冒険日誌【6/25】オーブの街:お昼の馬車に間に合うか?【前編】
ブランシュ「私のターンが真ん中ほどに出てきますの」
ノエル 「わたくしの声真似も出てきましてよ? 」
ナタリー 「声真似ネタはもうあたしがやっちゃったの~♪ 」
エクトル 「(うちの嫁たちは何を目指しているんだろうか……)」
うーん…体が重い…何か上に乗ってる?
柔らかい。女の子の体だな。姉さんかな?
「(ねえ、エクトルさん、起きてください)」
耳元で囁く声には聞き覚えがないな。
うむむ…うつ伏せに寝ているので顔が見えない。
仰向けになりたいんだが、そうすると俺の煩悩くんがおっきっきなのがバレてしまう。恥ずかしい…
「(わたし、エクトルさんのことが…気になっちゃって…)」
え?誰だ?恥ずかしいのも忘れて、慌てて体の向きを変え、仰向けになってみると。
「ノエルちゃんでした〜♪ ねぇ 騙された? 似てた? 」
小声とはいえ、まるで別人だったぞ。危ない危ないノエルちゃんにこんな声真似の特技があったなんて。
「……えっくん顔赤いのはなんでかな?なんでかな?」
「いやいやこれには訳があってだな…」
「問答無用!成敗!」「ぎゃ〜」
「お前たち毎朝こんなに賑やかなのか?」
「え〜?ノエルちゃんだけよね〜♪ 」
「わたしなら、ご主人さまの唇を黙って奪うのみデース♪ 」
見られるの恥ずかしいんだよ…言わせるな…
――――
さて朝食前に魔法の選択。
「マリアちゃん、後で魔道書の解読するから「魔法解読確保しといてね。」
「はい、分かりました」
うわ、ノエルちゃんの声真似ホントに上手かったんだな、本物を聞いて実感する。
用意が済んだので、当面不要なものは全部指輪に突っ込んで、すぐ使うものとダミーの毛布を背負い鞄に入れて一階の食堂へ。
追加二人分も昨日頼んでおいたから、みんなで朝食とってそのまま宿屋を後にする。
まず真っ先にやるのは、売却予定の品々を買い取ってもらうこと。家具や調度品、装飾品の処分は目利きのノエルちゃんと護衛の姉さんに任せて、残り四人は紙、布、貴金属インゴット、魔物素材を担当する。
さて、家具組は富裕層向けの商店の並びへ、俺たちは市場横の職人街との堺に来たのだが…どこに行けば良いのかな?鍛冶屋さんは一昨日門前払い食らってるからな…
冒険用品のお店を見つけたので、そこに入って買取してもらおう。入ると髭面な、いかにも山男風な店主がいたので、買取について聞いてみた。(ブランシュちゃんが、あざと可愛いさ発揮して)
「この紙や布のうち、上等な奴や特殊な奴はちゃんと査定して買取するが、普通の奴は『重さで幾ら』になっちまうからオススメしないがどうする?」
聞いたら銀貨数枚にしかならないみたいだから諦めだな。
「こっちのインゴットは正直転売したいくらいの品質だが、可愛いお嬢さん達からは暴利貪るのは主義に反するからなぁ…ここいらの鍛冶屋で一番腕が立つゴンスの旦那のとこに行きな」
「ありがとうございますですの」
邪悪さゼロのブランシュちゃんはかえって怪しいのだが…
そんなことは知らない店主さんは、地図に簡単な紹介文の一筆をしたためて渡してくれた。
地図を片手にたどり着いた場所は…
最初に飛び込んで門前払いを食らった所だった。ブランシュちゃんの見る目は確かだった、とはいえ…
「こ、怖いんですの…」
まあね…つい一昨日の話だし。代わりに俺が紙を持って店に入る。
「あのう〜すいませ〜ん」
「なんか用か?」
この髭面の小さなおじさんがゴンスさんらしい。ドワーフの人だったのね。いかにも、な感じだ。
紹介文を見せると、早く物を見せろと言うのでインゴットを全部取り出した。
「おい!お前自在鞄持ちか?」
あああ〜
『インゴットは重いので、複数の人間で分担して持って来ました~』って言う小芝居のために、四人集めたのに、そのこと忘れて全部目の前で指輪から出しちゃったよ。
全部、怖いゴンスさんが悪いに違いない。
「このインゴット…お前ら遺跡から掘り出して来たのか?これ…」
なんだろう?何か問題だったんだろうか?
