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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
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117 化学プラント21

 ペル=エーリンクから購入した資材と道具で三の"村"の建設は順調に進んだ。


 便宜上、村と呼んでいるが宿泊施設はない。ブロランカ島北部の森の夜はディーグアントが巣から出てくる上に、発生した瘴気から魔物が自然発生(ポップ)する。安全を考慮して夜になる前に全員二の村に引き上げる。


 三の村にあるのは射撃場と訓練場と作業場である。


 射撃場では魔銃の取り扱いを学び、訓練場では魔銃に銃剣をつけての白兵戦の練習である。


 作業場では鍛治を行う。ドッガーが元彫金細工師という経歴から魔銃のトリガーと照準器を改良してくれた。


 後に調理場も作成され、グレアムが前世の知識から得た料理で、二の村住民は舌鼓を打つようになる。


「師匠。酒のつまみになるものを作って持ってきました」


 ある程度、三の村も形になってきた頃、グレアムは二の村で一人留守番をしているヒューストームに差し入れを持ってきた。


「うむ。ご苦労さん。他の者たちはまだ三の村か?」


「ええ。オーソンに任せてきました。適当なところで切り上げるように伝えています。師匠の方に何か問題は?」


「特に何もありゃせん。砦の連中も大人しいもんじゃ。ワシらが脱走のために準備しておるなど夢にも思っとらんのじゃろ」


 ヒューストームはオイルで海産物を煮込んだアヒージョもどきを口に含む。


 辛く味付けしているので酒にも合うはずだ。だが、珍しいことにヒューストームは酒を口にしていない。


「ちょいと、やる事があってな。その際は酒を控えておる」


「やる事?」


「まぁ、それはおいおいな。それよりも、ワシへの差し入れにお前さん自身が来るとは、何かあったのかいの?」


「はい。まずはこちらを」


 グレアムが取り出したのは、手の平サイズのL字型の棒である。一方の先端にはフックが付いている。


「イヤフォンマイクです。フックの部分を耳に掛けて、もう一方の棒が口の前にくるようにつけてください」


 ヒューストームが言われた通りにイヤフォンマイクをつけたことを確認すると、グレアムは思念波を飛ばした。


(聞こえますか?)


「うぉう!? 耳元から急に声が!?」


 ヒューストームはイヤフォンマイクを外すと、それをマジマジも見つめた。


「……まさか、これはスライムか?」


「ご明察です。ロックスライムの擬態能力を使ってそのような形になってもらっています。今のは俺からの思念波を音に変換したんです」


 グレアムがブロランカに来るまでの旅で拾ったロックスライムの見た目は、どこにでもあるかのような石である。


 実はこれは外敵の目を欺くための擬態である。本当の姿はもっと別の姿をしている。


 ロックスライム以外のスライムも、ある程度、形を変えることはできるが、ロックスライムは色と固さと手触り、ある程度の大きさまで変えることができる。


 例えば、鍵穴に擬態前のロックスライムを潜りこませ、鍵穴の形状に沿って鍵に擬態させれば、扉なんて開けることができる。


 このロックスライムの能力で服の一部に擬態させて、二の村住民に付けている。彼らの位置が正確に把握できた理由である。


 ロックスライムは擬態して外敵をやり過ごすという生存戦略を取るためか、ストレス耐性が高い。敵が近づいても動かず、敵が去るまで擬態を保持する。故に、二の村に来た当初からロックスライムを二の村住民に付けることが可能だった。


 だが、いくらストレス耐性が高いと言っても、やはり臆病なスライムであることには変わりない。なので、二の村住民に慣れさせることにしたのが、先の課題である。


 その際、ロックスライムにはフォレストスライムかタウンスライムに擬態するように命じているので、ロックスライムの存在はまだ彼らは知らない。


 タウンスライムの亜空間収納能力を見せただけで、妙な動きをするメンバーが現れた。


 何人かは既に気付いているようだが、ロックスライムの能力についての公開は慎重を期したいのがグレアムの思いだった。


「ふむ。ということは、逆にこの口元の棒で発した声を思念波に変換するというわけじゃな」


「はい。これでメンバーと通信します。万が一、脱出時にはぐれたメンバーがいても、その場で指示ができます」


「…………これは、もしかしなくても、すごくないか?」


 グレアムはヒューストームの知見に舌を巻いた。簡単な説明を聞いただけで、このイヤフォンマイクの有用性に気付いたのだ。


 戦場における指揮の方法は大声で叫ぶか、旗のようなものを振るか、ラッパや太鼓で音を出すしかない。それができなければ、その場の最高責任者の指示で動くしかない。


 この世界にも通信機器のような魔道具は存在したが、貴重品で戦場で運用されることはまずない。


 イヤフォンマイクの存在は現場の状況を指揮官に正確に伝え、詳細な指示を与えることを可能にする。それは戦場において、大きなアドバンテージとなる。イヤフォンマイクは代替手段のある魔銃よりも有用な存在だった。

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