83 反乱13
シュォォン!
ソーントーンの『転移』が三人の体を二の砦に運んだ。
ソーントーンとグレアム、そしてジュリアだ。
ソーントーンはジュリアに屋敷に戻るように命じたが、グレアムと共に砦に飛ぶことを伝えると自分も連れて行くように懇願してきたのだ。
「この男は危険です。どうか私も連れて行ってください」
ジュリアはソーントーン家三代の家令を務めてきた男の孫娘である。若いが有能で、グスタブ=ソーントーン自身も彼女によって何度を助けられてきた。内心では年の離れた妹のようにも感じている。
できれば危険な場所に連れて行きたくなかったが、家令という仕事に強い誇りと尊厳を持つ彼女は、自分が年若い女であるという理由で同行を許されなかったと知れば傷つくであろう。
(まぁよい。いざとなれば自分が守ればいいのだ)
ソフィアの時とは異なるのだ。ソーントーンは、そう自分に言い聞かせ、ジュリアの同行を許した。
転移した場所は暗く埃っぽい。ろくに掃除もされていないことが見て取れる。
部屋を出ると、すぐに物が焼ける匂いが鼻をついた。そして悲鳴と怒号。
なるほど、酒保商人の言うように砦が襲撃されたというのは本当のようだ。
石造りの廊下を進み、中庭に出ると傭兵達が慌ただしく走り回っていた。
「砦はまだ落ちていないようですね」
「ああ、エイグを探そう」
バシュ!
頭上で何かが破裂する音が響いたと思うと、傭兵が城壁から落ちてきた。
「ひっ!?」
ジュリアが悲鳴をあげる。その傭兵は顔の上半分が消えて無くなっており、下顎の歯と舌が剥き出しになった無残な姿を晒していた。
「大丈夫かね? やはり君は戻った方が良くないかね」
「い、いえ。大丈夫です。それより早くエイグを見つけましょう」
傭兵の一人を捕まえエイグの所在を聞き出す。エイグは西の櫓で指揮をとっているという。
三人は西の櫓に登ると、エイグの怒鳴り声で迎えられた。
「いいか! 今、一の砦から二百の精鋭が全速でこちらに向かっている! そいつらと合流して全員で突撃すれば今度こそ奴隷どもはお終いだ!」
「エイグ。それは聞き捨てならんな」
「伯爵!? どうしてこのような所へ!?」
「おおよその事情は聞いている。二の村の奴隷達が反乱を起こしたそうだな」
「は、はい。あいつら妙な武器を使いやして」
「武器?」
ソーントーンとジュリアは窓に近づく。櫓の窓は木の板で塞がれているが、僅かに隙間がある。そこから二人は外の様子を伺った。
「っ!?」
ジュリアが思わず息を飲む。
外は凄惨の一言に尽きた。百人以上の傭兵が屍を晒しており、しかも、その死体は先程、城壁から落ちてきた傭兵のように、まともな姿を保っている者はほとんどいない。
口元を抑え、ジュリアは窓から離れる。やはり連れて来るべきではなかったとソーントーンは後悔した。
バシュ!
死屍累々の中、固まって動かない小集団。そこから、魔術の光が放たれる。
赤い光は真っ直ぐに進み、城壁で矢を放っていた傭兵の一人を貫いた。
「あれは<火矢>か? それに奴隷たちの身を守っているのは<魔盾>か?」
「<炎弾>、<銃盾>という俺たちのオリジナル魔術です」
「小僧!?」
ソーントーンの呟きにグレアムが答える。それで始めてエイグはグレアムの存在に気づいたようだった。
「貴様! どういうことだ!? 今すぐあいつらを止めろ!」
顔を真っ赤にしてグレアムの胸倉を掴み上げるエイグ。
対するグレアムは冷めた表情で、
「無理ですね。ここから俺の言葉は届きませんよ」
「だったら、こうしてやるよ!」
エイグはグレアムの襟首をひっ掴み、そのまま櫓に隣接した城壁へと歩いていく。
グレアムの体を盾にエイグがその身を晒すとーー
「おい、おまえら!! 今すぐーー」
バシュ!
エイグの言葉を遮るように一発の<炎弾>がエイグを襲った。