「お前ら冒険者としての腕は確かだったんだな。この純度の高さ、よほど潜らないと手に入らない上物だ」
そりゃ〜、古代魔法文明時代の一品ですからね…冷汗
「おい、そこの嬢ちゃん、ちょっとこれ握って叩いてみ?」
「おーいブランシュちゃん〜?」
「は、はいご主人さま?」
―――― ここから暫しブランシュ視点 ――――
お店の入り口のそばで、
ご主人さまとドワーフの怖い人が何やら話してる。
耳に何も入って来ない。
早く換金終わらないかな?お店から出たい。
「おーいブランシュちゃん〜?」
もちろんご主人さまの声は別。
ちょっと高めでハスキーな声は、私の心を蕩けさす。
「は、はいご主人さま?」
「ゴンスさんが、これ握れって。」
柄が1mを超えるハンマー。すんごい使い込まれてて、握りがテカテカ。重そうだな。
持ってみた。うん、振れない重さじゃない。
「嬢ちゃん、この石の鍋の真ん中目掛けて振り下ろしてみろ」
大きな灰色の石を地面に置いた。これ、鍋なの?
逆さなのかな?平たい丸い石にしか見えない。
こんな所にハンマー打ち付けたら手痺れちゃうよ?
「ブランシュちゃん…出来る?」
ご主人さま、そんな辛そうな顔をなさらないで!
貴方が言うのなら、地球でも割りますのよ?
あ、割っちゃったら一緒に暮らせないな。ほどほどに。
「はい、大丈夫ですの」
ご主人さまの顔に安心が戻る。
涼しげな目に宿る暖かな眼差し。ご褒美♪
一丁やりますか。
「えいっと」
ハンマーの頭を頭上高く掲げて、
ピタリと固定し、集中する。
ツルツルの無地に頭の中で円を描きこむ。
何個も何個も。
大きさはマチマチだけど、中心はいつも同じ場所。
自分が高まっていくのがわかる。
「ココ!!!!」
頭の中で重ね描きした円の中心へ、弧を描いて振り下ろす。
『ぴ〜〜〜〜ん………』
耳を突き破るような甲高い音。
不思議。全然手が痛くない。
思い通りに体が動いた時の爽快感。
背筋がゾクゾクってする。気持ちいい。
今ご主人さまに背中触られたら多分イッちゃう。
今、わたし、目がとろ〜んとなってる。絶対。
せっかく余韻に浸ってるのに怖い人の声が邪魔する。
「こいつは…来い、嬢ちゃん、いや、ブランシュだったか?お前さん打ちてーんどろ?炉、貸してやる。やってみろ」
「すげ〜なブランシュちゃん」
ご主人さまが頭を撫でてくれてます。
もう頭真っ白で何も考えられない。幸せ。
「…………」
「え?…はいわかりました…」
「…………!」
「じゃあ、ブランシュちゃん、念願の炉だ。思いっきり楽しんでね?」
「…はい!」
ご主人さまたちは向こうに行ってしまいました。
なんだかわかりませんが炉を使えるみたいです。
ご主人さま、あんな怖い人と交渉してくれたのですね。
こんなポンコツ従者のために。
愛しています。ご主人さま。
貴方が言うなら、精一杯楽しんできますね。
――――
ゴンスさんがハンマー持ってきたときはどうしようかと思ったけど、ブランシュちゃんのテストしてたんだね。
ちゃんと芯に当てないと音もならないという不思議な石に対して、耳を突き破るような音を叩き出したブランシュちゃん。親方は大層気に入って、一振り剣を打たせろって言ってきた。
「俺たち、昼の馬車に乗るんですけど、間に合いますか?」
あれだけ炉を貸してもらおうと奔走していたブランシュちゃん、その熱意が叶うチャンスかもしれない。
「なーに、あいつなら一時間で終わるだろ。見ただろ?あんたも。昼前にここにきな?」
「え?はいわかりました…」
街一番の親方が言うならそうなんだろう。
「じゃあ、ブランシュちゃん、念願の炉だ。思いっきり楽しんでね?」
「…はい!」
ブランシュちゃんも幸せそうだ。
行こう。ノエルちゃんたちと合流して、報告しなきゃ。
――――
市場に向かってくる彼女たちを見つけて合流。
話を聞いたノエルちゃんは目キラキラである。
