冒険日誌【6/23】オーブの街:大発見からの人助け
ナタリー 「光あるところに魔物が湧いて」
ノエル 「その魔物を人間が待ち構えるって」
ブランシュ「イカ釣り船みたいデース♪ 」
エクトル 「途端にかるーくなったな……」
(前回 秘密のトンネル開いたら後ろの扉閉まってどうしましょ?の続きじゃ)
「後ろの穴が…埋まって壁になってる…」
あれ?
俺たち、初心者用遺跡から追い出された??
しかし気の早いブランシュちゃんとお宝の匂いに目の色を変えた姉さんが通路の先に出てしまった。
「姉さん達と分断されたらマズイ!早くおいで!」
「きゃっ?」
ノエルちゃんの腕を強引に引っ張り、左肩に抱き寄せると、ノエルちゃんを肩に抱いたまま通路を駆け抜ける。穴の先は、さっきの初心者通路と同じくらいの幅がある通路で、当然光の魔石なんて備わっていない。先に飛び込んだ二人がそれぞれ自分のランタンを掲げ、左右に展開して索敵してくれていた。
そのまま俺も索敵の為踏み出そうとするも、ノエルちゃんががっしり俺の体に腕を回し離れようとしない。
「えっくん…強引でちょっと…良かったよ…」
顔が上気し、息も絶え絶えなのが分かる。
俺の妻がこんな緊張の場面で、可愛い生物になっちゃってる!
「ほら、行くぞ?」
努めて冷静を装いつつ、おデコにキスしてから散開した。今頃更に顔真っ赤になってるかと思うとニヤニヤだ。
――――
まずは人や魔物の気配の察知、要は索敵だな。いきなり見知らぬところに来たから、まずはこの場所の安全具合を確認しないとね。ここでもやはり、獣人超センサー+盗賊上位互換の聞き耳スキル、ということでブランシュちゃんの出番だ。ここは坂の途中にある通路のようなので、坂の上と坂の下、どちらにどんな気配があるか探ってもらう。
「上は……遠くの方に人がいる…人だけみたいなのです…。下は…え?割と側に人と獣?……暴れてる…マズイかもですの」
「エクトル聞いた?助けられそうなら助太刀するぞ?」
姉さんが男前過ぎて俺の出番ない(笑)2ー1ー1のフォーメーション(先頭がブランシュちゃんと姉さん、真ん中俺、殿がノエルちゃん)でなるべく音を立てないように坂道を降りる。
扉のない少し広い部屋のような場所に出ると…
左奥の壁際に、魔術師風の女の子が壁を背にして立ち、その子を庇うように戦士風の少年が剣を構えていた。その先には豚の顔をした人型モンスター二体。棍棒とボロボロの盾を手にしたオークだ。
俺たちに気がついたのか、少年が叫ぶ。
「ちょっと苦戦してる!僕が食い止めてるから、すまないがこの子を連れて上に逃げてくれないか?」
「ダメだよボルくん!!ボロボロじゃない〜!お願い助けて…」
最後は消えゆくような小声になったのは、見ず知らずの人間に助けを求め躊躇したのか…涙声で訴える女の子を無視する度胸は俺にはないから関係ない。ただのオークならどうにかなるだろう。目線でお嬢たちに合図を送り、全員の同意を得ると、オークの後ろから散開して先頭開始だ。
今回は2パーティとモンスターの変則マッチとなったようだ。
イニシアチブは俺たち。ノエルちゃんが補正値込みで10を叩き出す。は、反則だろ…なんだその数値…
ちなみに他人がいるのでオープンダイス(キャラシートとサイコロを具現化して振ること)は出来ないが、結果の値は何故か知ることができる。不思議だが、世界の法典さまさまということだろう。見えないのでノエルちゃんのダイス変換は本人しか使えないから気合が重要だな。
こちらの戦術はブランシュ(弓矢オーク奥)、姉さん(オーク手前に移動)、ノエルちゃん(少年前に移動)、俺(魔法の矢オーク奥)である。少年たちを庇いつつ、最大火力でまずは奥のオークを落とす。既に混戦なので眠りの霧が使えないから、俺たちらしくない力押しだ。
先制は当然俺たち。いきなりブランシュちゃんの矢が唸りを上げて飛んでいく。命中23、ダメージ10!うちの従者はホントに20面体と六面体のサイコロを振ってるのだろうか?達成値がおかしいのだが…
とにかく、もうすでに奥のオークはヨレヨレな感じになった。
うちの前衛陣二人はオーク手前と少年の間に割り込む。なんか二人とも帽子の羽を光らせてたから、バフも発動させたのだろう。
