89 反乱16
ジャックスはタウンスライムの亜空間から出てきたロックスライムを慎重な手つきで拾い上げる。
スライムを粗末に扱うとグレアムが怒るのだ。グレアムはジャックスの雇用主である。雇用主を怒らせて良いことなど一つもない。
見た目、石にしか見えないロックスライムは狼獣人の少女ミストリアに頼んで地下牢に置いてもらったものだ。置いた場所に穴を開けて救出部隊が侵入する手筈となっていたが彼女はうまくやってくれたようだ。
用意した梯子を登って周囲を見渡せば、檻に入れられた獣人の子供が不安そうにジャックスを見ている。
「あー、ミストリアの姉さんから聞いていないか? お前達を助けにきた」
ジャックスがそう言うと、若干、子供達の表情が和らいだ。
ジャックスは地下牢に上がってきた仲間達とともに魔銃の<炎弾>で牢の鍵を焼き切っていく。
「ジャックス! 誰か来る!」
警戒に当たらせていた仲間から警告が飛ぶ。
ジャックスは即座に作業の中止を命じた。
「気のせいじゃないのか?」
「いや、確かに下から音がしたんだよ」
そう話し合いながら傭兵が二人、地上に繋がる階段から降りてくる。
「うぉーい、ガキども、静かにしてるか?
って、なんじゃこりゃ!?」
傭兵達は地下牢の床に開けられた大穴を見て、驚愕の声を上げる。
「陥没か――」
穴に近づいて底を覗き込んだ傭兵の頭が吹き飛ぶ。
「どうし――、ぐふっ!?」
ジャックスの小剣がもう一人の傭兵の背中を抉った。
さらに、何かを叫ぼうとした傭兵の口をドッガーが塞ぎ、喉を切り裂いた。
目から光を失った傭兵をそっと床に置き、ジャックスは隠れていた仲間達に作業の再開を命じる。
檻から出された獣人の子供達は次々と、ジャックスたちが開けた穴に降りていった。
事前に入手した情報では人質の数は二十七人。この分なら全員を救出して、指定の場所に行くまで四半刻もかからないだろう。
そう思っていたジャックスにドッガーが一人の猫獣人の子供を連れてくる。
「ジャックス、不味いぞ。先程、この子の姉さんが上に連れて行かれたそうだ」
「くそったれ! 居残り組でいい思いしようってか!」
「お、お姉ちゃん、ヒドイことされるの?」
猫獣人の子供が怯えた声で聞いてくる。
「安心せい、坊主。お前の姉さんもワシらが助けてやる。だから、安心して先に行っとれ」
そう言って猫獣人の子供を連れて行こうとするドッガーをジャックスは止めた。
「待て」
ジャックスは腰から小剣を抜く。
「お前、姉ちゃんの居場所がわかるか?」
「おい、ジャックス!」
ジャックスの意図に気づいたドッガーが非難の声を上げる。猫獣人の子供に姉のもとまで案内させるつもりだ。
「俺達だけじゃ砦のどこに連れて行かれたかわからない。だが、嗅覚と聴覚に優れた獣人ならわかるはずだ。ましてや自分の姉さんなんだからな」
「し、しかし……」
「坊主が危険なのは承知している。だがな、俺達にも時間がない。どうだ、坊主。いつまでも、姉ちゃんに守られてばかりじゃ男じゃないぜ。今度はお前をが姉ちゃんを守る番だ」
猫獣人の子供の両肩に手を置き、目線を合わせてジャックスは言う。
そんなジャックスに、猫獣人の子供は不安そうに、だがはっきりと頷いた。
「う、うん! 僕がお姉ちゃんを助ける!」
「いい返事だ」
ジャックスはニッカリと笑った。