冒険日誌【6/18】風の谷:1番長い日?
ナタリー 「この、長い日、ってな〜に〜?」
ブランシュ「日照時間の長い夏至の日の事デース♪ 」
ノエル 「ここでもボケるのね?えっくんの台詞最長ってことよ? 」
エクトル 「え?俺、これからそんなに喋るの?」
茎さま 『文字数最長ってのが町の噂だな』
ミズハ 『読み応えあるのじゃ!途中で挫折してはならんぞ?』
三人称視点にしてみました。
エクトルは一人、宿屋の部屋にいた。飾りっ気のない部屋だ。
女の子三人に囲まれていると分からないけど、独りで居ると広くて静かな事を実感する。
ベランダから見る景色は、二階なのでそれほど眺めが良いわけでもない。
が、心地よい風が吹いていて、そこかしこにある風車が心地よいリズムを刻みながら回っている。
「ああ、この景色もミズハのおかげなんだね…」
『其方がそう思ってくれるだけで、妾も甲斐があったというものじゃ』
ふわふわと浮かんだ水玉がエクトルの周りを廻る。水玉から顔色を伺うことは出来ないが、どことなく楽しそうである。
ベランダは通りに面しているので、行き交う人々の姿が見える。
忙しそうに早歩きでどこかへ向かう者、通りの対面にある雑貨屋にて何かを物色する若い男女、焼きたての串を手に食べ歩きをする少年…
この町は発展途上にあるのか、若い住民が多く活気に溢れている。つい今朝までの澱んだ雰囲気は風と共にどこかに去って行ったようだ。
ここにいるエクトルという青年が、水の女神との契約を契る事でここまで町の顔つきが変わったのだから、彼は立役者ということになろう。しかしそれを誰かに伝えるつもりはない。
好奇心で首を突っ込んだ挙句、幸運にも事態が収まった、ただそれだけだと考えた。
英雄になる事も憧れはするが、柄では無い。無辜なる市民として普通の幸せを楽しむのが性に合っている。
そうでなくても彼にはあまり知られたく無い秘密が多いのだから。
通りの向こうから、彼がよく知る女の子三人が連れ立って歩いてくる。
背丈も体型もタイプもバラバラな三人は、今は、見たことのないお揃いの服に身を包み、楽しそうにお喋りの花を咲かせている。
さっき別れる前までは、各々職業装備を身に纏っていたはずだが、買いたての服に着替えたのだろうか?
一番小柄な女の子がベランダの彼に気づき手を振る。彼が返事するように手を振り返すと、今度は三人揃って満面の笑みで手を振ってきた。
編み込んだブロンドの長身の娘、こげ茶の髪を真っ直ぐ下ろした柔らかな曲線の娘、肌も髪も白く小柄な娘、三人とも人が振り向く美少女と言っていい。
彼女達はお喋りを休むことなく、このベランダのある宿屋のドアを潜り、階段を上がってくるのがさえずる声で手に取るように分かる。
ドアが開き、声が意味を伴う形でエクトルの耳に入る。
「えっくん聞いてよ〜、ブランシュったら何をやってたのやら、道でばったり出会った時、手も服も真っ黒だったのよ〜」
「秘密の風車を直したり秘密の道具を作っていたら、そうなってしまったのデース♪ 」
「女の子がそんなではいけません〜ん♪ って姉さまがお怒りでね?」
「ブランシュちゃんの新しい服見繕うついでに〜お姉ちゃん達も同じの買っちゃったぁ〜♪ 」
「これで見た目も三姉妹♪ 可愛いでしょ?」
鮮やかなグリーンのブラウスと茶色のキュロット。森の妖精さんたちが集まったみたいだなとエクトルは思った。
水の女神に昇格した精霊とのやり取りがあった直後なので、半ば無意識に狙ったのかもしれない。
「えっくん? 聞いてる? 」
「ああ、とっても似合ってて、可愛いよ」
「ご主人さま…何かあったのデスか? 」
「エクトルくん、何か難しい事、考えてる? 」
「えっくん? どうしたの? 」
正直な事を言えば、さっきまで思ってた事を、どう伝えるか? そんな事を漠然と考えていただけだ。
多少思い詰めた感じが顔に出ていたかもしれない。でもそれを察して、流すべきでは無いと感じて、心配してくれている。
それが嬉しくて、そして敵わないな、とも思った。やっぱり頃合いだな、とエクトルは己を奮い立たせて言葉を紡ぐことにした。
「えっとね…」
