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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
199/441

30 戦後処理 1

「ない! くそ! やはりか!」


 ナッシュは明るくなった森の中で一人、自分の背嚢の中身をひっくり返していた。彼が探しているのは蟻喰いの戦団員に支給されている通信器だ。クスモの町の領主の館を出る前、確かに背嚢に入れたのを覚えている。それが消えていた。ということはだ――


「あの通信器もスライムだったんだ! グレアムの陰険野郎め! 何が魔道具だ!」


 魔銃のスライムと同じように、背嚢の隙間から抜け出たのだ。


「くそ! 始めから全部、あいつに筒抜けかよ!」


 通信器はスイッチを押さなければグレアムや他の団員に声を伝えない仕様になっている。だから、王国と内通する際にも持ち込んでいた。だが、通信器がスライムであったのなら話は変わってくる。スイッチの押下に関係なく、グレアムは聞きたい声を拾えるのだ。


「あの盗み聞きの最低野郎め! 俺を餌に使いやがって!」


 手近な巨木を蹴るナッシュ。大人三人が手を繋いでも、なお足りない太い幹を持つ大木は、ナッシュの足では葉一枚揺らすことも出来なかった。それが、一層、腹立たしい。


「クソ! クソ! クソ! 死ね! 死ね! 死ね!」


 呪詛を吐きながら、周囲の木々に当たり散らす。


 王国軍がクサモの町に突入していった瞬間、ナッシュは【視線感知】スキルによって、オーソンが自分を見ていることに気づいた。ナッシュを見る人間が少なくなったことで、それに気づけたのだ。


 視線の元は町の外の林からだ。なぜ、奴がそこにいる?


 その瞬間、ナッシュは自分がグレアムの手の平で踊らされていたことを悟った。


 そもそも、考えてみればおかしいことが多い。グレアムは今まで、自分が何をしようとしているか詳細に団員に伝えるようにしていた。だが、今回に限りグレアムは必要最小限――クサモの町で王国軍を撃退する――ことしか伝えていない。地雷の埋設も一人で実施していた。ドッガーもクサモの町のどこかに消えて少人数で何かを作っていた。それに門や防御塔にはいつも見張りを置いていたはずだ。それがなぜ、今夜に限っていない?


 全ては情報の流出を防ぎ、王国軍を罠に嵌めるためだと考えれば辻褄があう。


 ナッシュはオーソンの視線が外れるタイミングを狙って、その場から離れた。そして、何時間も走り、疲れて座り込んだところで、なぜ裏切りがバレていたのかを考えたのだ。


「通信器がスライムだなんて普通分かるかよ。どう触っても何かの金属だったぞ」


 通信器に触った時のヒンヤリとした感触。あれがスライムだったなんて今でも信じがたい。だが、ナッシュはスライムが亜空間収納という異常な能力を持っていることを知っている。質感まで自由に変えて変身する能力がスライムにあってもおかしくない。


「ということは、あの首もスライムかよ」


 あの生首には産毛まで生えていた。それほど精巧に変身できるものなのか信じがたいが、そう考えるしかない。


 完全にしてやられた。そう思うと同時にナッシュの中でグレアムへの憎悪が膨れ上がった。


「許せねえ! ぜってぇ、いつかぶち殺してやる!」


 ナッシュはナッシュをコケにする人間を絶対に許さない。必ず復讐してやると誓う。


 そのためにはまず、何をすべきか。


 王国軍にはもう戻れない。その気がなくとも王国軍を罠に嵌めた張本人である。


「いっそ、何食わぬ顔して蟻喰いの戦団に戻るか? いや、ミリーに殺されるか?」


 ヘンリクはどうしているだろうか。もう殺されただろうか?


 ヘンリクの様子を見て、決めるのがいいかもしれない。


 しばらくほとぼりを冷まし、ヘンリクが無事のようならば、親友(ジャックス)に戦団復帰の仲介を頼む。


 悪くないように思う。


 大まかな方針を立てたところでナッシュは地面にぶちまけた背嚢の中身を拾い集めた。


 そこで一つの魔道具が目に入る。丸い手の平に収まるサイズだ。


(こいつはスライムじゃないのか?)


 グレアムが旅の途上でいつも夜遅くまで作っていたものだ。何に使うかは知らない。だが、魔道具ならばオリハルコンが使われており、それなりの場所に持っていけば高く売れる。昔の悪い癖が出て一つくすねておいたのだ。


(これも<炎弾>の飛距離を伸ばす増幅器か?)


 ナッシュは正体不明の魔道具に魔石を嵌め込んだ。ブロランカでディーグアントから抜き取ったものだ。


(…………)


 特に反応がない。


 少し凝った魔道具なら鍛冶職人や彫金細工師と協力して、魔術を発動するためのギミックが組み込まれる。だが、それらしい物はこの魔道具にはない。だとすればキーワードで発するタイプの魔道具だろうか。それとも毒感知のような特定の条件で発動するタイプか。


 いずれにしろ魔術師ではないナッシュでは、これ以上のことはわからない。ナッシュは魔道具も背嚢に収めようとする。だが、長時間走った上に散々暴れまわったせいか手元が狂った。


「おっと」


 魔道具が手を離れ地面に落ちていく。


 …………。


 ナッシュは夢にも思わなかったのだ。


 この魔道具に使用されているオリハルコンの量でも、売れば平民家族五人が一年は悠悠と暮らせていける。それほど高価で希少な魔道具を使い捨てにしようとしている人間がいようなどと。


「ふあ?」


 地面に落ちた瞬間、正体不明の魔道具は強烈な光を発し、半瞬後、ナッシュの足元で爆発した。

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