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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
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112 ペル=エーリンク1

 貧乏くじを引かされたとペル=エーリンクは思った。


 ペル=エーリンクは行商から苦労の末、自分の店を持ったばかりの商会長である。


 そんな自分に王都の商業ギルド経由で一つの仕事が舞い込んだ。


 とある島の防衛を担う傭兵団に、食料と武器と娯楽を提供するというもの――要するに酒保商人である。


 しがらみによる断りにくい形で自分に話が来るということは()()()のない、もしくは極端に少ない仕事なのだろう。


 うまみがあれば酒保商人など自然発生的に生まれる。


 そうして嫌な予感を抱いて島に来てみれば案の定である。


 主客の傭兵団には毎月、伯爵から一定の額の報酬と一定の人数の奴隷が貸し出される。


 ()()()()()使()()()島を魔物の脅威から守るのが主任務だ。


 倒した魔物の素材は伯爵と傭兵団で折半と聞く。


 これでは酒保商人が提供する種々の商品を購入するための傭兵達の懐事情は、()()が知れている。


 商会の更なる発展を願うペル=エーリンクにとって彼等はお世辞にも上客とは言えなかった。


 幸い傭兵団は積極的に団員を増やしているので利益は毎年上がっているが、荒くれの傭兵が相手である。気苦労も多い。


 だが、それ以上にペル=エーリンクの心を痛めるのは奴隷の存在である。


 ペル=エーリンクは奴隷商という仕事を蔑んでいるわけではない。それはそれで必要なことと理解はしている。


 だが、この島での奴隷の使われ方は――。


 ペル=エーリンクは経済的な理由と心情的な理由から何度も王都の商業ギルド長宛に島からの撤退を願い出ている。だが、いづれも却下された。


 そうしてブロランカで六年目を過ごし始めたある夜のことである。


 その日は二の砦に食料と娼婦を運び、そのまま部屋を借りて泊まった。翌朝、娼婦達と南部の港街に戻る予定である。


 何度となく繰り返したルーティンワーク。何も起こらない夜。そのはずであった。


 トントン。


 誰かが眠っているペル=エーリンクの肩を叩く。


(何だ? 朝か? ……疲れが全然取れていないんだが)


 起きないペル=エーリンクが今度は揺さぶられる。


「うっ、わかった。今、起きるから――」


 言葉の途中でペル=エーリンクは飛び起きた。見知らぬ場所で見知らぬ男達に囲まれていたからだ。


「こ、ここは?」


「二の村へようこそ」


 まだ、少年ともいえる男がそう声を掛けてくる。


「に、二の村?」


「まずは謝罪しましょう。あなたの承諾なくこの村に来てもらったことについて」


 そう言って少年は頭を下げる。少し信じがたいことだが、この少年が彼らのリーダーのようである。


「……謝罪は受け入れましょう。それで何の御用でしょう?」


「私たちはあなたと取り引きがしたい」


「取り引き?」


「ええ、いくつかの品が不足してましてね。それをあなたに用立てていただきたい」


「……極秘に、ということなのでしょうね」


「話が早くて助かります」


 そう言うと少年は一枚の布切れを渡してくる。そこには少年が必要と思われる物の一覧が記載されていた。


「……残念ですが私ではお役に立てそうにありません」


「理由をお聞きしても?」


 ペル=エーリンクは唾を飲みこんだ。これを言えば周りの男達が激昂して襲いかかってくる可能性があったからだ。だが、自分も小さいとはいえ一商会の主である。引けないところは引けなかった。


「……当商会では初めてのお客様には()()や出世払いでの取り引きは行っておりません」


 それを聞いた少年は意外そうな顔をする。周りの男達も特に気にした風もなく、面白そうに少年と自分のやり取りを眺めているだけだった。


「何か?」


「いえ、こう言っては失礼ですが、意外と正直な方でしたので。もっと差し障りない理由で断られると思っていましたもので」


 ペル=エーリンクの言は、要するに金も信用もない相手とは商売しないと宣言しているに等しい。


「取引相手には誠実であれというのが私のモットーですので。商人仲間からはバカにされることもありますが」


 見せかけは誠実に、隙あれば足元をすくえ、が商人の鉄則である。客向けのお題目を馬鹿正直に守るなど愚か者のすることであると。


「素晴らしい。バカにするなど、とんでもない。信用は金では買えません。誠実こそ信用を得る最適な手段だと思います」


 ペル=エーリンクは自分のモットーを全面的に支持するこの少年に好意を抱く。だが、だからといって、商売をするかは別問題である。


「確認ですが、伯爵や傭兵団とは専属契約を結んでいるわけではないのですよね?」


「ええ、特に制限を受けているわけではありません」


「なら、良かった。あなたに取引相手が増えることに何の問題はないわけですね」


「確かにそうですが――」


「ええ、わかっています。私たちに信用がないということは。ですから、今は私たちではなく、()()を信用していただけませんか」


 少年に目で合図された一人の男がペル=エーリンクに掌に収まる程の革袋を手渡す。


「? ――!?」


 袋を開くと砂金がぎっしりと詰まっていた。


「それは本日の足代としてお受け取りください。こちらが所望する品を用意していただければあなたの言い値で買い取りましょう。何でしたら()()でお支払いしてもいい」


 少年が手を上げると、別の少年少女達が手に盆を持ってやってくる。盆には銀の粒が多量に乗せられて――。


 いや、銀ではない。銀にしては白が強い。そして、粒から光が発しているように見える。


「ま、まさか、ミスリル!?」


 ペル=エーリンクは思わず少女が持つ盆の前に駆け寄り、銀粒をつぶさに観察する。


「さ、触っても?」


「ええ、どうぞ」


 手の平に乗せる。薄暗いランプの光に照らされてなお、青白く輝くそれはどう見てもミスリルに他ならない。


 それが盆に山盛り。この量なら王都に豪邸が建つ値段で取り引きされる。しかも、盆を持つ少年は他にも、一人、二人、三人……。


 ダメだ。頭が追いつかない。


 帝国の豪商でもこれだけの量のミスリルを一度に用意するのは不可能だ。


「今日のところは、お帰りください。返事は次回にお聞きします」


 混乱するペル=エーリンクに急激に睡魔が襲う。抗うことも出来ず、ペル=エーリンクの意識は闇に落ちた。

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