118 化学プラント22
音を思念波にすることは、既にスライムマイクとして盗聴に使用しているので難しくない。難しいのは逆に思念波を音にすることだった。
グレアムは前世の知識からスピーカーの仕組みが、電気信号を振動に変換して音にすることと知っていた。
グレアムからの思念波を受けて震わせる振動板は、ロックスライムの体の一部を自由に変化させることができる能力で代替できたが、音をうまく発することができるよう調整するのに時間がかかった。
「メンバー同士の通信はできませんが、これで、その場に俺がいなくても状況を把握し的確な指示を出すことができます」
「うむ。メンバーが孤立することは避けたいが、状況がそれを許さんということはよくあることじゃ。備えあって憂うことはない」
「はい。………」
「どうした?」
突然のグレアムの沈黙。
「いえ、今回はもう一つ。脱出計画の具体的な方法が纏まったので、お伝えしようかと」
「ほう。それは朗報。是非、聞かせてもらおう」
だが、ヒューストームはグレアムの作戦内容を聞くにつれ、眉をひそませていく。
それもそのはず。グレアムの作戦内容は要はディーグアントの"氾濫"を意図的に起こし、そのドサクサに紛れて逃げるというものであったからだ。
最近、オーソンがディーグアントの間引きのため巣穴に入るようになった。それにグレアムは同行し、ディーグアントの生態調査を進めた。
同時にペル=エーリンクからもディーグアントに関する情報が手に入った。ダメ元で頼んだことであったが、思いの外、有力な情報であった。
なんでも、王都の商業ギルド長が秘密裏に情報収集を行っていたのだとか。ブロランカ島で行われていることは国家事業である。有力商人であれば、情報収集を怠ることはないというのがペル=エーリンクの言だった。ただし、結構な情報料を請求されたらしいが。
ともかく、そうして集めた情報からディーグアントの主食は、自ら栽培したキノコの一種であることを突き止めた。
北部の森が人の手が入っていないにも関わらず、妙に綺麗だったのはディーグアントがキノコの培養のために倒木や枝葉を巣に持ち帰っていたためなのだろう。
グレアムはこれに目をつけた。
まず、ディーグアントを島の南部に巣を移すように誘導する。オーソンの脅威と毒スライムの能力を使えば充分可能なプランである。
島の南部には森や林はほぼない。ほとんど耕作可能な農地にしてしまっている。島の領民が木材を必要とする場合は、北部の森の外縁部から採取するか、高くつくが島の外から輸入しているという。
ディーグアントが巣穴の外に出る目的は、キノコの培養に必要な枝葉を採取するためである。魔物や人間を襲うのはそのついでに過ぎない。
元々のディーグアントの生息地は最強種ドラゴンが跋扈する竜大陸である。
そこでドラゴンの脅威にさらされ続けたディーグアントは種を守るためにそのような性質を獲得したのだろう。
だが、狭い島の中で巣を作ってもいずれ限界はくる。キノコの供給が需要に追いつかなければ、ディーグアントはその代わりを求める。
その時に巣が島の南部にあれば、ディーグアントの獲物になるのは島の領民達である。
「却下じゃ」