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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
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128 サンドボックス4

― 七年前 オーソン・ダグネル男爵邸 ―


 気をやり意識を失ったアリダの髪を手櫛で軽く整えながら、オーソンは彼女に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 近年低下しつつある食料生産、その実態調査の旅に同行して数年。


 その間、アリダを待たせ続け、さらにもう二、三ヶ月、ヒューストームを聖国に送り届けるため待たせることになる。


 アリダはオーソンの血の繋がらない姉であり、恋人であり、婚約者でもある。


 オーソンの従騎士でもあるので旅に同行してもよかったのだが、帝国に足を延ばす予定もあったため少数精鋭で発つことが王宮で決められたのだ。


 確かに厳しい旅路であった。魔物に山賊と盗賊の襲撃。訪れた村が丸ごと襲いかかってきたことすらある。


 街に着けば着いたで、不正調査に来たと勘違いした代官に暗殺者を差し向けられたことも一度や二度ではない。


 聖国では高名なヒューストームは歓迎され、その旅路はむしろ王国よりも快適なほどであったが、帝国ではそうもいかず、正体を隠しながらの旅路だった。最後は正体がばれ、追っ手の追跡を振り切りながらの逃避行となったのだ。


 騎士の娘とはいえ、スキルを持たず剣の腕も凡庸であったアリダでは確実に生き残れたか怪しい。故に王宮の決定にオーソンは不満はなかった。


「ん」


 髪を撫でる感触でアリダが目を覚ましたようだった。


「おはよう」


 オーソンが優しく声をかける。


「…………」


 アリダは何も言わず、その両腕でオーソンを抱きしめ彼の胸に顔を埋める。


 普段はキチッとした面しか見せない彼女だが、ベッドの上ではこうして甘えてくる。そんな彼女がとても愛おしかった。


「――――――!?」


「――――――!!」


 そんな彼女としばしの別れを惜しむようにピロートークを楽しんでいると、階下で騒がしい声が聞こえてきた。


 家の管理を任せている老夫婦の声に、聞き覚えのない中年男性の声。


「見てくる。アリダは待っててくれ」


 そう言い残すとオーソンは肌着一枚だけ身につけ、即座に部屋から飛び出した。


 階段を半ばまで降りた所で、肩を寄せ合う老夫婦に甲冑を着た数名の騎士が詰問している姿が目に入る。


「夜分に何用か?」


 オーソンは目線で奥に下がるように老夫婦に指示しつつ、訪問の目的を問う。


「オーソン・ダグネル殿ですな?」


「そうだ」


 騎士達がオーソンの周りを取り囲む。


「あなたには反逆罪の容疑がかけられています。王城までご同行をお願いします」


 ◇


 オーソンにとっては青天の霹靂であった。


 ヒューストームが首席宮廷魔術師シャーダルクの研究資料を不正に聖国に持ち込もうとしていたという。


「バカな! ヒューストームがそんなことをするわけがない!」


「よくもぬけぬけと。お前も共犯なのだろう?」


「なに?」


「あの老夫婦が何もかも綺麗に喋ってくれたよ。ヒューストームと二人で、よからぬことを企んでいたとな」


「…………彼らを拷問にかけたのか?」


「はて? 何のことだ?」


 尋問官の下卑た笑いに目の前が真っ赤になる。だが、怒りに任せ暴れるわけにはいかなかった。


 オーソンはヒューストームの身を案じていた。聞けば魔力の大半を封印され、拘束されているという。


(陰謀だ)


