143 サンドボックス19
ジョセフの【絶頂に至る八芒星】に登録されているスキル所有者とそのスキルの一覧です。
・"剣鬼"グスタブ・ソーントーン
【転移】
・"双剣"アシュター・ジルフ・オクタヴィオ
【運命の女】
・"重装"オーソン・ダグネル
【全身武闘】【気配感知】
・"妖精王女"ティーセ・ジルフ・オクタヴィオ ※非公認
【妖精飛行】
・"千突"サザン・レイナルド
【分体】
・"不死"ケルスティン = アッテルベリ
【?】
・"大賢者"ヒューストーム ※非公認
【大魔導】
・"剣静"リー
【危険感知(危機感知)】
国王ジョセフを殺す。
カーキ色の妙な服を着たガキがそう宣言した瞬間、サザンは弓から放たれた矢の如く突進した。
同時に【分体】スキルを使って、分身を四つ作る。実体を持つ分身たちとの連携で相手を滅多刺しにする。サザンが"千突"と呼ばれる所以であった。
ガキ相手にそこまでするのかと王国元帥の叔父貴には笑われるかもしれないが、戦場で鍛えた戦士の勘が、このガキは危険だと訴えていた。手加減なし、初めから全力で殺す。
……
実際にサザンの勘は間違っていなかった。ただ相手が悪かっただけである。
仮に天才とは固定概念に囚われず、常に最短にして最善の方法で結果を残す人間のことを指せば、まさにヒューストームの魔術やソーントーンの剣技がそれにあたる。
そして、このサザンもその片鱗を見せる天才である。
一方、グレアムは失敗する。前世で学んだことも忘れていたり、間違った形で覚えていたりする。
故に、グレアムは自分のことを天才ではないというが、ヒューストームから見れば充分規格外の化け物である。
グレアムが魔術を師事するようになって二年半。しかも後半は、蟻喰いの戦団の活動のために魔術を勉強する時間はほとんどなかったはずである。
であるにも関わらず、ヒューストームの魔術式を半分も理解できるのは異常なことであった。通常は然るべき教育機関に所属するか、師に弟子入りし十年単位で魔術を学ぶものなのである。
サザンはスキルにも恵まれ、しかもそれに奢ることなく努力する超一流の戦士である。
ただ相手が悪かっただけである。
……
ドォン!!
サザンが分身ともども壁を突き破る。
「――っ、あ、が!?」
たった一撃である。一撃で五体のサザンは壁まで吹き飛ばされた。
まだ息のあった本体は己の分身たちを見る。身体中が穴だらけになって絶命していた。
妙な形をした台座に載せた二本の魔杖がこちらに向けられ、光ったことは覚えている。
何かの魔術を使おうとしたのだろう。だから二体の分身を正面に、残る二体は左右に広がって接近した。分身が一、二体やられても残る分身と本体が確実にとる布陣である。
しかし、魔杖から放たれた赤い光が放射状に広がり、無数の雨粒のようなものが分身と本体を貫いていったのだ。
「――何が?」
「サンキュー。おかげでいい方法を思いついたよ。方角はわかるんだから、壁を壊していけばいいんだ」
「っ!? この化け物が――」
バン!
至近距離からの<炎弾>がサザンの頭部を破壊した。
◇
本来ならば、ジョセフの寝所まで秘密裏に潜入し、そこでジョセフを暗殺する予定であった。
だが、それが叶わず王宮警備隊や近衛兵を蹴散らしてジョセフの元へ行く事態も想定していた。
そのために、グレアムはブロランカ島で匂いの誤魔化しなし、純粋なディーグアントの敵として単独で巣穴に入り女王を撃破する訓練を重ねていた。
狭い巣穴の中で間断なく襲いくるディーグアントの群れに対抗するために、開発したのが<火炎散弾>――現代地球世界では近接戦最強武器とも言われる散弾銃をモデルにした魔術である。
一発でも致命傷を負いかねない炎弾を広範囲に多数撒き散らすこの魔術は狭い穴ぐらでは特に威力を発揮した。その分、魔力の消費は激しかったが――
(ムサシ、支配下におけたスライムはどれぐらいだ)
(7,058,458)
グレアムが想定していた数字の七倍以上である。これは嬉しい誤算だった。ディーグアントの女王を殺すまでに三十万体のスライムの魔力を必要とした。
その三十万体のスライムは今、グレアムと共にある。タウンスライムの亜空間に他のスライムを収納し、さらにそのタウンスライムを別のタウンスライムに収納することを繰り返すことで、グレアムのポケットにいる数体のタウンスライムに集約されている。
合計七百三十万。
魔力切れを心配する必要はない。
ドガン!
威力最大の<衝撃弾>で壁と扉を破壊して突き進むグレアム。たまに現れる警備兵は<火炎散弾>で瞬殺していく。
やがて、白亜の大回廊が目の前に現れる。天空や地下にまでその魔術の効果が及んでいるという無限回廊に間違いないだろう。
どうやら謁見の間でも騒ぎが起きているようだった。急がなくてはならない。
グレアムは魔術式を展開する。青白い光が周囲を染め上げた。
「ま、待て! 何をする!?」
見ればシャーダルクが壁に寄りかかっていた。グレアムを追ってきたのだろう。
「決まっている。無限回廊をぶっ壊す」
「!? よせ! 無限回廊はロストテクノロジーだ! 無限回廊は二度と作れないのだぞ!」
シャーダルクの必死の訴えにグレアムはただ短く答えた。
「知るか」
大規模な<魔術消去>が無限回廊の魔力を打ち消していった。