俺の番、実は3レベルで初めて使う魔法の矢、矢の本数が二本に増えてます。必中だからダメージのみサイコロの出番。四面体を二回振って、2と3、これでも俺としてはまともな出目だ泣。ダメージは7。
あ、落ちた。奥のオークはドスンと倒れ、あとは手前の1体のみ。恐怖判定は失敗したらしくまだ向かってくる。
次は少年たちのターンだが、構えるだけで特に何もしない。
オークのターンは、少年の前に姉さんが割り込んだので行動キャンセル。
次のターンはあっけなく終わった。
ブランシュちゃんの弓が唸り、ノエルちゃんが少年の傷を癒し、姉さんがオークの首をひと突きでオーク撃沈。こちらの完勝となった。うん、俺の出番は前のターンですでに終わっているからね。
――――
「ボルくん良かった〜」
女の子に抱きつかれた少年は照れながら
「君たちには命を救われた。ホントにありがとう。俺はボルフェンク、こっちはマリアだ。」
「エクトルだ。間に合って良かった。同意もとらず助太刀したことを許してほしい。」
「彼女が叫んでただろ?助けて〜って。だから同意の元さ。ていうか、貴女達は強いな。驚いたよ。えーっとエクトル…の…?」
「エクトルの婚約者のノエルですわ!」
「エクトルのお妾さんの、ナタリーよ〜♪ 」
「エクトル様の秘事従者、ブランシュデース♪」
「(なんかもう酷過ぎて突っ込む気も起きない……)」
「お、おう、なんかエクトル大変だな……」
これはまずい話題を変えねば……
「そういう、ボルフェンクとマリアは? 仲良さそうだよね? 」
「え?まぁ……」
「あの……その……」
二人して真っ赤になったのまでは予想通りでニヤニヤしていたんだが、その直後に二人の顔に重い影が差す。これはちょっと予想外……
「俺たちは四人で村を出て来たんだ……ううっ……」
「小さい頃からいつも一緒だったの……ううっ……」
「わかった。その話はまた後でにしよう。今は安全にここから出るのが先決だ!」
二人とも感情の糸に操られ泣き崩れてしまったので、とりあえず外の安全な場所に避難することを優先する。この坂を登っていくと出口らしい。出口を出ると、さっき俺たちが入った推奨ダンジョンのちょっと横だった。まあ、隣に移ったんだから当然か。
暫し考え、俺たちの宿の部屋で話を聞くことにした。人の目がある所では人目を引きそうだし、彼らの馴染みの場所もまた、辛くなる要因になりそうな予感がするからね。
道すがら、自然と男女に分かれて前後2列の塊になって歩く。俺とボルフェンクはお互い何かに想いを馳せながら終始無言。別に合わないとかじゃなくて、むしろ無言でいても苦痛じゃない間柄という感じだ。
うちのお嬢様達はマリアさんにつきっきりで面倒を見ている感じ。放っておけないんだろうな、特に姉さんが。マリアさんは姉さんの、戦闘時とのギャップに驚いていたが、それすらもネタにしてしつこい位に構い続けている。それが相手を慮る優しさから来ていることが分かる位には彼らも大人なようだ。
――――
部屋に着くと重苦しい空気に包まれる。最初に口を開いたのはボルくんことボルフェンクだった。
「俺たちとレオンとルーカスの4人は同じ村ノルデン村で育った幼馴染でな。一昨年マリアが成人して魔術師になったのをきっかけに4人でこのオーブの街にきて冒険者を始めたんだ。」
「成人の儀式で魔術師になるってすごいな!」
そう、成人岩に祈りを捧げると何かしらの職に就くのだが、そこで魔術師になる、ということは余程本人に才能があるか、成りたいと願っていたか、だ。
「俺たちは農作業で一生が終わるのが嫌でな、密かに冒険者に憧れていたんだ。そこに15になって嫁入りがすぐそこのマリアが先に成人の儀式を受けて魔術師になったもんだから、そりゃ大騒ぎさ。俺たちもそれぞれ成りたい職を一生懸命神様に祈りながら儀式を受け、目出度く認められてパーティを組んで村を出たわけだ。」
なるほど。皆冒険者を願いながら儀式を受ければね。ただ願うだけじゃなくて、実際に見習い的なものを始めていればその確率が上がるんだけど、その秘密をあまり知る人はいないな。
「こっちに来て冒険者の洗礼を受けてね。俺たちも安全路線で行くか危険で実入りのいい方を取るか散々揉めたさ。君たちもわかるだろ?」
俺たちは世界の法典というネタバレを知っているから申し訳ない気持ちになる。
