147 サンドボックス23
ドン! ドン! ドン! ドン!
グレアムは亜空間から新たな魔銃を取り出すと、床に転がって苦しむ暗部の黒ずくめに向けて<火炎散弾>を放った。
黒ずくめ達は全員、頭と胸を丁寧に撃ち抜かれ絶命する。
「い、一体、余に何をした?」
全身から脂汗を流しながら苦しむジョセフがグレアムに問う。
振り返ったグレアムの顔の下半分には緑色の物体が貼り付いていた。
グレアムは再び亜空間に手を入れ、今度は指輪を取り出す。それを手に嵌めると指輪が輝き始めた。
それを確認すると今度は<風刃>の魔術を展開した。ただし、殺傷能力はなく風圧だけ強い魔術だ。それをグレアムを中心に展開する。逆巻く風が謁見の間に吹き荒れ、やがて収束した。
「答えろ! 余に一体、何をしたのだ!? 貴様はさっきから何をしている!?」
怒鳴るジョセフを無視し、グレアムが指輪が輝いていないことを確認する。するとグレアムの顔から緑色の物体が剥がれ落ちた。グレアムの手に落ちたそれは蠢くと、形を整え手の拳の形に変形した。
「そ、それはスライムか!? まさか!?」
周囲を見回すジョセフ。すると、部屋の隅、その影に隠れるように赤と黄色のまだら模様の毒々しいスライムが大量に蠢いていた。
「ど、毒スライム! 余は毒スライムの毒にやられたのか!?」
「ああ、そうだ。どんな武器も魔術も跳ね返す【全身武闘】も吸い込む空気は対象外だ。毒スライムに毒ガスを吐いてもらった」
もちろん、グレアムも毒を吸い込めばただでは済まないが、それはフォレストスライムを顔に貼り付けガスマスクとすることで回避した。空気中から毒ガスだけ分離することなど彼らなら容易い。
ジョセフに毒が充分まわっていることを確認したグレアムは謁見の間に充満している毒ガスを<風刃>で散らした。亜空間から取り出した指輪は毒感知の魔道具である。ちなみに魔道具はオリハルコンと魔石を材料として作られる。この指輪はヒューストームの師事のもと、グレアムが作成した初めての魔道具であった。
「ありえん! 余が身に着けている毒無効の魔道具はそこらの傭兵が身に着けている安物とはわけが違うのだ! 毒スライムの毒も対応している!」
「間抜け。お前が身に着けている魔道具を見てみろ」
「何!?」
ジョセフは自分の左手に嵌めている指輪を見る。【大魔導】スキルはそれがただのガラクタだと示していた。
「馬鹿な!?」
ネックレス型とブレスレット型の魔道具も見てみるが、いずれも魔術的な効果は見られなかった。
「毒対策は王族貴族の必須条件だからな。お前がそういう魔道具を身に着けていると思っていたよ。だから、<魔術消去>でぶっ壊した。無限回廊を破壊した時にな。お前が今、身に着けている魔道具は全部、ガラクタだよ」
「くっ!」
ジョセフは<毒消し>の魔術を発動しようとする。
「おっと」
だが、それはグレアムの<魔術消去>で発動することなく消えてしまう。
「くっ! ……なるほど、確かに貴様にしてやられたことは認めよう。だが、それからどうする? 余が痛みでスキルが使えなくなるような三流だとでも思っていたか!?」
毒がジョセフの全身を蝕んでいても【全身武闘】のオーラは維持されていた。グレアムはムルマンスクで【狼使役】の少女タイッサに関節技をかけられながらスキルを使う訓練をしたことを思い出す。
「貴様では余に傷を負わせられないことには変わりあるまい。そして【超回復】スキルが余の毒を分解しつつある。後、数分もすれば余は動けるようになる。いや、その前にレイナルドが精鋭を引き連れてここに突入してくるほうが先か? いずれにしろ貴様は終わりだ、グレアム!」
苦痛に顔を歪めながら叫ぶジョセフを冷めた目で見つめるグレアム。
「お前は馬鹿か?」
「なに?」
「お前、俺の師匠を舐めてるだろ? 師匠はお前が【全身武闘】を使えることを見抜いていたぞ」
ヒューストームとオーソンを未だに生かし続ける理由。
ブロランカに送る直前にジョセフがヒューストームに求めた行動--ジョセフの手の甲に口づけし忠誠の言葉を述べる――の意味。
そして、ジョセフが以前から時折、支離滅裂な言動をとる理由。
「コピーしたスキルの対価を求められたんだろう。それらの状況証拠からお前のスキルは他人のスキルをコピーする能力だと師匠は看破したんだ。ついでに言うと、俺が派手に魔術を使えば俺のスキルに興味を持って俺を殺さないとアドバイスしてくれたのも師匠だ」
「だ、だから何だというのだ!?」
「だから、【全身武闘】を破る方策は、とっくに構築済みだということさ」
『グレアム、待たせた! 準備OKだ!』
オーソンから絶妙のタイミングで連絡が入る。
グレアムは亜空間から新たな魔銃を取り出すとジョセフに向けた。杖の先端から細い光が発せられジョセフの胸をピンポイントに照らす。
「なんだ、それは? 余は何ともな――!?」
ズドン!
ジョセフの胸に直径五センチほどの穴が開いていた。
グレアム「【全身武闘】の攻略法が思いつかないと言ったな。あれは嘘だ」
オーソン「…………」