恥ずかしがるような、言い出し辛そうな、それでも言わねばならないというエクトルの表情は、なかなかにレアなのだが、それに茶々を入れる者はいない。固唾を飲んでじっと次の言葉を待っている。
「ノエルちゃんとは小さな頃からいつも一緒で、父さん達が王都に行ってからは、メルシエ家が俺を育ててくれたようなものだと感謝してる。成人してなんとか独り立ち出来た後も、ノエルちゃんは変わらず俺を見てくれていたよね。」
ノエルは小さく頷く。二人は黙って見守っている。
「俺もノエルちゃんしか見えてなかった。だから、冒険者として一緒にやって行ける、ってなった時に、凄い嬉しかったんだ。」
彼女はまたも頷いて続きを促すように彼を見つめている。
「いずれ、ノエルちゃんにちゃんと好きだって伝えよう、そうすれば旅は一層幸せなものになるだろうって、そう思ってた。」
彼女の満面の笑みが陰り、何かこの先悲しい物語が待っているかのように、表情が硬くなった。最後が過去形だったからだろう。
「そこにナタリーさんが現れたんだ。」
ナタリーは突然出た自分の名前に驚きつつ、エクトルの目をじっと見つめる。
「うまく言えないけど、可愛い人だなって思った。あ、容姿だけじゃなくてね? 普段の明るさも、誰かが辛い時の包み込む優しさも、いざという時の凛々しさも、そんなものを全部ひっくるめて、可愛い人だな?って」
ナタリーは彼の言葉が予想外だったらしく、照れ笑いしている。
「そんな可愛い人が、その人格が、辛い経験から来たものだと聞いて、放っては置けなくなってた。どんだけ偉そうなんだろうな、俺。」
自嘲気味に語る彼に、首を横に振りながら目を真っ赤にするナタリー。さっき表情を硬くしたノエルは、今は穏やかに見守っている。
「ノエルちゃんがナタリーさんと姉妹みたいに仲良くなってたのもあるけど、やっぱり、ナタリーさんが大事な人になってたから、茎さまの事、話したんだと思う。そんなタイミングで、今度はブランシュちゃんを助け出すことになった。」
ブランシュはここまでですでに涙ぐんでいたが、やはり自分の名前が突然出てきて驚き、彼をじっと見つめる。
「あのタイミングでは、まだブランシュちゃんの記憶は戻っていなかったんだけど、あの背負ってきた晩に、パウロさんから許嫁の話を聞いたんだ。」
三人は黙って続きを促す。
「そりゃ嬉しかったよ。夢にまで見たノエルちゃんとの生活が、親公認、そして何よりノエルちゃんはすでに知っていて、それを嬉しいと思っていてくれた事、天まで昇る心地だった。なのに俺はパウロさんからの提案に即OKせずに、猶予を求めたんだ。パウロさんはなぜか俺らしいって笑って許してくれたんだけどね。」
ノエルは口を開いて何か言おうとしたが、思い留まり続きを促した。
「王都で父さんに挨拶なんて、その場の思いつきで言い訳に過ぎないと今なら分かる。ノエルちゃんには悪いとは思いながらも、でも、ノエルちゃんだけを選び、ナタリーさんを外すという決断が出来なかったんだと思う。それからは、ナタリーさんともノエルちゃんとも微妙な距離を保ったまま、でも、今の関係を壊したくなくて、どこかこのままでもいいかな?と逃げてた。」
三人は涙をポロポロ流しながら黙って話を聞いている。でも、さっきまでの不安や憂いは見当たらない。
「ブランシュちゃんが記憶を取り戻した後は、その経緯の非日常さもあったけど、ただただブランシュちゃんに圧倒された。凄い子が来たって。対象が俺なのは未だによく分からないけど、覚悟というものはこれだ!って見せつけられた。あんな熱烈な想いをぶつけられて、平静でなんかいられなかった。」
珍しくブランシュが顔を真っ赤にしている。
「決断出来ない情けない俺に…こんな…いい娘たちが……」
エクトルはここまで言うのが精一杯、とでも言うように、声が喉に詰まり、続きが発せなかった。
目を真っ赤に腫らせ、肩を震わせ、俯き何かに耐えるように。
「えっくん…私に悪いって思ってたの?…もう、ホントに大馬鹿なんだから…」
「エクトル、ごめんなさい。お姉ちゃんっていう立場が楽で逃げてたんだから、あたいも一緒だよ?ホントはノエルちゃんとも貴方とも、ずっと一緒に生きたいって決めてたのに、最後の一言を言って欲しくて、ずっと待ってるだけだった。」
