表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
113/443

96 化学プラント2

 グレアムが上手く伝えることさえできれば、フォレストスライムは気体や液体から特定の化学物質を分離することができる。


 この夢のような特殊な能力は、グレアムがブロランカ島に来るまでほぼ生かされることは無かった。


 まず最初に始めたのは、生贄奴隷達の血中にあるカダルア草成分の抽出である。


 これは島に来たばかりのグレアムの血と比較することで分離抽出することができた。


 後はカダルア草成分をヒューストームが分析魔術で解析し、治癒魔術の<毒消し>の魔術式にその内容を書き込んでいく。


「これが魔術式ですか? 師匠」


 空中に浮かんだ青白い半透明のディスプレイ。そこに複雑で幾何学模様のような文字が表示されている。


「誰が師匠じゃ。ワシはおまえを弟子にすると決めたわけではないぞ」


「まあ、それはおいおい。それにしても、魔術というのは随分とロジックなものなんですね。正直、頭の中で思ったものが発動するようなフワッとした印象を持っていました」


 前世の学生時代、中村にほぼ無理矢理入部させられた"異世界転移部(という名の同好会)"。そこで読んだ本には「魔術の発動はイメージがすべて」というようなことが書いてあった。


「なんじゃそれは? それでは神話にある"魔法"ではないか。イメージだけで発動できるなど、そんな都合の良いこと、できるのは神か、その眷属だけじゃよ」


 だが、グレアムは"魔法"のような、その都合の良いものを知っている。


「スキルとは一体、何でしょう? イメージだけで発動できるスキルはまるで"魔法"のようじゃないですか」


「ふぅむ。なかなか良い所に気づく。

 かつて、心無き神が狂い暴走して数多の魔物を生み出し、力無き人間達が多く犠牲になった。それを哀れに思った大地母神と天龍皇が人々に授けてくれたのがスキルと言われておる。故にスキルは"魔法"に近いものと言って良いのかもしれ――」


 ヒューストームは途中で言葉を止め、バツが悪そうに頭を掻いた。


「なかなかの聞き上手じゃな。その気もないのに語ってしまったわい」


 それからヒューストームは<毒消し・改>作成の作業に専念し、一言も言葉を発することはなかった。


 ただ、ヒューストームはグレアムを追い払うようなことはしなかった。魔術式は機密情報の塊である。であるのに、その改変作業を見せるのは、グレアムにカダルア草の件で借りを返すつもりなのかもしれなかった。


 グレアムはその作業を傍らで黙って観察している。やがて、ヒューストームの作業が一段落した後、老賢者はポツリと言葉を零した。


「聖国のカンジャか?」


「……え?」


「……」


(カンジャ? 間者? ……スパイとか諜報員のことだよな? 俺、疑われてるのか?)


「違います」


「……」


「いや、本当ですって。どこの国のスパイでもありません。ムルマンスクっていう地方都市の孤児院出身です」


「……まあ、よい。だが、ワシをこの島から連れ出そうとしておるなら諦めてくれ。ここには守るべき仲間達がおる。彼等を残して去るわけには、いかんのじゃ」


「殊勝な心がけと思います。ですが、師匠を連れ出す気も手段も今のところ持ち合わせていません」


「……本当に?」


「本当です」


 グレアムが断言するとヒューストームは目に見えて落ち込んだ。


「ワシ、魔術界隈ではそこそこ名の知れた魔術師と思ってあったけど、実は大したことなかったのかのぅ」


「お、王国が情報統制しているのかもしれません。師匠を迎い入れたい国は沢山あるけれど、どこにいるのか分からないだけかもしれませんよ」


 落ち込むヒューストームを見かねて当てずっぽうで、そんなことを言ったグレアムだが、実は当たっている。


 ヒューストームの居場所は王国の極秘事項とされ、ブロランカ島も王国の暗部組織により常に監視され、他国の間者は近づくこともできなかったのだ。


「そ、それよりも、どうして俺が聖国のスパイだと?」


「ん? そりゃお前、オーソンの手脚を直したじゃろう」


「前に説明したように、俺はスライム達のおかげで大規模に魔力が使えます。だから、通常では、ありえない速度で<再生>させることは可能なんです」


「その<再生>が問題なんじゃ。治癒魔術で最高位の魔術。おいそれと簡単に身につけられるものではないんじゃよ」


「孤児院の本にあった魔術陣をスライムに転写しただけですが……」


「それよ。<再生>の魔術式は聖国の聖教会が独占しておる。普及を目的とした魔術陣などもってのほか。王国の一地方都市の孤児院に<再生>の魔術陣があるなど、考えられんのじゃよ」


 そう言われてもグレアムには、トレバーが運営していた孤児院に<再生>の魔術陣がある理由など思いつかない。


 何の変哲も無い孤児院だったと思うが……。


 いずれにしろグレアムは自分が疑われていることは分かった。今の状況ではヒューストームに弟子入りなど不可能だろう。


 ここはオーソンのアドバイスに従い、酒の完成を急ぐことをグレアムは決めた。


 ちなみに<毒消し・改>は無事に完成し、二の村の住民はカダルア草の薬効で常にディーグアントを引きつける恐怖から解放される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