「えっくんは姉さま連れて食材の買い出しね。お金の心配は要らないわ!美味しそうなものお願い♪ わたくしはボルさん達に案内してもらって、見に行ってくるわ♪ 」
昨夜話してて、ボルフェンク達が一つ年上だと判明したせいか、ボルフェンクの呼び方が変わってる。そして見るからにご機嫌なのは、価格交渉がうまくいったのだろうか…
「ノエルちゃんは放っておいても構わないから、将来店で使いたい道具とか物探して買っておいてね。しまっておけば運べるから」
指輪を見せながら伝え終えると、俺と姉さんは二人で別行動だ。
「うふふ〜♪ エクトルくんとデートね〜♪ 」
「今日は…当番とやらは姉さん、ですか?」
「そうよ〜♪ ノエルちゃんも半分は気を使ってくれたんだわ〜♪ 」
心底嬉しそうに俺の腕を取る姉さん。
まずは野菜から市場を見て回る。根菜と豆がメインで葉物野菜は今晩食べる分くらいにしておく。
野菜が終わったら、次は隣の果物屋さんだ。
巨大な缶一杯に果汁水を入れてくれ?なんて言ったら、びっくりするだろうから、諦めて柑橘系の果物を買っておく。
一応水筒に果汁水を詰めてもらうんだけどね。多分一瞬で空っぽになるんだろうな…
バナナ、マンゴー、桃、と片っ端からカゴに入れていると、謎の格好のお爺さんが音もなく俺たちに近づいて来た。
音もなく近くだけでも不気味だけど、格好が…
なぜ街中で黒のタキシード?そして被る帽子が麦わら帽子…
目だけ隠す金のマスクといい、周囲に馴染む気ゼロですね。
「フハハハハハ〜お嬢さん、この桃が取れるかの〜? あん?」
カゴのてっぺんにあるはずの桃が無くなり、お爺さんの手にした杖の上には桃が!え?いつのまに?そして桃落ちない!桃使いの達人?
お爺さん、桃を上に放り投げると、くるっと一回転して後ろ手でキャッチ。大道芸人なら拍手喝采だろうに、なんか見てるとイライラする。それ、まだ金払ってない売り物だから!
「そなたのお尻じゃと思って慈しむとするかの〜? 胸に見立てるにはちと大きいしの〜?」
「ご老体は労わるものだと教わってきたが、不埒な輩はその枠には入るまい」
ヤバイ。姉さんの地雷踏みやがったこのじーさん。
姉さんは店の横に立て掛けてある棒を槍のように構えて鬼モードに。
「参る!」
「フハハハハ」
槍モドキを突き込みながら桃に手を伸ばす姉さんと、その槍モドキを杖でいなすじーさんの壮絶なバトルが始まった。
姉さんが槍モドキの穂先を素早く繰り出し、じーさんはそれを避ける、払いそらせる、躱す。杖をクルクル回して弾いたり、素早く突いて軌道をそらしたり。
「はっ!はーっ!はーっ!」
「ハイ、ホイ、ホホーイ♪」
膠着し、睨み合う二人。
手も足も出ない俺。
「お嬢さんにはまだ覚悟が足りんようじゃの〜。恐れ、迷い、が穂先に現れてるようじゃの〜」
「知ったような口を叩くな!」
飄々としたじーさんと凛々しい鬼モード姉さん。
二人は凄い速さで打ち合いながら会話も続けている。
「人は人に寄り添い、恐れや迷いを克服するもの。一人意気がる小娘ではその根深い絶望は拭えまい」
「フン!」
どうしてこんなに動き続けてるのに息一つ切れないんだ?
「過去に向き合い己を知る。不安なそなたの支えがすぐそばにいるではないか?」
「うるさいうるさい!」
明らかに姉さんは動揺している。武の道に疎い俺にだって分かるレベルで。
「守る、を極めるのじゃろ?」
「……」
おもむろに桃を俺に投げるじーさん。慌てて受け止める俺。
「中々に楽しかったの〜。また会おう、フハハハハ…」
そう言うや否や、凄い速さで去って行った。
摺り足で物音一つ立てずに。
なんか動きの滑らかさといい色といい、女性に嫌われるとある虫のようだった…
その後、買い物は無事に終わったのだが…姉さんの落ち込みようは酷かった。ずっと思いつめた目をしてる。
「姉さん、いや、ナタリー。俺はここにいるよ?」
「うん…うん…」
姉さんはしばしの間、俺の腕の中で哭いていた。
あらすじ 変なじーさんに挑まれた




