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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
三章 ジャンジャックホウルの錬金術師
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4 魔女狩り1

 なぜ自分はまだ生きているのか?


 グスタブ=ソーントーンは自問する。


 取り戻したピュアミスリルの剣を自分の首にあてたのは一度や二度ではない。


 だが、そのたびにソフィアの言葉が脳裏をかすめる。


『死ぬことは許しません』


 妖精剣を振るったことで受けた呪いの影響でソーントーンの右顔面は緑色に変色していた。そこから見たことのない植物の蔦が生え、ソーントーンにとめどない痛みを与える。


 すべてを失った自分の人生に意味はなく、ただ苦痛だけ受ける生にしがみつき何とするのか。


 いい加減、賞金稼ぎを返り討ちにすることにも飽きた。包帯を顔に巻き、フードを被って旅に出ることにした。死に場所を求めていた。気の向くまま歩き、短距離転移を繰り返していると、いつの間にか聖国のとある町にたどり着いていた。


「待て――っ?」


 町に入ろうとした所で、守衛から止められる。


 守衛はソーントーンの相貌に一瞬、怯んだようだが「市民証を見せろ」と命じてきた。


「持っていない」


「王国からの旅行者か? ならば手形を見せろ」


 手形とは聖国への入国時に発行される期限付きの通行手形のことであろう。だが、ソーントーンは短距離転移を繰り返しているうちに関所を通過してしまったようで、しかるべき手続きをとって入国していない。


「持っていない」


 守衛はちらりとソーントーンの腰のあたりを見た。ローブを羽織っているがソーントーンが剣を帯びていることはわかったのだろう。捕まえるのは面倒だと思ったのか、失せろと仕草で示した。


 町から離れながらソーントーンは、野垂れ死ぬことをソフィアは許してくれるだろうかと自問した。


「…………」


 自死する以上に許してくれないような気がする。あの綺麗な顔を真っ赤にして怒る姿が想像できた。


 ソーントーンは守衛が見えなくなる位置までくると、短距離転移で町を囲む防壁の上に飛んだ。もう一度、今度は町の内側に飛ぶ。


「…………」


 どうやら誰にも見咎められることはなかったようだ。


 ソーントーンは一夜の宿を求め覚束ない足取りで歩を進めた。


 ◇


 聖国の町で王国の銀貨が使えたのは幸いである。王国との国境が近いためであろう。


 ソーントーンは固いパンとスープだけの粗末な夕食を終え、二階の寝所に上がった。


 ベッドに横たわり目を瞑る。呪いの苦痛で、もう何日もまともに眠れていない。


 衰弱死も近いだろう。そうなる前に帝国に行こうか。かの六武王なら自分を殺してくれるかもしれない。戦って死ねばソフィアも許してくれるだろう。そんな益体もないことを考えていると、武装した男達が階段を駆け上がってくる気配を感じた。


 はて、不法入国が露見したかと剣を手元に手繰り寄せる。


 だが、男達はソーントーンの部屋を通り過ぎる。男達の狙いは別にあったようだ。


「――っ!?」


「――、離――!」


「――――!! 痛―!?」


「――逃げ――」


 バン!


 誰かがソーントーンの部屋の扉を開けて入ってくる。ああ、そういえば鍵をかけ忘れていたなと他人事のように思った。


「待て!」


「きゃあ!」


 ソーントーンの部屋に駆け込んだ誰かはすぐに男に捕まったようだ。目を開けて確認するもの億劫だった。


「大人しくしろ!」


 バシッ!


 仮初の部屋の主を無視して行われる暴力にもソーントーンは興味持てなかった。その叫びを聞くまでは。


「ジュリア!」


 ソーントーンはゆっくりと目を開けた。


 部屋の中には十歳前後の銀髪の少女と鎧を着た男。部屋の外では銀髪の少女よりも少し年上の赤髪の少女が二人の男に抑えられながらも部屋を覗き込んでいる。叫んだのは赤髪の少女でジュリアの名を持つのは銀髪の少女のようだった。


 ソーントーンが知るジュリアとは似ても似つかない。


「待て」


 それでもソーントーンは男を呼び止めてしまった。


「その子をどうするつもりだ?」


 男はソーントーンを無視して、少女の髪を乱暴にひっぱって連れ出そうとする。


「…………」


 パンッ!


「つぅ!」


 ソーントーンは鞘のついた剣で男の手を打った。思わず男は少女の髪を離し、その隙に銀髪の少女はソーントーンの背中に隠れた。


「貴様、聖務の邪魔をするか!?」


「聖務?」


「この女たちには魔女の嫌疑がかかっているのだ!」


「魔女とは何だ?」


「教会の張った聖結界を破り、魔物を呼び込む者たちのことだ!」


「嘘よ! そんなことしてない! 私たちはただ静かに森で暮らしていただけよ!」


「それ、語るに落ちたな! 魔物が出る森に住めるわけがない! 住めるとしたら魔物の仲間たる魔女だけよ!」


「そうなのか?」


 ソーントーンは、しがみつく銀髪の少女に訊いた。


 少女はフルフルと首を横に振る。


「魔女じゃないと言っているようだが」


「それをこれから取り調べるのだ! 邪魔をすると貴様も魔女の仲間として捕えるぞ!」


「ふむ」


 どうしようかとソーントーンは考えるが、うまく頭が働かない。


 業を煮やした男は力ずくでソーントーンを排除しようと動くが、ソーントーンは剣の柄頭を男の顎に当て昏倒させてしまう。つい条件反射で動いてしまったのだ。さらに悪いことに倒れる男の指がソーントーンの顔の緩んだ包帯にひっかかり解けてしまう。


「!? ば、化け物!?」


 ソーントーンの顔見た男達が叫んで斬りかかってくる。


 面倒なことになったものだとソーントーンは嘆息した。

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[一言] ソーントーンの第二主人公論w
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