87 救出計画
――― 半年前 二の村―――
「では、一の砦の構造は、二の砦と同じかもしれないというのだな」
グレアムは建築技師だったという老人に確認する。
「ああ。というか、わざわざ別にする理由がない。そりゃ、多少の違いはあるだろうが、大まかな構造は同じはずだ。それこそ、地下牢なんてもんはな」
建設時期も同じ、用途も同じ、オーナーも同じであれば、建設コストから見ても、二つの砦の造りは同じはずだという老人の意見は、グレアムも納得がいくものだった。
「だが、確証は欲しいのぅ。やはり、ミストリアにも協力してもらっては?」
ミストリアは一の村のリーダーを務める狼獣人の少女だ。ヒューストームは彼女も計画に組みこもうと提案してくる。
「……いえ、やめておきましょう。救出計画はまだ検討段階です。実施すると決めたわけではありません」
あなた方を助けます。そう言っておいて、後からこちらの都合で止めますなどできるはずがない。希望を与えておいて、それを取り上げるなど――
「グレアムさん?」
ミリーの呼びかけで、昏い情念に飲み込まれかけたグレアムの心は現実に戻る。
「……当初の予定通り、一の村の住民にも秘密で地下牢があると想定される場所までトンネルを掘ります。ミストリアに協力を求めるのは、救出計画の実施が確定した後です。地下牢の場所が想定と異なっていても、ディーグアントの掘削能力なら二、三日もあれば修正可能です」
グレアムはそう結論を下す。
「肝心の地下牢の場所はどうやって特定する?」
「それならわかるぜ」
オーソンの質問に、ジャックスが答える。グレアムが二の村に来る前は、何度も脱走を試み、その度に捕まって地下牢に入れられた経験がある。
テーブルの上に広げられた羊皮紙。そこに描かれた砦の構造の一部をジャックスは指差し地下牢の位置を伝えた。
「だがよ、地下牢の場所がわかっても、どうやってその下までトンネルを掘るんだ? 地上に出て場所を確認、なんてできないだろう?」
そんなことをすれば一発でエイグにトンネルを掘っていることがバレてしまう。ジャックスの至極まっとうな疑問にグレアムが答えた。
「それなら考えている。スライム達は離れていても二キロメイル以内なら、思念波でコミニュケーションが取れることは以前に説明した通りだ。
実はこの時、スライム達は思念波をやり取りした相手の位置を正確に把握できるんだ。トンネル掘りにはこの性質を利用する」
まず、グレアムが使役するスライムを砦に忍びこませ、数メイル間隔で配置する。碁盤の目のように配置した地上のスライムとコミニュケーションを取り合い、トンネルを掘るスライムの位置を常に正確に把握するというのがグレアムの考えだった。
「スライムの思念波は地面の下でも二キロメイル以内なら届くことは確認済みだ。他に質問は?」
グレアムが面々を見回す。
「無いなら今夜のミーティングは終了だ。ただし、ドッガーは残ってくれ。作ってもらいたいモノがある。その相談だ」
「お、新しい武器か?」
ドッガーが目を輝かせた。彫金細工師としてモノを作るのが楽しいのだろう。それを若干、羨ましく思いつつグレアムは答えた。
「武器とも言えるが、少し違うかな? 作って欲しいのはダイナマイト・プランジャーだ」