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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
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149 サンドボックス25

 グレアムはソーントーンに<毒消し>と<呪消し>をかける。


 だが、おかしい。<毒消し>はうまく言ったが、<呪消し>が効果を発揮しない。呪いの緩和はできたようだが、完全に消し去ることができなかった。


 妖精剣アドリアナは神話級の宝剣とジョセフは言っていた。その呪いも神話級ということかもしれない。


 まぁ、仕方がない。グレアムには何が何でもソーントーンを助ける義理もない。


 やがて、ソーントーンは目を覚ましアドリアナを杖にして立ち上がる。


 胸に大穴を開けて血を流すジョセフを一瞥して、ソーントーンは俯いた。


「早く逃げたほうがいいぞ。もうすぐ王国軍が雪崩れ込んでくる」


「…………放っておけ」


 グレアムは肩を竦めた。死にたいなら好きにすればいい。


 次の瞬間、グレアムは目を見張った。


 ジョセフが立ち上がったのだ。


 胸から血を流しながら。


 なぜか、顔には笑みを浮かべている。


 その異様な光景にグレアムの体が固まる。


「ジョセフ!!!」


 一方、ソーントーンは妖精剣を携え、ジョセフに飛び掛かった。


 ◇


「神に愛されし子だ」


 余はジョセフ・ジルフ・オクタヴィオ。


 アルジニア王国の王である。


 余がこの世に生を受けた日、先王たる余の父はそう語ったという。


 その理由が余のスキル【絶頂に至る八芒星】――他人のスキルを八つまでコピーできるという他に類を見ない強力なスキルである。


 父はこれを神に愛された証拠だと言うが、余には呪われているとしか思えない。


 強力なスキルには何らかの形で対価が求められる。余のスキルも例外ではない。その対価は「頂点を希求する心」である。


 何事においても自分がトップでいることを求めてやまない。余を凌駕するレイナルドの軍事的才能もティーセの国民的人気も余にとっては嫉妬の対象でしかない。


 さらには、コピーしたスキルからも対価を要求される。


 体力の消費だけならば上等。酒がやたら飲みたくなったり、自由に空を飛びたくなるならば、まだ可愛いもので、臣下の妻を奪ってでも欲しくなるのは冗談では済まない。


 最悪なのは殺人衝動を対価とするスキルをコピーした時である。余が強い殺人衝動に侵されたことを不審に思い、元の所有者の屋敷を調べさせた。すると、案の定、地下から遺体がゴロゴロ出てきた。


 すぐにそのスキル所有者は「病死」させたが、後宮に余の殺人衝動の犠牲となった者が出た。おかけで余は後宮では邪知暴虐の王と恐れられ、余の味方は後宮にいなくなった。


 まぁよい。もとより余に味方はいない。スキルの対価によって支離滅裂な言動を繰り返す余に臣下は呆れ、侮蔑し、残るのは余を利用しようという下衆だけだ。


 スキルのコピーと使用を控えればよいのだが、頂点を希求する心がそれを許さぬ。まさに呪いといえよう。


 だが、それがどうだというのか。もはや、他人にどう思われようと何の痛痒も感じぬ。


 なぜなら、我々人類は既に詰んでいるからだ。


 竜大陸からのドラゴンどもの侵食が止まらない。


 ティーセ、お前が倒した上級竜は老いて力を失い、若い下級竜の縄張りから押し出されるように人類大陸に侵入してきただけなのだ。


 本物の上級竜は人類が敵うような存在ではない。


 幸い上級竜は天龍皇の亡骸が眠る竜大陸中央に集まっている。本物の上級竜がこの大陸に来ることはまずない。


 だが、下級竜、中級竜は別だ。


 ドラゴンどもは魔物と違い、その生命維持にエサを必要とする。そのため、広大な縄張りを必要とするのだが、それがこの大陸にまで広がりつつある。この大陸と竜大陸を結ぶアッシェント大地峡帯はドラゴンに支配されて久しい。


 このまま何もしなければ、百年後には王国東部はドラゴンに支配され、五百年後にはこの大陸から人類は姿を消すだろう。


 この絶望的状況を聖国は宗教という麻薬で目を逸らそうとしている。それはまだ可愛いものだが、帝国は愚にもつかない。


 何が六武王だ。魔術で駄目だったから今度は武術でドラゴンに対抗しようとでもいうのか。


 そう、かつて人類はこの絶望的状況に対抗しようとしたのだ。


 それが古代魔国である。


 この大陸を強力な魔術で支配した古代魔国は、かつてアマルネアと呼ばれた竜大陸を取り戻そうとドラゴン達に戦争を仕掛ける。


 結果は言うに及ばずだろう。人間の魔術は竜に及ばなかった。


 帝国は再び人類の力を集結し、アマルネアを取り戻そうとしている。


 馬鹿馬鹿しい。


 理性を失い獣となったドラゴンどもにアマルネアを追われ、この穢れた大陸に逃げ込んだ時から人類は終わったのだ。


 その証拠にリーからコピーした【危険感知】の警告が鳴りやまない。この大陸で最も安全であるはずの王宮にいてさえ、そうなのだ。


 やがて、この大陸に大きな破滅がくることは間違いない。その予兆であろう。魔物の発生増加は。


 我々人類は既に詰んでいるのだ。


 ヒューストーム。


 お前、本当は気づいているのではないか。


 なのに何故、抗う。


 レイナルド、ティーセ。お前たちもだ。


 所詮、お前たちのやっていることは砂漠に鍬を入れる行為に等しいことだと何故、わからない。


 余のように開き直り、砂漠にいるならば、せめてその砂で遊べばよいのだ。


 ああ、実に愚かしい。


 グスタブ=ソーントーン。


 お前はその最たる者だ。


 余の王位継承を祝う武闘大会。そこで余は初めてお前を見た。


 お前の剣技は実のない(しいな)のようだ。


 確かにお前の剣技は素晴らしい。それは認めよう。


 だが、お前の剣技を継げるものは誰もいまい。【転移】スキルと類稀な剣の才能があってこそできる剣なのだ。


 グスタブ=ソーントーンの剣はグスタブ=ソーントーンで完結している。


 継ぐもののない剣など何の意味がある。実に愚かしい。


 …………。


 なのに、何故、お前の剣に余は感動を覚えているのだろうか。


 それは、グスタブ=ソーントーンの剣が美しいからだ。


 美しいものは多く見た。だが、その美しさに涙を流したのは初めてだった。


 グスタブ=ソーントーン。


 お前はこの砂漠に降り立った一羽の美しき鳥だ。


 ブロランカという鳥籠の中で、余を世界の終わりまで慰めてくれ。


 ああ。だが、鳥籠は壊れた。


 もはや、グスタブ=ソーントーンを留めるものは何もない。


 自由の空に飛び立ち、その美しき姿を世界に晒すのだ。


 余をこの砂漠に置き去りにして。


 ならぬ。それは許さぬ。


 ならば、余の手でその美しさを終わらせる。


 だが、もし、それも叶わぬならば、お前の美しさを目に焼き付けて死にたい。


 それが叶えば、まさに――


 至福

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