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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
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123 化学プラント26

 ―― 二年前 二の村某所 ――


「ディーグアントをコントロールできるかもしれません」


 ヒューストームは杯を傾けながらグレアムに続きを促す。


 蟻などの昆虫は、フェロモンと呼ばれる化学物質でその行動を促進、もしくは抑制するのだという。


 例えば、集合フェロモンは文字通り仲間の集合を促すし、道標フェロモンはそのフェロモンをつけた道筋を他の個体に辿らせる。


 他にも多種多様な化学物質で昆虫はお互いに情報交換を行っているのだという。


「だが、ディーグアントは蟻に似た魔物であって昆虫ではなかろう」


「ディーグアントは酒に酔いました。化学物質がディーグアントに影響を与えるのは間違いありません。もしかするとディーグアントは魔物と蟻、両方の性質を併せ持った存在なのかもしれません。そう考えれば、ディーグアントが他の魔物を襲う理由に説明がつきます」


 魔物は魔物を襲わない。これは一般的に知られた事実である。


 だが、ディーグアントは例外である。ディーグアントは魔物を見つければ襲って餌とする。その性質を利用して、魔物を駆除しようと王国が計画したわけであるが、その試みは完璧といっていいほど成功している。


「巣を守り、種を増やすという蟻の本能が、そうさせるのではないかと」


「ふむ。まぁ、それはよかろう。それで、どのようにしてディーグアントを操る?」


「まずはディーグアントのフェロモンを特定します」


「そんなことができるのか?」


「フォレストスライムの分離・抽出能力があれば可能です。そうやって抽出した化学物質を彼らを使って合成します」


 そう言ってグレアムが取り出したのは毒スライムである。


 毒スライムには化学物質を合成する能力があるのだという。


 その力はアルコール生成という形でヒューストームも味わった。否、味はほとんどしなかった。


 毒スライムが作ったアルコールは味がなく、到底、酒と呼べるものではなかったが、アルコールであることには間違いなかった。


 ロックスライムの擬態、タウンスライムの空間隠れのように、毒スライムは生存戦略の一環として、体内に毒を生成することを選んだ。


 否、毒を生成できるからその戦略を選んだのかもしれない。


 いずれにしろ、フォレストスライムと毒スライムがいれば現代地球に匹敵するほどの化学物質を生成することができる。


 まさにスライムは生きた化学プラントであった。


 それからグレアムの昼夜を問わない実験が始まった。


 まず、ヒューストームに例として出した集合フェロモンと道標フェロモン、そして攻撃フェロモンの存在が確認できた。


 ディーグアントの体表から分離・抽出した化学物質を毒スライムが合成し、それを種類ごとに地面に撒いた。


 これらフェロモンの分離・抽出は容易だった。カダルア草を摂食した際に発する匂い。おそらく、集合、誘導、攻撃の各フェロモンに近い成分なのだろうとグレアムは推察したのだ。


 そうして、地面に撒かれた化学物質はディーグアントを集め、ディーグアントを誘導し、ただの岩と木に攻撃を始めた。


 さらにグレアムは、ディーグアントの脳内で発現しているタンパク質が、ディーグアントにどのような影響を及ぼすかの実験も始めた。


 一部の寄生虫は宿主の行動を操る種がいる。ハリガネムシは寄生したカマドウマに自身の産卵場である水に飛び込ませる。吸虫の一種は寄生した蟻に最終宿主である草食動物に食べられるような行動を促す。


 ディーグアントの行動を規定するタンパク質が特定できれば、さらにディーグアントを直接的に操ることができるのではないかと考えたのだ。


 まず、グレアムは竜吠草からディーグアントを麻痺させる成分を抽出し、麻酔としてディーグアントに使用する。


 ディーグアントの頭部に孔を開けて、そこに毒スライムを入れた。直接、タンパク質を投与しどのような行動をディーグアントがするか観察するためである。


「マッドサイエンティストじゃな」


「人聞きの悪いことを言わないでください、師匠。というか、この世界にも科学者という言葉があるんですね」


「科学者という言葉が何を意味するか想像できるが一般的ではないな。主に錬金術師の意味合いで使われる。永遠の命を求める狂った連中で、こういう頭をほじくり返すことをやるのも奴らじゃよ」


「であるなら、俺のいた世界と変わりませんね。錬金術師は科学者の祖先ですよ」


 万有引力を発見したニュートンが錬金術師であったというのは有名な話である。


「永遠の命はいりませんが、俺は金を生み出せますし、錬金術師を名乗っても悪くないかもしれませんね」


「何を言うか。お前はワシの弟子。つまりは魔術師じゃろうが」


「最初はあんなに弟子にするのを渋っていたのにですか?」


「ふん。大魔術師たるこのワシの弟子になると言うのだ。簡単にさせてしまっては沽券に関わる」


「そんな理由で俺はあんなに苦労したんですか」


「じゃが、そのおかげで脱出のヒントが見つかったのじゃろう? 世に無駄なことは一つもない。何かしら意味があるのじゃよ」


 そう言って、大賢者は美味しそうに杯を煽った。

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