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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
136/442

119 化学プラント23

(まぁ、そうだろうな)


 ブロランカの領民を犠牲にしかねない脱出計画をヒューストームが反対するのは想定の範囲内であった。


 実はヒューストームに話す前にオーソンにも意見を聞いてみたのだ。


 オーソンもこの計画に良い顔をしなかった。そして、ヒューストームもきっと反対するだろうと。


「俺が起こさなくても、遅かれ早かれ"氾濫"は起きますよ。俺がやろうとしていることは発生時期を調節して、脱出に利用しようとしているだけです。"氾濫"が起きて領民が犠牲になったとしても俺たちに責任はありません。責任があるのは、この島にディーグアントを持ち込んだ王国であり、ソーントーンです」


「理屈はそうかもしれん。だが、だからといって、無辜の民を犠牲にしてはいかん。どんな崇高な理念も、まばゆい正義も、それをした時点で汚泥に塗れる。それは、畜生の道じゃ。そこに一歩でも踏み込めば、もう引き返せぬ」


 ヒューストームの言っていることは感情論に過ぎないと思った。具体的なことは何一つ言っていない。すべて抽象的だ。


「俺は正義や理念で行動したことはありません。ただ俺がこうしたいと思う欲に則って行動するだけです。今も昔も。それに師匠は彼らを無辜の民と言いますが、本当にそうでしょうか? 彼らが知らないはずはない。俺たちの犠牲があって、今の彼らの安寧があることを。もちろん、封建制度の社会で彼ら領民の権利など、あってないに等しいことは理解しているつもりです。それでも、今日までの平和の代償を俺たちに払ってもらってもおかしくはありません」


 グレアムの言葉にヒューストームは首を振る。そして、諭すように言った。


「グレアムよ。お主には力がある。力ある者は力なき者に慈悲を示さねばならん。そして、その力の一端を授けたのはワシじゃ。ワシを師として敬うならば、そのような器の小さいことを言うな」


 力があるのはスライム達であって、自分ではない。スライム達の力を借りているだけである。もし、スライム達がグレアムに力を貸すのを止めれば、たちまち魔術も使えない無力な奴隷の子供に逆戻りである。


 そんな自分に力があると言われても到底、納得がいくものではない。だが、師弟の関係を持ち出されれば無視するわけにもいかない。


「……分かりました。では、こういうのはどうでしょう」


 反対されることを想定した時点でグレアムは折衷案を考えていた。


 当初のグレアムの計画では脱出を来年の春としていた。それを夏に伸ばす。夏は麦の収穫時期である。雑食性のディーグアントが餌を求めて地上に出れば、目の前の麦を優先するだろう。


 希望的観測ではある。だが、カダルア草の匂いに惹きつけられでもしない限り、極力、地上にいる時間は少なくなるようにディーグアントは動く。


「"氾濫"が起きる直前に俺が操るディーグアントを徘徊させます。それで、ソーントーンが領民を安全地帯に退避させるかは賭けになりますが、彼の人となりを聞く限りでは問題ないでしょう」


「うむ。領民思いの奴のことだ。危険が無いと分かるまで、安全な街や村で領民を匿うじゃろう。だが……」


 それでも完全に犠牲をゼロにはできないだろう。畑の様子を見に、防壁で囲まれた村の外に出る者もいるかもしれない。


 そして、何より一の村の奴隷である。


 彼らはグレアム達のように、その体内からカダルア草の薬効を消していない。今もディーグアントを惹きつける匂いを体から発しているのである。


 "氾濫"が起これば大量のディーグアントに襲われ、まず彼らは助からない。


「彼らの救出をB計画として立てます。ですが、妥協できるのはここまでです。その実施の判断は俺に委ねてもらいます。救出計画はどう考えてもリスクを伴う」


 三の村で戦闘訓練を行なっているが、それはあくまでも万が一に備えての話である。リスクを避けられるなら、避けるべきである。


「二の村住民の雇用主として、彼らの命に俺に責任がある」


 ◇


 結局、グレアムは迷った挙句、救出計画を断念する。


 だが、一の村救出を条件に取り付けたティーセの協力により、実現不可能と思われたC計画の実現に目処が立った。


 C計画の目的は、詰まるところグレアムの願望の実現である。そこに正義や理念はない。最悪、二の村住民の命を危険に晒すことになるかもしれない。


 結局、グレアムの優先順位は、

 領民の命<一の村住民の命<二の村住民の命<自分の願望

 なのである。


 己の業の深さにグレアムは一人笑うのだった。

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