ナタリーの目は真っ赤なままだけど、今は慈愛溢れる瞳でエクトルを包み込んでいた。
「ブランシュちゃんが加わって、凄い可愛くて一途で、とでも敵わないなって思った。でも、それでもいいって思ったの。だって、エクトルくんがあたしも選んでくれたとしたら、そこにブランシュちゃんが増えて今更三人になっても、もうどうでもいい違いでしょ?ふふふ」
今までの緊張の反動か、三人とも柔らかな笑顔で見つめている。エクトルは黙って俯いて聞いているだけだが。
「ブランシュちゃんは絶対にエクトルくんを裏切らない、だって神に認めさせたほどの強い想いなのよ?それをエクトルくんが受け入れるんならあたしに否応はないわ。むしろこれからどんどん楽しくなる、幸せになるんだって。」
「ナタリーさま、ちょっと違うのです…私が、
“違いますの。生まれ変わる時、エクトルさまの従者になりたいと強く願ったら、神様がその願いを汲んで、魂に称号として、刻んでくれたのデース♪ ”
と言った時、本当は、私に生きる喜びを与えてくださった殿方と添い遂げられるのであれば形はなんでも良かったのです。すでにお二人が不確定ながらも確かな絆でご主人さまと結びついてると気がついていたので、それならば、従者となるのが、一番禍根なく勤め上げられるだろうと。そこまで汲んで神様は私にあのように過分な称号を与えて下さったに過ぎません。私はナタリーさまに敵わないなどと思われるような、凄い人では無いのです…」
ここまで言うのがやっと、でも言えた、が、彼女のこの時の心境だろう。もう涙と嗚咽で何も言えなくなっていたのだから。
「完璧美少女だと思ってた、最高神からの御使にも、ちょっぴり邪心が紛れ込んでいたのね?それを汲んであげる神様は素敵というか、鬼というか。複雑ねえ」
「それは神の使徒としては由々しき発言ですわ!」
ノエルはすっかり調子を取り戻し、戯けて言う。
「わたくしも、ナタリー姉さまと巡り合った頃は葛藤してましてよ?姉さまは最高の人、姉さまの事大好き、離れたくなんかない。それに私には無い力、出来ない事でえっくんを支えてあげられる。こんないい事づくめなのに、えっくんはわたしだけのものにはならない…と…」
「それはそうよ〜お姉ちゃん邪魔しちゃったんだもの〜ノエルちゃんが一番の被害者だわ。エクトルくんとノエルちゃんは生まれた時からご縁で結ばれていたのに、あたしたちが割って入っちゃったんだからねぇ」
「それは違いますの、姉さま。ブランシュちゃんが加わった後、考えて気がつきましたの。四人がこうして巡り会えた結果、皆が全員、幸せになる一番の方法は、みんな一緒に暮らす事だって。そりゃーこれから先、喧嘩もしたり嫉妬もしたり、色々ある事でしょう。それでも、誰かを蹴落として得た幸せはまやかしでしかない、そんなものはすぐ化けの皮が剥がれ後悔に苛まれる事になる、と。」
「ノエル…さま…」
「ヤダもう、ブランシュちゃん。さまづけはやめてよね?今すぐは難しいかもしれないけど。わたくしたちは全員同格、共に並んでえっくんのそばに侍る者になるんだから。」
「え〜嫌よぅ〜お姉ちゃん、お妾さんって立場、結構気に入ってるんだからぁ〜♪ノエルちゃんには出来ない、背徳的な事も出来そうでしょ〜?」
「それを言うなら私も従者の方が、ご主人さまにあんな事やこんな事、色々ご奉仕出来るのデース♪ ご主人さまに無理やりやられちゃうのもドンと来いデース♪ 」
「あんたたちねぇ…揃いも揃ってボケられても拾うのわたくししかいないのですわよ? じゃなくて、同格とは……ってわかって言ってたんでしょ!」
二人とも舌を出すのはお約束である。
「と言うわけで、えっくん?」
彼女たちの心が通じたのか?はたまた寸劇にいつものペースを取り戻しつつあるのか?エクトルは真っ直ぐにノエルちゃんを見つめている。その目には、もう迷いはないようだ。
「ああ、もう大丈夫。」
気持ち、居住まいを正してから、
「ノエル?」
「…はい……」
「ナタリー?」
「は〜い〜」
「ブランシュ?」
「はーいなのです」
三人の名前を順に呼び、三者三様の返事を返すと、
