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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
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98 化学プラント4

「ミリーを説得してくれたそうじゃな」


 ヒューストームに呼ばれたグレアムはそう切り出された。


「礼を言う。兄のアロルドが死んでから、思い詰めたような表情をしておったあの子の表情が幾ばくか柔らかくなった」


「それでしたら良かったです。子供は笑っている方がいい」


 子供姿のグレアムがそんなことを言うのが可笑しかったのか、ヒューストームの顔が綻ぶ。


「ふふ。この村に連れて来られる子供は何がしらのワケありなんじゃ。中でもお前さんは飛び切りのようじゃな」


「ただの犯罪奴隷ですよ、俺は。人殺しのくせに重労働に使えないからこの村に送られてきただけです」


 この村に住む奴隷はディーグアントを引きつける餌である。ディーグアントは長年、ブロランカ島の住民を苦しめてきた北部の森の魔物を一掃した。一方で、ディーグアントによる被害は生贄奴隷を使って最小限に留める。


「まるでトロッコ問題だ」


 この村の役割を聞いた時のグレアムの感想である。制御を失ったトロッコが猛スピードで線路で作業中の五人に向かっている。だが、目の前にはレバーがあり、それを引けば線路の軌道が変わり五人は助かるが、代わりに変更先の人間一人が犠牲になる。


 いわば王国はレバーを切り替える選択をし、最小の犠牲で最大多数の幸福を得ることにしたわけだ。


「"功利主義"というやつじゃな。まったく、お前さんは色々、面白いことを考えつく」


「俺が考えたんじゃありません。前世の知識です」


 グレアムは自身が転生者で、この世界とは別の世界の知識を持っていることをヒューストームに打ち明けていた。


 グレアムは自分のような存在の前例があるか知りたかったのだ。そして、彼等はどのように扱われたのか。


 その知識をあてに厚遇されるならまだいい。邪神の使いとして火あぶりにでもされたら、たまったものではない。


 ヒューストームは理知的な男で、最悪でもいきなり火あぶりは無いと判断したから打ち明けることにした。


「前世。転生。別世界。概念自体この世界にも無いことは無いが、魔術もスキルもなく、科学が高度に発展した世界など聞いたこともない。その世界からの転生者など、言わずもがなじゃな」


「そうですか」


「うむ。世界は我々、人間が住まう人界と大地母神とその眷属が住まう天界、そして心なき神が封じられし地獄しかないと言われておる。宗教上ではな」


「宗教上? 学術上の解釈は違うんですか?」


「というかそんなもん大真面目に研究する者などおらんよ。実証不可能なのじゃからな」


 それもそうかとグレアムは思う。スキルや魔術、魔物の存在などは、神の実在を証明しているように見えなくもないが、この世界では当たり前に存在するそれらは物理現象となんら変わりない。


 重力があるからと神の存在を大真面目で議論する物理学者がいれば、田中二郎はその物理学者の正気を疑ったことだろう。


「じゃから、お前さんが転生者であることは公にせんほうが良い。神殿はともかく、聖教会ならば地獄からの使者として火あぶりにされる可能性はある」


 転生者であることは生涯隠そうと誓った瞬間であった。

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