してやれ」


「よろしいのですか?」


「今更、反抗しないだろう」


 ガトリングガンとオルガン砲による十字砲火によって王国軍の死者は全体の八割にも及んだ。グレアムが大規模魔術演算を行使して広範囲<怪我治療(ヒーリング)>をかけなければ死者はもっと増えていただろう。


 対して蟻喰いの戦団の被害はグレアムが怪我をしたぐらいである。ケルスティン=アッテルベリの希望通り、希少なスキル持ちと魔術師全員は見逃したとはいえ、ほぼこちらの完勝といっていい勝ち方だ。正直、勝ちすぎたとすら思っている。勝ちすぎるのもよくないのだ。


 グレアムは平和(ピンフ)を崩して危険牌を捨てた。


「!? ロン! ロン! ロン! ロ~ン!」


 すかさず、リーが上がりを宣言する。


「まあ、念の為、警戒は続けろ」

 

「了解しました」


 興奮するリーに若干、引きながらミストリアは答えた。


「明日中にクサモを引き払う。各員に準備をさせろ」


 ベイセル軍対策に予想よりも時間がかかってしまった。秋もそろそろ終わりである。このままでは王国で冬を過ごすことになってしまう。目的地まで一気に走り抜けるつもりだった。


「他に問題は?」


 オーソンがそっと手を挙げる。


「グレアムに会わせたい連中がいる」


「商人か? また、何とか傭兵団とかだったら会わんぞ」


 どこから嗅ぎつけたのか知らないが蟻喰いの戦団がベイセル軍に完勝したことを知り、多くの人間がグレアムに接触するようになったのだ。魔銃を売ってくれという商人はまだしも「俺と共に天下を取ろう!」とかいうどこぞの傭兵団長には辟易した。これも勝ちすぎた弊害だろう。

 

「どちらも違う。まぁ、一度、会ってみてくれ」


「…………」


 言葉を濁すオーソンは珍しい。何か厄介事だろうか。麻雀は先ほどのグレアムの振り込みで半荘が終了したところである。切りがよいので、そこで終了することにした。


 ちなみに一位はグレアム。二位がオーソン。三位がミストリア。最下位がリーである。リーは序盤に国士無双をグレアムに振り込んだのが最後まで響いた。

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