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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
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148 サンドボックス24

『猫にマタタビ、商人にミスリル、鍛冶屋にアダマンタイト、魔術師にオリハルコン』


 それぞれが好きなものを示す言葉だ。


 流麗で華美な武具や装飾品を作れるミスリルは王族や貴族と懇意にしたい商人に重宝され、特殊な製法でのみ加工できるアダマンタイトを扱えば鍛冶師は一流とみなされる。


 そして、魔術式を書き込めるオリハルコンは魔道具を作るには欠かせない素材である。


【全身武闘】対策としてグレアムはまず、電気を通しやすい金属(銀や銅などの合金)で作った二本のレールを用意した。全長はおよそ三メートル。それを向かい合わせるように配置する。


 レールの上下を絶縁体となるアダマンタイトで密封し、さらにオリハルコンで覆う。


 レールと同じ素材の弾体を二本のレールの間に挟み、レールに電力を通す。そうするとローレンツ力により弾体は加速し撃ち出される。


 異世界製レールガンである。


 レールガンをオリハルコンで覆ったのは自動で目標に照準させるための魔道具とするためである。


 魔銃から発せられた光――<ターゲットデジネータ>に当たった物体にレールガンは自動的に照準を合わせるのだ。これは<火矢>などに使われる誘導魔術式から流用・改変した。


 グレアムはジョセフの胸に誘導光を照射した後、王城から二キロメートル離れた場所にいるサンダースライムにレールに大電力を流すように命じた。グレアムの電気実験で偶然生まれた彼らは高電圧を溜め込めるコンデンサとなれる。


 レールに流し込まれた大電流は弾体上の電流とレールの電流に発生する磁場の相互作用によって加速する。例えば、アメリカ海軍はレールガンの発射実験で音速の六倍の速度で砲弾を発射し、三枚の強化コンクリートと六枚の鉄板を貫通することに成功している。


 弾体の弾頭はアダマンタイト製にし、さらに一部をオリハルコンにしている。これは弾頭自体を魔道具とするためである(オリハルコンだけの弾頭では発射口から飛び出した瞬間に蒸発してしまった)。弾頭に組み込んでいる魔術式は回転と誘導。発射口から弾頭が飛び出した瞬間、ライフル弾のように回転するすることで空気抵抗を軽減しつつ、<ターゲットデジネータ>が指定した目標へ飛ぶのである。



 ― 三ヶ月前 ディーグアントの巣 大空洞 ―


「オーソン、やはり止めよう。危険すぎる」


「それは何度も議論しただろう。レールガンが本当に【全身武闘】を貫けるか確認する必要があると。何も頭や心臓を狙うわけじゃない。失ってもすぐに<再生>してくれるんだろう?」


「確かにそうだが…………」


 何事も不慮の事故は起きうる。発射機構に魔術を利用しているとはいえ、物理法則を利用していることには変わりない。レールが破損して照準が大きくずれることもある。目標とレールガンの距離によっては、弾頭の誘導魔術の補正が追いつかない可能性もあるのだ。


「頼む、グレアム。やってくれ。お前が来るまで俺は仲間を何人もディーグアントのエサにしちまった。こんな馬鹿げた政策を許し、あまつさえ推し進めたジョセフの奴はあいつらの仇だ。俺はどうしてもあいつらの仇を討ってやりたい。そのための気懸かりは残したくないんだ」


「…………わかったよ」


 数分後、雷のような音が大空洞に響き渡った。



 ― 現在 王城 謁見の間 ―


「ゴフッ!」


 オーソンの執念ともいえる一撃で胸を貫かれたジョセフは血を吐き、仰向けにゆっくりと倒れた。ジョセフの体を覆っていた【全身武闘】の金色のオーラが解除されていく。


 それを見届けたグレアムはオーソンに連絡を取った。


(オーソン。成功だ。至急、撤収してくれ)


『――――ッ!』


 思念波を通して、歓喜の気配が伝わってくる。


 だが、グレアムはジョセフを殺しても思ったほどの達成感は得られず、ムルマンスクでディアンソを殺した時のような疲労感と虚無感の方が強かった。


「……こいつは何で逃げなかったんだ?」


 ジョセフを見下ろしながらグレアムは独り言ちた。


 ソーントーンの【転移】スキルをコピーしているのだ。逃げるのは容易だったはず。奴隷相手に逃げるのは恥と思ったのか。それとも一瞬で【全身武闘】を貫くような攻撃など想定していなかったのか。


「まぁ、逃げても無駄だったんだが」


<ターゲットデジネータ>は<火炎散弾>に紛れてこませてジョセフに照射していた。<ターゲットデジネータ>の効果は数時間続くので、そこでグレアムの目的は達せられた。王城のどこにいてもレールガンの射程範囲である。後はレールガンの準備が整った後に発射すればいいだけであったのだ。


 ところが、グレアムはジョセフの宣言通りに四肢を切断され、両目も奪われる。ジョセフは倒せてもグレアムが脱出できなければ意味はない。そこで毒ガスを使って暗部の黒ずくめ達を無力化し、四肢と両目は<再生>した。


 ジョセフが<毒消し>を使おうとしたので、<魔術消去>を使ってしまったが<ターゲットデジネータ>の効果も消えてしまった。その直後にオーソンから連絡が入り、<ターゲットデジネータ>を再照射したのである。


 少々危うい所もあったが、目的は果たした。後は脱出するだけである。


 グレアムは亜空間を広げ、そこに毒スライム達を収納する。その過程で倒れているソーントーンが目に入った。


 グレアムはソーントーンの処遇を考える。


 もとより、ソーントーンは悲しき中間管理職でしかないことはわかっている。


 彼を殺す大義はなく、復讐や八つ当たりの対象とするには、ソーントーンは失ったものが大きい。


 だが、生かしておくのも危険かもしれない。まさか【全身武闘】を切り裂くとは思わなかった。


 ソーントーンにも毒は効いていたはずである。毒の影響がなければ、もしかするとソーントーンの剣はジョセフの首に届いて切断していたかもしれない。


「…………」


 しばし迷い、結局、助けることにした。その理由はソーントーンの襟からのぞく奴隷の焼印だった。


 なぜソーントーンの背中に焼印があるのか知らないが、グレアム達、生贄奴隷で焼印を押されたものは一人もいない。おそらく獣人達もそうだろう。思えば、二の村では生活に必要なものは最小限だったが支給されたし、武器も与えられていた。


 それがソーントーンの情けであったならば情けで返すのがスジであろう。だから、<毒消し>と<呪消し>ぐらいはかけてやることにした。【転移】スキル持ちなら後は自力で脱出できる。


 甘いと言われれば否定できないだろう。そして、その甘さがジョセフの最終的勝利を許す結果となる。

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