表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
197/442

28 狂弾 2

『団長が! グレアム団長が撃たれた!』


 グレアムの護衛を担当していた獣人から狂乱したよう叫びが蟻喰いの戦団(バーミリンガーズ)の全団員に向けて放たれた。


『敵だ! 敵はまだ降伏していないぞ!』


 実際にグレアムを撃ったのは味方のミリーである。だが、護衛の獣人は王国軍の生き残りがグレアムを撃ったのだと誤解した。


「こいつら!?」


 防御塔のガトリングガンの射手を担当している獣人が激昂し射撃を再開した。ターゲットは武装解除して町の中心部に集まっていた王国軍である。


<炎弾>の雨を受け、次々と血を流して倒れる王国兵。


 それに呼応するかのように他の射手も射撃を再開した。


「止めろ! 撃つな!」


 王国兵捕虜の武装解除を担当していたジャックスは通信器に向かって叫んだ。だが、頭に血が上った獣人達はその手を止めることはなかった。


 グレアムがもたらした現代地球世界の訓練をオーソンがこの世界の実情に沿うように落とし込み、数年かけて実施したジャックス達古参組と違い、一の村の獣人達は戦団に加わってからまだ日が浅い。新参組は不測の事態に浮足立つ烏合の衆であったのだ。


 一方で、戦団側の事情を知らない王国軍は卑劣な手段で自分達を皆殺しにするつもりだったのだと誤解した。降伏なぞ許すつもりはなく、自分達王国兵を効率よく始末するために生き残りを町の中心部に集めたのだと思ったのだ。


「う、うぉおおお!」


 一人の王国兵が決死の覚悟でジャックスに襲いかかる。一瞬の隙を突かれたジャックスはもつれるように地面に倒れた。


「こいつらを盾にしろ! 俺たちが助かるにはそれしかないぞ!」


 王国兵が仲間に呼びかける。


「止せ! 止めろ!」


 このままでは殺されると思った王国兵達は次々とジャックスとミストリアの部隊に襲いかかった。


 こうなればミストリア達も応戦せざるを得ない。


銃盾(バリスティクシールド)>を展開し、亀のように密集して下がりながら王国兵に<炎弾>を浴びせていく。


「ジャックス!」


 ネルが王国兵の拳と足でボロ雑巾のようにされていくジャックスを見て叫んだ。


「ネル! 行くな!」


 ネルがミストリアの制止も聞かず隊から離れる。魔銃を逆手に持ち、棍棒のように振り回してジャックスの救出を試みるが多勢に無勢。ネルも地面に倒される。


 さらにネルの抜けた密集隊形の穴に王国兵に殺到する。蟻喰いの戦団よりも絶対数ではまだ王国軍の方が多い。赤い軍服にカーキ色の軍服が洪水のように飲み込まれていった。


 ◇


 オーソンに拘束されたスヴァンはヘンリクと呼ばれた少年と共にグレアムのもとに連行されている途中だった。


 林の中の天幕から少年が飛び出してきたと思ったら、ヘンリクを突き飛ばした。少年同士のいざこざかと思ったその直後に突き飛ばした少年は胸を撃たれる。


 ヘンリク少年を庇った彼が、あのグレアムだと知ったのはオーソンが亡骸を抱え、慟哭するように叫んでいたからだ。


 天幕から獣人達が飛び出してきてグレアムの周りに集まる。涙を流して叫ぶ者、激昂して叫ぶ者、呆然と佇む者、反応は様々だ。


「くそ! 誰だ!? 誰が団長を殺した!?」


 一際、体格の大きい熊獣人が叫ぶ。目を血走らせ周囲を睥睨する。目があってしまったのはスヴァンの不幸であったろう。


「お前か!?」


 無茶を言うなと思う。拘束されている自分に何ができると言うのか。


 そう叫びたいが首を絞められ声が出ない。いや、それどころか「息が、できない」


 スヴァンはかすれる声で必死に訴えるが熊獣人は聞こうとしない。


 このままでは死ぬ。そう思った時、救いの手は突然、訪れた。


「ダーシュ。手を離せ」


 顎髭を生やした壮年の男性がダーシュと呼ばれた熊獣人に静かに話しかける。


 スヴァンはこの男性に見覚えがあった。確か今年の武闘大会で見た。彼はそのまま優勝し八星騎士に任じられていた。名は確か……。


「リー隊長。しかし……」


「いいから手を離せ。このままでは死んじまうぞ」


 スヴァンの顔が赤から白くなっていることに気づいたダーシュは慌てて手を離す。


 地面に座り込んだスヴァンは空気を求め激しく咳き込んだ。


「はあ、はあ」


「おい、大丈夫か?」


「……た、助かりました」


「いや、まだ助かるかどうかは分からないんだがな」


「はい?」


 リーの言葉の意味が分からずキョトンとするスヴァン。


 一方、リーは誰かを呼んだ。


「おい。こいつがスヴァンでいいのか?」


「!?」


 リーに呼ばれてやってきた人物を見て、スヴァンは驚く。


 ケルスティン=アッテルベリ。百年を生きる魔女にして女伯爵。


「ケ、ケルスティン様! なぜ、ここに!?」


「決まっているじゃないですか。あなた達を助けるためですよ」


 そう言って、ケルスティンはにこやかに笑う。その笑顔は救いの天使のようにも見えた。


「希少なスキル持ちのあなたやベイセル君を王国は失うわけにはいきません」


「ケ、ケルスティン様」


 スヴァンの体が自然と震えた。その理由は女騎士の慈悲に感動したから、ではなく、これから自分が辿る運命を悟ったからだ。


「だから、死んでください」


 リーから魔銃を受け取ったケルスティンはスヴァンの頭に向けて<炎弾>を放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