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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
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25 とある兵士の述懐

 あの赤い光ーー<炎弾>といったか? まあ、それが最初に吹き寄せる雨粒のように来た時、俺は比較的、部隊の中心に居たんだ。だからだろうな、俺が助かったのは。俺の同僚が俺の盾になってくれたんだ。


 お礼に、そいつらには一杯ずつ奢ってやってもいい。まあ、生きていればの話だがな。


 ああ、そいつらは全員死んだよ。鉄の鎧を着ていても無理だったろうな。なんせ、鉄製の兜も貫通してたからな。まあ、それでも鉄の鎧を着る意味はあるかも知れん。なんせ、革鎧ぐらいなら簡単に貫通してたからな。一人の同僚の腕を棒切れのように吹き飛ばした後、そのまま別の同僚の腹をめちゃくちゃにして止まったよ。


 そんな威力の魔術が雨あられとくるんだぜ。仲間たちは次々と血塗れになって倒れていった。もちろん、俺たちは大混乱さ。みんな逃げようとしたが、どこに逃げればいいか分からない。何せいつの間にか包囲されて四方八方から<炎弾>がくるんだ。這いつくばって右往左往するしかなかった。まさに阿鼻叫喚の地獄ってやつさ。


『敵を捜せ! 数はこちらが上なんだ! 撃滅しろ!』


 そんな感じにどこかの馬鹿な隊長が叫んでいるのが聞こえたが、できるわけがねえ。


 槍も剣も放り出して逃げ回っているのに、どうやって敵を倒せばいいんだ?


『散開しろ! 固まるな!』


『走れ! 町の外に走るんだ!』


 たぶん別の隊長が出した命令だろうが、こちらはまだ()()な命令だ。


 他の連中もそう思ったんだろうな。結構な数、蹲るのを止めて門に向かって走り出したんだ。


 俺? 俺は走らなかった。とてもそんな勇気が出なくて倒壊した建物の影で相棒と一緒に震えていたよ。でもな、思えばそのおかげで助かったともいえる。


 町の外に向かって走り出した連中のうち、ほとんどは<炎弾>に撃ち抜かれて死んだ。それでも、何人かは門に辿り着くことができたんだ。多分、運が良かったのか、隠蔽系のスキルでも持ってたのかもしれねえ。


 でもな、結局、運命は変わらなかった。


 そいつらが町の外に出ようとした瞬間、連中の足元が光ったかと思うと爆炎が上がったんだ。


 そうさ。例の地雷ってやつがまた復活してたんだ。


 何人かは吹き飛んで、残った奴らも<炎弾>を浴びて、それで連中、あっという間に全滅さ。


 倒壊した建物の影でそれをずっと見ていた俺は相棒に呼びかけた。


 ああ、あいつら全滅しちまったってな。


 だが、返事がねえ。振り返ってみると相棒の首がなくなってるんだ。


 視線をちょいと下に動かすと見慣れた相棒の顔が地面に転がっていやがる。


 俺は叫んで走り出した。


 何を叫んでいたのか覚えちゃいない。


 ただ、ガムシャラに走って、走って、走り回った。


 わけもわからず走り回って、視界のスミに井戸を見つけたんだ。


 俺は迷わずそこに飛び込んだ。


 井戸は予想より浅くて、飛び込んだ直後に変な音がした。


 下を見れば先に井戸に飛び込んだ兵士たちでいっぱいだった。


 あの変な音は、俺が飛び込んだことで下にいた誰かが潰れた音だと分かった。


 かくいう俺も次々と井戸に飛び込んでくる兵士たちの下敷きになった。


 もちろん、俺は叫んださ。止めろ! 来るな!ってな。


 だがよ、俺より先に飛び込んだ連中がそれを言わなかったと思うか?


 もちろん、言ってただろうさ。逃げるのに必死で俺の耳に入らなかっただけで。


 俺の後から飛び込んできた連中にも当然、俺の声は聞こえなかっただろうよ。


 五、六人飛び込んできたところで俺の意識は失った。


 俺が話せることはこれで全てだ。正直、どうして俺が助かったのか不思議でならないんだ。


 えっ? ベイセル将軍はどうしてかって?


 ああ、そういや行方不明なんだっけ?


 さあな、俺も下っ端だしな。指揮官殿がどうしていたのか何て分からねえよ。


 ……嬢ちゃん、悪いことはいわねえ。


 蟻喰いの戦団には関わるな。


 あいつらは悪魔だ。


 五十倍の敵に狙われれば、普通なら逃げるしかねえ。


 なのに、あいつらは逃げるどころか、俺たちを皆殺しにする算段をつけていた。


 普通じゃねえ。


 ……ああ、俺は二度とゴメンだ。


 田舎に帰って畑でも耕すさ。


 そうしていつか嫁さんをもらって子供が産まれりゃ、悪いことをするとグレアムが来るぞと脅し聞かせることにするよ。

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