「不甲斐ない俺だけど、三人とも大好きでなによりも大事な宝物だから…いつまでもそばにいておくれ?」
「「「はい!」」」
「女の子たちにここまで言わせるなんて〜えっくんは最後までヘタレね?ふふふ」
「ううーすまない…」
「えっくんはホントしょうがないわね〜 こういう時は、ありがとう、の一言でいいのよ?」
過去にも全く同じ台詞を言われたエクトルである。
――――
『どうやら話はまとまったようじゃな』
「あ、ミズハ、上手くかどうかは分からないけど、お互いに想いを伝えて、なるようになった感じかな」
「ミズハさま…全部ご覧になっていたのですね?…」
そっと姿を消していた水玉が再び姿を現した。
我に返って恥ずかしがるノエル。
『ふふふ。なかなか楽しいものを魅せて貰ったぞ? されば最後は三人との婚約の儀であるな?』
「婚約の儀??」
『女神である妾の前で誓いを立て接吻するんじゃ(ニヤニヤ)』
「はぁ…なんかミズハが面白がってるように見えなくもない…けど…」
美少女たちはヤル気に溢れているようだ。
水玉はそっとエクトルの耳元に近づくと、
『…ちゃんと舌を入れるのじゃぞ?…』
と、そっと彼にだけ聞こえるように呟いた。
『三人相手は大変かもしれんがのぅ…ふふふ』
こちらは誰にも聞こえてないようだ。
まず、最初はノエルとの儀。
「えっくん…宜しくね?」「うん」
二人はそっと抱き合い、それから唇を重ねる。
そして、言われた通り、彼は舌を挿し入れ彼女の舌と絡める。
「ん!…うぅ……」
「ん〜!…ぁ…はぁん……しゅごい…」
二人の背筋に雷が走り甘美な快感に言葉も出ない。
先に意識が戻った彼が慌ててぐったりした彼女を支える。彼女の瞳はまだどこか虚ろだ。
「えっくん…これ…しゅごい…あたままっしろ…しびれちゃう……」
これから同じ事をする事になる二人は驚きつつも興味を隠せないらしく、そわそわしている。
『どうじゃ?ノエル、婚約の儀は?ふふふ。妾の祝福付きは強烈じゃったようじゃの』
「はい…今までにない気持ち良さでしたわ…」
エクトルは半ば腰の抜けたノエルを優しくエスコートしてベッドの片隅に座らせると、今度はナタリーの前に立つ。
「お姉ちゃんもエクトルくんの妻になりま〜す♪」
「改まると、ちょっと恥ずかしいね…」
「…全開でいくわよ?…」
二人は軽く抱き合うと唇を重ねる。
示し合わせたかのようにタイミングを合わせ、お互いに舌を挿し入れ絡め合わせる。
「ん!…うぅ……うぅっ…」
「ん〜!…いっ……くぅ……あぁん〜」
二人は快感の渦に引き込まれ、エクトルは辛うじて踏みとどまってるものの、ナタリーはキツく彼に抱きつき必死に耐えるも声を漏らしてしまう。
「…お姉…ちゃん…腰抜けちゃっ…た…」
そう言うのがやっとなナタリーをベッドにエスコートして、エクトルは最後にブランシュの前に立つ。
「私も…ご主人さまの妻になっていいんですの?」
「ああ、もちろんだよ。妻になっておくれ?」
「はい!嬉しいのです。ご主人さまの精全部吸い取るべく頑張るデース♪ 」
「ここでそれかよ…(笑)」
「…ご主人さま〜」
言葉とは裏腹に優しく抱き合いそっと重ねる。
彼が舌を挿し入れると、充分深く入るのを待ってから、彼女の舌が彼のを巻き取るように濃密に絡み始める。
「ん!…うぅ……うぅっ…くっ…」
「ん〜!…もぅ……くぅ……らめ〜」
ブランシュは背伸びしたまま全身を震わせ、固唾を飲んで見つめる周囲をよそに、硬直し気を失うまで絡ませ続けた。
全身脱力したブランシュをなんとかベッドまで運んだエクトルはそのまま精根尽き果ててベッド横の床に転がり落ちてしまった。
「えっくん…大丈夫?」
「頑張りすぎよぅ〜♪ 」
『エクトル、妾が残っておるのじゃが…』
「ミズハ…もうダメ。なんか空っぽって自分で分かる…」
『仕方がないのぉ〜妾はまた今度で我慢するかの♪ 』
「それにしても〜すごかったわねぇ〜♪ 」
「えっくんとキスした女の子は全員妻になっちゃう威力よね…」
「秘密は死守するのデス!」
“ブランシュちゃんも復活したんだ〜”と締まらない事を考えるエクトルであった。
あらすじ まだ終わらなかった。