 ヒューストームに聖国に行かれては困る者がいるのだろう。


「……レイナルド元帥閣下に取り次いでもらいたい」


 魑魅魍魎が巣食う王宮で、オーソンがほとんど唯一信用できる人間がレイナルドである。


 彼に自分とヒューストームの弁護人を頼むつもりであった。


「ふん。無駄だと思うがな」


 数日後、裁判のため判事となるジョセフ・ジルフ・オクタヴィオの前にヒューストームと共に引き出されたオーソン。


 その場にレイナルドはいなかった。


「さて、八星騎士オーソン・ダグネル男爵、及び次席宮廷魔術師ヒューストームによる機密文書漏洩未遂事件について吟味を致す」


「お待ち下さい、陛下」


「無礼であろう!」


「よい。何か?」


「……レイナルド元帥閣下に弁護を依頼し、了承も得ております。元帥閣下の――」


「彼は来ない。地方で反乱が起こり、その鎮圧に今朝早く出立した。弁護の代理はグスタブ=ソーントーン伯爵が務める。原告は首席宮廷魔術師シャーダルク伯爵、検察は八星騎士にして我が実子のアシュター・ジルフ・オクタヴィオが務める」


「なっ!?」


 立ち上がろうとするもヒューストームに抑えられる。彼は黙って首を横に振った。


 信用するレイナルドに弁護してもらえないのは苦しいが、まだ有罪と決まったわけではない。


 だが、状況は悪くなる一方だった。


 オーソンとヒューストームにまったく身に覚えの無い証拠が次々と積み上がっていく。


 シャーダルクの研究資料と引き換えに、しかるべき地位を所望するオーソンの書状が出された時には思わず笑ってしまった。


 代理弁護人のソーントーンはいかなる証拠にも反論しようとしない。弁護する気がないのは明白であった。


 そして、判決。


 有罪。


 刑罰は奴隷に落とした上でのブロランカへの島流しだった。


 だが、これには原告のシャーダルクから異論があがった。


「お、お待ちを、陛下! かの者たちを生かしておけば王国にどのような災厄を招くか知れたものでありません。速やかな処刑を」


「不要だ。かの者たちの罪は蟻どもの餌となることで償ってもらう。王国のために役だって死ねば、あの世の天龍皇の沙汰も軽いものとなろう。これは余の慈悲だ」


「蟻どもの餌? 王よ。それはどういうことですかな?」


 今まで一言も発することのなかったヒューストームが発言する。


「なに、そこのシャーダルクの発案でな――」


 ジョセフは説明する。ディーグアントを使い魔物を駆除すること。そのコントロールにディーグアントを引き寄せるカダルア草と麻痺させる竜吠草を奴隷に食べさせることを。


「こ、小僧ども!! 人の命をなんだと思っておる!! このような非道、許されるはずがない!!」


 激昂するヒューストーム。


 オーソンもまた我慢の限界だった。


【全身武闘】スキルを発動し、拘束具を引きちぎる。


 このままヒューストームを連れて王宮から脱出するつもりであったが――


「行かせると思うかね?」


 王国最強の男、ソーントーンが出てくる。


 彼がここにいる目的は弁護よりもオーソンを抑えるためなのであろう。


 アシュターもまた剣を抜いてオーソンとヒューストームのもとに降りてくる。


 ソーントーンの目にも止まらぬ斬撃。だが、【全身武闘】によって無敵状態となったオーソンには通じない。キンッと硬質な音を立ててソーントーンの剣を弾く。


「無駄だ。俺に攻撃は通用しない。怪我をしたくないなら下がっていろ」


「なるほど。確かにそのようだ。だが、こちらも何の対策も考えていないわけではないのでね」


 シュ!


 目の前からソーントーンが消える。


(短距離転移!? だが無駄だ! 背後を取ろうと俺には通じない!)


 だが、ソーントーンの狙いはオーソンではなくヒューストームであった。


 ヒューストームの背後にソーントーンが転移したことを【気配感知】スキルで感じとったオーソンはヒューストームを守ろうと、駆け寄る。


 だが、それこそがソーントーンの罠であった。


 ソーントーンがヒューストームの背中を強く押す。押し出された先には【全身武闘】を纏ったオーソンがいた。


 もし、このままヒューストームがオーソンに触れれば、ヒューストームの体は弾き飛ばされ重傷を負うことであろう。


【全身武闘】スキルを解除するしかなかった。


 そこにアシュターが剣を振るう。アシュターの斬撃がオーソンの右腕を切り飛ばし、同時に一度の行動で倍の効果を得る【運命の女】スキルの効果で発生した同種の斬撃がオーソンの左脚を切り飛ばしたのだった。

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