「たまたま一度挑戦した推奨外ダンジョンで一山当ててレベルが上がったんで…調子に乗っていたんだろうな。あのダンジョン、推奨ダンジョンのすぐ隣で掘りつくされていると思われてるけど、秘密の抜け道があってね。そこを独占すれば強くなれるって息巻いていて……」
俺たちもまさかの推奨ダンジョンからの抜け道発見に心躍っていたから気持ちはわかる。
「盾戦士のレオンと軽戦士の俺、神官のルーカスと魔術師のマリア……盗賊のいないパーティで行ける場所じゃなかったんだ……ううっ……」
「レオンくんが槍の罠にかかって大けがして…それを治療しようとしたルーカスくんが追加の罠に……」
二人の悲壮な顔から何が起こったのか大体予想がついて辛かった。
「罠が発動すると魔物が召喚される凶悪な仕組みで、動けない二人は炎の魔物に焼かれて……」
「ううう……」
泣き崩れる二人に掛ける言葉もなく俺は唖然としていた。姉さんはマリアさんを優しく抱きしめている。俺なんか何も出来ないのに……姉さんありがとう。
「あとは俺の独断で嫌がるマリアを抱えて逃げ出した。何度か魔物たちに襲われつつもうまく逃げて秘密のダンジョンからも脱出し、気が抜けたところであのオークたちに襲われた、ってわけだ……ほんとにあの時はヤバかった。助けてくれてありがとう。俺たちは軽率過ぎた。間抜けだな……」
「いや、俺たちもな、抜け道見つけてはしゃいでいたところをボルフェンクたちを見つけて助けに入って冷静になれただけで、一歩間違えれば同じ道を辿っていたんだ……」
真相を辿って再度重苦しい雰囲気になる。でも今後の方針を決めないとならないのが人生というものだ。
「辛いところに追い打ちかけるようで悪いんだが、ボルフェンクたちはこれからどうするんだ?」
「うん……そうだよな……今は正直何も考えられないけど、君たちへのお礼もまだ出来ていないし、今晩一晩ゆっくり考えてマリアと相談して決めるよ。」
「お礼なんかは正直どうでもいいんだ、たまたま困った人がいたから助けた、ただそれだけだから」
「ありがとう。その気持ちは嬉しいが、礼はしなければならないしな。迷惑じゃなければ、明日の朝、またここにお邪魔して伝えるから、それまで少し待っててくれないか?」
「ああわかった。ここで待ってる」
ケガはないものの衰弱の激しいマリアちゃんを抱きかかえるように、ボルフェンクは部屋を出て行った。
――――
鎧こそ脱いだものの、特に出かけるでも何かするでもなしに俺たちは部屋にいた。
俺はぼーっとベッドに腰かけて放心していた。
気が付くと姉さんの大きな蒼い瞳が俺をじっと、優しく見つめていた。
「エクトル……人生生きていればどうしようもないこともあるもの……お姉ちゃんも一度すべてをなくしたけどあなた達に会えてまた人生が動き出した。彼らの時計もまたいつか動きだす時がくる。あなたが気に病むのも程々にしないとね♪」
そのまましなやかな体にぎゅーっと抱きしめられた。姉さんの体は暖かかった。
「ナタリー姉さまの一人勝ちは許さないのデース!」
「あーもう姉さま、今日はわたくしの番ですのに良いところ全部持っていかれてしまいましたわ!」
婚約者様と従者様が姉さんの後ろから飛びついてきて、支えきれずに四人でベッドに転がる。
「あはは……」
この奥さんたちには適わないな。
何に苦しんでいたのか自分でもわからないけど軽くなったのは間違いない。
「ご主人さま?ブランシュは地獄までお供いたしますわ~!」
「それ死んじゃってるからダメじゃん。それにそこは『天国まで』じゃないの?」
「エクトル~♪ 天国といえばお姉ちゃんよね~♪ 」
「姉さん、それどういう思考回路ですか?いやまぁ天国のココチといいますか……」
「だめ~今日はえっくんは私のなの~! んんん~~あっ!……」
いきなりノエルちゃんに唇を奪われた。それもすんごい深いやつ。
「お姉ちゃんも~♪ ふふ…んん~はぁ~♪ 」
「ご主人さま~まだ飛んじゃだめですの~ んん~ん~っふぅ~♪ 」
次々に襲われ幸せに包まれて意識を手放した……
――――
目を覚ましたのはもうすっかり日も落ちた夜。まだ飲み屋ならやってる時間だったので、すきっ腹にかっ込みつつ、4人で色々話しあって対応案も決めておいた。あとはボルフェンクたちが明日なんて言うかだな。せめて後で後悔しないようにしてくれるといいな。
あらすじ 満を持して子羊に襲い掛かる狼たち




