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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
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7 ケルスティン=アッテルベリ2

「ブロランカに超希少金属の鉱脈でもあったんですかね? でも精錬はどうやったんでしょう?」


「…………」


「まぁ、ともかく、グレアム君には謎が多い。これらの謎が解けなければ、おそらく万の軍勢を持ってしても返り討ちにあうだけだと思います」


「…………」


「で、私はその謎を解こうと動いていたわけです。もちろん、まず彼の持つスキルを疑うわけですが、ほら、ブロランカなくなっちゃったじゃないですか。グスタブ君の話が本当で彼が元奴隷なら取引書類があって、そこにスキル持ちなら記載があるはずなんですけど、島と一緒に消えちゃって困ってるんですよね」


「…………」


 レイナルドは無言で机の引き出しを開けると、そこから一通の封筒を取り出した。


「拝見しても?」


 レイナルドが頷く前に、中を開けるケルスティン。


「……ムルマンスクの孤児院育ちで、スキルは本人の言う通り【スライム使役】だけか。オーソン君のようにダブルスキル持ちなのかなと思ったんですけどね。……後天的にスキルを獲得したなんて例、アイク君は聞いたことあります?」


「ないな」


「私もです。そりゃリー君のように有用なスキルに進化することもあるそうですけど、【スライム使役】の進化先って何です?」


「…………」


「うわぁ、しかも、グレアム君、一晩で十二人も殺しちゃってますよ。しかも傭兵がほとんど。……リー君の名前がここで出てきたのは、ちょっと意外でしたけど。うーん、リー君、もう一度、こっちに引き込めないかなぁ? 多分、成り行きでグレアム君に同行してるだけだと思うんですけど。宮仕えが心底、嫌そうな感じでしたから無理かな? まぁ、いいですけど」


「…………」


「あ、ムルマンスクの事件はグレアム君は幇助犯で首謀者は他にいると思われているようですね。でも、グレアム君が主犯ですよね。王城に一人乗り込んで王様ぶっ殺すキ○ガイですもん。ほんと、親の顔が見てみたい。あ、孤児か」


 てへへと舌を出すケルスティンだった。


「よせ。可愛くもなんともない」


「じゃあ可愛いティーセ王女ちゃんを尋問してもいいですか?」


「……唐突になんだ?」


「だって怪しいじゃないですか。ジョセフ君の首を取り戻したことで持て囃されていますけど、人間相手では彼女は二流の戦士でしかありません。そんな彼女がどうやってグレアム君から首を取り戻したのかなって」


「…………」


「それでティーセ王女ちゃんに聞いてみたら普通に戦っていたらグレアム君、首を落として逃げたって」


「ちっ」とレイナルドは舌打ちした。既に尋問してやがる。


「いえいえ、ただ世間話をしただけですよ。でも、彼女、明らかに何かを隠していますよ」


「それで尋問か。できるわけなかろう。却下だ」


「ですよねー。はぁー。それならいっそ、グレアム君と講和してくれないかしら」


「…………」


 それをするには王家が主導するしかない。主君をむざむざ殺された臣下の立場でそんな提言ができるわけもない。


「ティーセ王女ちゃんをグレアム君のお嫁さんにするっていうのもありですね。ほら、年齢もちょうど一緒でお似合い」


「……本気か?」


「本気も本気。別に珍しい話でもないでしょう。親を殺した男のもとに嫁ぐことなんて」


「……それは男が圧倒的強者の場合だ」


「王国にとって最悪のシナリオって何だと思います? グレアム君が帝国に亡命することです。帝国の軍事力にグレアム君の謎の力が加われば、もうドラゴンに翼ですよ。想像してみてください。帝国三十万の軍勢が魔銃を持って王国に攻めてくる姿を。戦の天才と呼ばれるアイク君でもやばいんじゃないんですか?」


「…………」


「はぁー。でも講和なんて、まず無理でしょうね。それこそベイセル君の軍が全滅でもしない限り」


「…………」


「あなたの祖父のダイク先輩があと十年長生きしてくれていればこんな心配する必要なかったんですけどね。それだけあれば、ダイク先輩、きっとこの大陸を統一してくれましたよ。ほんと、変な趣味さえなければ婿に欲しかった」


「……婿になどできるわけなかろう。ダイク=レイナルドは跡取り息子だぞ」


「いえいえ、それがそうでもないんですよ。ダイク先輩、その軍事的才能が日の目を見るまで実家で冷遇されていたんですよ。長男にも関わらず」


「…………」


「あ、初耳でした? 私も不思議だったんですよね。確かにダイク先輩、スキルなしだったようでしたけど、それだけで何であんなに邪険にされていたんでしょう? ヨハン君ちのように魔術系スキルが無ければ家の存続に関わるってわけでもなかったのに。何か聞いてます?」


「…………」


「まぁ、過ぎたことはしょうがないですね。幸い、グレアム君も帝国に行く気はなさそうですし。聖国に亡命する気でしょうか? それでしたら聖国に攻め込む、いい口実になるかもしれませんね」


「……聖国嫌いは変わらずか」


「当たり前でしょう。そうでなきゃ、例のディーグアント政策に消極的ながら賛成なんかしませんよ。聖国の力を借りるなんて、まっぴらごめんです」


「…………」


「……話が逸れてしまいましたね。とにかくグレアム君です。先程も言ったように彼の力を解き明かさなければ、我々に勝ち目はありません。そこで本題です。アイク君。スライム研究に協力してください」


 ケルスティンはそう言うと、魔銃の他にもう一つ持参していた箱を持ち上げ、被せていた布を取り払った。それはクリスタルのケースで、中には様々な色をした軟体生物が蠢いていた。


「……スライムか」


「ええ。私の勘では彼の力はスライムに起因しているのではないかと。スライムは我々が知らない何か特殊な力を持っていて、それをグレアム君は使っているんじゃないかと」


「……グレアムが【スライム使役】以外のスキルを保持していない以上、そう考えるしかないが、それでどうして俺に協力を求める?」


「ダイク先輩ですよ。彼、スライムをペットにしてたんですよ。あまつさえ、一緒のベッドで寝たりしてて。みんな引いてましたよ。それって、う○こ、枕元に置いて寝るのと一緒じゃないですか。ダイク先輩の婚期が遅れに遅れた理由ですね。でも、わたし、気づいちゃったんです。実はダイク先輩、【スライム使役】スキル持ちだったんじゃないかって」


「……面白い妄想だな。お前でなければ祖父を侮辱したとして決闘を申し込まなければならなかった。それで、レイナルドの一門に【スライム使役】を持って生まれた子供はいないかと聞きたいのか?」


「ええ。スライムの研究をするならやはり、【スライム使役】があった方が捗るかと思いまして」


「さて、聞いたことはないな」


「そうですか。うーん、残念」


「…………」


「…………」


「……用がなくなったなら帰れ」


「なんでお茶の一つも出てこないんです?」


「帰れ」


 "不死"のケルスティン=アッテルベリ。


 若い姿を保ちながら百年を生きる王国の"魔女"である。

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