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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
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127 サンドボックス3

 ―― 十分前 二の砦 ――


 エイグの首から下は見つからなかった。恐らく、ディーグアントに持ち去られたのだろう。奴等の餌とするために。


「運が無かったな」


 首の断面から噛みちぎられたとわかる。ディーグアントに襲われたことは明白であった。


 エイグとはビジネスライクな関係でしか無かったとはいえ、その最後に同情する。


 自分もまた、似たような結末を迎えるであろう。


 領地を守るためとはいえ、非道な行いをしてきたのだ。報いは必ずあるとソーントーンは思っている。


 だから、ソーントーンは全ての弟子を破門した。王国最強の名に憧れ、弟子入りを希望する者は後を絶たないが、全て断っている。やがて来る自身の破滅に彼等を巻き込みたくなかったからだ。


 自分に何かあれば、ソフィアの実家に託すように手筈も整えている。彼女の家族は有能、かつ有情である。ブロランカの領民達も安心することだろう。


 とはいえ、最後まで領主としての責任を放棄する気はない。望んで得た地位ではないとしても。


 まずは状況の把握である。


 ディーグアントに二の砦が襲撃を受けたのは間違いない。この際、なぜこのタイミングでという疑問は置いておく。襲撃の規模と、何故、砦内に侵入を許したかである。


 二の村の奴隷達に攻撃を受けたとはいえ、門も防壁も健在だったはずた。


(南から侵入されたか?)


 砦の南への防備は薄い。防壁はほとんど無く、南からなら侵入は容易だ。


 であるなら、数日前からの南部でのディーグアントの目撃情報と無関係ではあるまい。被害がほとんど無いことと、ティーセの捜索準備で忙殺されたとはいえ、もっと重要視すべきであったのだ。


(奴等の巣が南部にまで広がっている?)


 それはソーントーンにとって最も考えたくない可能性であった。


 竜大陸にあるディーグの大森林地下に生息するディーグアントは森の地下にしか巣を作らないと聞いている。それが何故かは知らない。それが真実か確かめる術も持たないソーントーンにはそう信じるしかなかったのだ。


 だが、もしディーグアントの巣が南部にまで広がっているとしたら……


『逃げた方がいい。この島はもうダメだ』


 かつてのリーの言葉を思い出す。


 それは全てが手遅れという意味だ。到底、受け入れられるものではない。


 あるいは従兄弟達ならどうにかできたのだろうか。領主として正規の教育を受けた彼等なら。


 そんなことを考えながらソーントーンは砦内を進む。


 暗がりからディーグアントが襲ってきたが、ソーントーンはすれ違い様にただ一度、剣を振るう。ミスリル製の剣は何の抵抗も感じさせずにディーグアントの頭部を切り飛ばした。


 ギッ、ドシャ


 床に倒れるディーグアントを一瞥することもなく、ソーントーンは歩を進める。


 やがて、彼の耳に怒号と剣撃が聴こえてくる。


(生き残りがいる?)


 ソーントーンは音のある方向へ走る。途中、数体のディーグアントに出くわすが、スピードを緩めることなく、その横を通過した。後には頭部を失ったディーグアントを残して。


 数度の交戦とも言えない交戦を経て、中庭に出た。


 まず目に入ったのは中庭の中央に開けられた大穴。食い散らかされた傭兵の残骸と血の跡。そして、物見櫓に夥しく群がるディーグアントである。


 シュパ!


 ソーントーンは短距離【転移】を行う。転移先はディーグアントの背中。そこで剣を振るうと同時にまた【転移】。


 それを数度繰り返し、物見櫓に近づいていく。最期は頭部を切り落としたディーグアントを蹴り落とし、その反動を利用して物見櫓に転がりこんだ。


「!? ソーントーン!」


 物見櫓にいたのはシャーダルクと防衛隊の副長。そして数人の傭兵だ。物見櫓に立て篭り抵抗を続けていたようだ。


「生き残りはこれだけか?」


 砦にいたのはエイグが誇った200名の精鋭部隊である。それをどれだけの数のディーグアントに襲われたら、短時間でほぼ全滅するのか。


「そんなことよりソーントーン! 今すぐワシをこの島から連れ出せ!」


 血相をかかえソーントーンに詰め寄るシャーダルク。


「シャーダルク殿。なぜここに?」


「今はそんなことどうでもいい! 早くせねば<白>が――」


「ぐふっ!」


 断末魔の呻きに視線をやると副長の胸がディーグアントの前脚に貫かれていた。


 すかさずソーントーンは副長の横に飛び、ディーグアントの前脚と頭を切り飛ばして副長を救出する。


 だが、副長の傷は一目で致命傷と分かる傷であった。口から血を吐き苦しそうに呻いている。


 すると副長はおもむろに自らの懐から何か棒のような物を取り出した。


 それを見たシャーダルクは顔色を赤から青に変える。


「そ、それは!? まさか貴様! 暗部の!?」


 焦点を失った目で副長は棒の先端についた出っ張りを押し込む。


「飛べぇ!! ソーントーン!!」


 シャーダルクの絶叫と同時に、周囲は白い光に包まれるのだった。

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